世界60カ国で人材サービス事業を展開するアデコグループが、CSR活動の一環として実施する「CEO for One Month」。これは次世代のリーダー育成を目的として、CEO業務を体験するインターンシッププログラムです。日本でインターンCEOに選ばれたのは、立命館大学3年生の久乗亜由美さん。その活動内容は「女子大生、1カ月限定でCEOになる」(http://woman.president.jp/articles/-/678)などの記事で紹介してきました。

久乗さんはさらに、世界30カ国でCEO for One Monthを体験した34人の中からたった1人、「Global CEO for One Month」に選ばれました。グローバル企業のCEOを1カ月、インターンで体験したのです。アデコグループCEOのアラン・ドゥアズさんに密着し、世界各国の経営会議やオフィシャルイベントなどに参加しながらグループCEOとしての業務を経験するGlobal CEO for One Month。その一環として、東京のアデコ株式会社を訪れたドゥアズさん、久乗さんにお話を聞きました(取材は2015年10月に実施しました)。

アデコグループCEOのアラン・ドゥアズさん(写真左)と久乗亜由美さん(写真右)。ベルギー出身のドゥアズさんは、2009年にアデコに入社し、2011年よりアデコ・フランスの責任者、2015年9月より現職(写真提供 アデコ株式会社)。

――「Global CEO for One Month」を決める「Boot Camp Trip(選考旅行)」に参加した10人のファイナリストの中から、久乗さんを勝者として選んだ理由、また最も重視した点は何だったのでしょうか。

【アラン・ドゥアズさん(以下、ドゥアズ)】今回ファイナリストとして選出された10人は全員が人並外れたビジネスセンス、創造性、企業家精神の持ち主でした。しかし、その中でも久乗さんの誠実さ、謙虚さ、そして強い思いやりは目を見張るものがありました。私は、彼女が大きい夢を持ち、大きな課題に立ち向かい、仕事を通じて成功したいという意欲に満ちている一方、自然な謙虚さを忘れないこと、ほほ笑みを絶やさないこと、さらにエレガントなカリスマ性を持っているところにひかれ、彼女の成功を確信しました。

ライバル全員の推薦で最終ステップに

【ドゥアズ】アデコグループの「CEO for One Month」となった久乗さんと行動を共にし、私はこの21歳の女性の素晴らしさをより深く知りました。彼女は、自分の仕事ぶりや得られた答えに満足できなければ、努力し続け、習得するまで何度でもやり直します。久乗さんは新しい役割に真摯に打ち込み、自分の持っているすべての力と時間と情熱を注ぎ込むことによって「Dream Big, You can do it(夢は大きく。きっとできる)」というモットーを見事に体現しています。彼女はアデコと価値観を完全に共有しています。好奇心にあふれ、進取の気性に富み、納得するまで考え、いつも一生懸命働きます。それと同時に、クールな頭脳ととても温かい心の持ち主でもあります。

――選考の過程でのエピソードがありましたら、聞かせてください。

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敗者復活枠から「Global CEO for One Month」の座をつかんだ久乗さん。異なるタレントを持つ素晴らしい仲間たちから、惜しみない祝福を受けた(写真提供 アデコ株式会社)。

【ドゥアズ】「Global CEO for One Month」を決める「Boot Camp Trip」で、久乗さんはとてもポジティブな態度と熱意で審査員と聴衆に好印象を与えていました。しかし、2日目に最後のステップに進む上位4人を選出した際、他の候補者が非常に優秀だったため、彼女は選考から漏れてしまいました。ところがその日の夜、選考に漏れた候補者に対し、「『特別枠』として、最終選考に残したい人を自分以外から1人選んで投票するように」という指示を行ったところ、久乗さんは彼女以外のすべての投票者から推薦される形で最後のステップに進みました。いわば敗者復活枠から「Global CEO for One Month」へと選出されたのです。

――久乗さんをはじめとして、まだキャリアをスタートさせていない世界中の若者にメッセージを伝えてください。

【ドゥアズ】アデコグループのCEOとして、次の3つのメッセージを世界中の若者に贈ります。いつでも大きく夢を持ってください。自分らしく生きてください。就業体験を絶え間なく積み上げるあらゆる方法を模索してください。

――アデコグループCEOのアラン・ドゥアズさんに、敗者復活枠を経て、未来のリーダーとして見いだされた久乗亜由美さん。グローバルのインターンCEO経験から学んだリーダー観や、世界各国の若者との交流から得た職業観について聞きました。【以下、久乗亜由美さん】

CEO for One Month久乗亜由美(くのり・あゆみ)さん。1994年生まれ。京都府出身。立命館大学経営学部に在籍(2015年9月時点)。2014年8月から 2015年5月にかけて香港中文大学へ留学。立命館大学発の学生ベンチャーである株式会社アドリンクでは、タブレットを活用した外国人旅行者向けの通訳コ ンシェルジュサービスや、多言語で京都を紹介するウェブメディア「HOW TO KYOTO」の運営に、外国語対応スタッフとして携わる。

2015年7月に東京で、アデコ株式会社の川崎健一郎社長の下、1カ月間CEO体験をしたのですが、その後、各国のCEO for One Month34人の中から、スペインで行われる「Boot Camp Trip」に参加する10人に選ばれました。3日間の合宿では、プロモーションビデオを作成したり、マーケティングのプロジェクトに取り組んだりしました。ほかの参加者と同じ家で生活したので、とても仲良くなりました。

リーダーシップに長けた人、人を引きつける力を持った人、頭の切れる人など、全員がそれぞれ違うタレント(能力)を持っていました。本当に素晴らしい仲間で、誰が選ばれてもうれしいと思っていました。そんな中で、Global CEO for One Monthに私が選ばれ、本当にもう、「びっくり!」としか言えなかったです。

今はアデコグループCEOのアラン・ドゥアズさんのもとでグローバルのCEO業務を体験しています。海外出張が多く、ベルギー、フランス、イギリス、イタリア、タイなどを訪問しました。東京は7カ国目になります。

プログラム3日目にはベルギーの大きなフォーラムで、1500人の若者を前にCEO for One Monthの体験についてスピーチをしました。ほかのスピーカーは、大企業のCEOばかり。何を話すかとても悩み、緊張して、行きの飛行機の中では本当に胃が痛かったです。前日のリハーサルでは声が震えてしまいましたが、本番では堂々と話せました。周りの人からもよいフィードバックをいただきました。

タイでは、大学生向けのワークショップを企画しました。理想の仕事とは何かについて考えるものです。ベルギーでのスピーチもそうですが、一介の大学生には考えられないようなチャンスを与えていただいています。ただ、スピーチで何を話すか、ワークショップはどんな内容にするかは、短期間で考え、自分で決断しなくてはなりません。助けてくださる方はたくさんいますが、決めるのは自分。東京で川崎社長の下、CEO for One Monthを務めていたときには、決断力の弱さが課題だと感じていましたが、鍛えられたと思います。

世界共通の「CEOに求められる資質」とは

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Boot Camp Tripに選ばれた各国のCEO for One Monthたちと共に。スペインでの3日間の合宿は、自身が策定したビジネスプランの発表や、スピーチ、ドゥアズさんによる1対1でのインタビューなど非常にハードなものだった(写真提供 アデコ株式会社)。

ドゥアズさんや、グループCFO、訪問した国のCEOなど、たくさんの経営者に会いました。日本で川崎社長を見ていて、「CEOに求められる資質は、周りの人をインスパイア(感化し、刺激を与える)すること」だと知りました。ドゥアズさんをはじめ、ほかの経営者を見ていても、やはり同じだと思いました。

また、「よいチームに囲まれていないと、CEOという仕事は成り立たない」ということも感じました。よいチームがよいCEOを作り、またよいCEOがよいチームを作っています。お会いしたCEOは皆さん、社員からとても慕われています。ベルギーでお会いしたフランス人のアデコの方が、ドゥアズさんについて「私たちのチーム全員が、彼と働けるのがうれしいし、楽しいと思っている」と言っていました。今まで経営者やリーダーについて、そんなとらえ方をしたことがなかったので、とても印象に残りました。

Global CEO for One Monthとして東京に戻ることができて、日本のアデコの皆さんはとても喜んでくださいました。Boot Camp Tripに参加する10人に選ばれたときは、「私なんかでええんやろうか」と不安がありましたが、今、こうしてGlobal CEO for One Monthとして、再び胸を張ってお会いすることができてよかったです。川崎社長も「おめでとう!」と言ってくださいました。

東京に来る前の訪問地はタイだったのですが、タイのアデコの皆さんにも大歓迎していただきましたBoot Camp Tripの参加者でアジア人は私1人だったのですが、タイのアデコの方から、「アジアからGlobal CEO for One Monthが選ばれたことを、誇りに思う」と言われました。私のことを「アジアの代表」のように見てくださっていたのには驚きましたし、感激しました。

海外の若者、その厳しい仕事観に驚く

Boot Camp Tripで仲良くなった各国のCEO for One Monthの人たちとは、今でもSNSなどで連絡を取り合っています。大学生活や食習慣など、キャンプ中にいろいろなことを話しましたが、印象に残っているのは仕事観の違いです。

日本は海外に比べると失業率は低いですし、新卒でも、選ばなければ何らかの仕事に就けます。でも、ヨーロッパでは大学を卒業してから就職するのが本当に大変で、みんな「経験がないと職を得るのは無理」と言っていました。でもふつう、新卒だと経験なんてないですよね?

イギリスの大学に行っている人は、3週間は大学の授業、3週間は企業でのインターンを繰り返すプログラムに参加しているそうです。既に起業している人もいました。日本では、新卒で経験がなくても「会社に」雇ってもらえます。「いい会社に入る」ことが目標です。それがヨーロッパでは、自分の経験を積んで「そのポジションに」雇われるという感じです。話には聞いていましたが、ピンときていませんでした。それが皆さんの話を聞いて、国による「キャリア」の意味の違いが、ようやく分かりました。

日本、アジア、世界の代表として上を目指す

私は大学2年のときに香港に留学し、いろいろな国の人たちと話をする中でアジアビジネスに関心を持ったことがきっかけで、アデコのCEO for One Monthに応募しました。それでも以前は、「大学を卒業したら、まずは日本で働きたい」と考えていました。それは、日本で“しか”働けないと思っていたから。自分には海外で働く力がないと思っていたのです。

でも今では、「海外だろうと、どこだろうと働けるかな」という気がしています。頑張れば何でもできることが今回の経験で分かりましたから。上を目指して挑戦したいと思うようになりました。

2015年10月1日にベルギーで開催されたフォーラム「Young Talent In Action」でスピーチを行う久乗さん。2016年1月には、「Global CEO for One Month」の集大成ともいえる事業戦略の発表を控える(写真提供 アデコ株式会社)。

Global CEO for One Monthも、残すところあと2週間。これからミラノ、ニューヨークに行き、最後の1週間はグループ本社のあるスイスで過ごしますが、グローバル視点でアデコグループの将来を見据えた事業戦略をまとめるという、最も大きな宿題が残っています。ドゥアズさんに同行した出張では、各国の役員が各市場の状況やトレンドについて発表する会議に同席したので、その内容を参考にしながらまとめます。また、各国のCEO for One Monthである33人が作った事業戦略も反映させなくてはならないので、責任重大です。

実はGlobal CEO for One Monthはここで終わりではなく、まとめあげた事業戦略は来年2016年1月にプラハで開催される、世界60カ国のアデコ社員が集まるリーダーシップ・カンファレンスで発表しなくてはなりません。緊張しすぎて、クリスマスケーキなんて食べていられないかも……。胃が痛くなってしまうので、今は発表のことは考えないことにして、計画をまとめることに集中しようと思っています。