「毎日、丁寧に、暮らす」。こうした暮らしに憧れる人は多いのではないでしょうか。同様に「毎日丁寧に仕事をする」ことにやりがいを見いだす女性は多いかもしれません。しかしあなたのその「丁寧さ」は意外と評価が低い可能性があります。その理由とは……。

「日々、丁寧に暮らす」。

このコラムを読んでくださっている皆さんは、よく目にするフレーズかもしれません。イメージとしては、毎日の暮らしの中でのすべての行動に目配りをして、自分らしく、ある種の価値観に従って、文字通り丁寧に日常を過ごす、という感じでしょうか。背筋がピンと伸びた、そんな人物を頭に思い浮かべる人もいるでしょう。外から見ると、毎日同じことを繰り返しているようだけれども、当の本人には周囲には分からない変化があって、それは自らの工夫によってもたらされている。一日たりともおろそかにせず、少しずつ進化する。なかなか素敵な暮らしぶりです。

できれば私も日々を丁寧に暮らしたい。そう考える人は少なくないようで、日々丁寧に暮らすためのノウハウが詰まったライフスタイルメディアも、世の中には多く出回っています。しかし、ビジネスの現場で「日々丁寧に暮らす的」なワークスタイルを実践しても、残念ながら、それほど評価されません。今ある仕事に対して細やかな目配りをすると同時に、丁寧に取り組み、周囲には気づかれないかもしれないけれども、日々小さな改善を実施することで、昨日よりも少しだけ良い仕事ができるようになっている。文章にすると素晴らしい気がしますが、実際には周囲から「彼女、成長しないね」と評価されてしまう。

同じ仕事を繰り返すことは、認められないのか

「入社時から同じ仕事をずっと担当している」という人を高く評価する組織は、あまり多くありません(日本の企業に顕著な例なのかもしれませんが)。もちろん、仕事がある種の職人的な要素を含む場合、その人にしかできない特殊技能である場合などは当てはまりませんが、一般的にはなかなか認めてもらえません。こう書くと「当たり前じゃないか。一定の社歴があれば、プレーヤーからマネージャーになるのだから。入社時に与えた仕事と同じ仕事をされていては困るのだ」という、人事や経営者の声が聞こえてきそうです。

もちろん、従来の企業の仕組みを考えると、入社時に与えられた仕事をずっと続けてもらっては困ります。なぜなら、年次が上がるごとに、報酬も高くなるような仕組みを導入しているからです。報酬が高くなるにつれて仕事の難易度も上がり、求められる役割も増える。当たり前の話だと考えがちですが、それに疑問を持つ人も、少しずつ増えています。別に報酬が上がらなくてもいい。日々丁寧に、目の前にある仕事に取り組む。昨日よりも今日、今日よりも明日、良い仕事ができればそれでいいのに、と。「どうして企業はそれを許してくれないのか。毎日ちゃんと働いているのに……」と嘆くのです。

「年相応」という言葉の持つ、外せない思い込み

ある企業で、組織設計を担当している人事部の人とこの話をした時に、彼らはそう願う人が増えていると理解した上で、こんな風に耳打ちしてくれました。「その仕事が組織にとって必要な仕事、誰かがやらないといけない仕事なのは、もちろん分かっています。ただ、一定の年齢に達している人は、それなりの水準の報酬を得ているわけですから、こちらの期待に沿った仕事をしてもらいたい。となると、今までの仕事を淡々と真面目にこなし、熟練度を向上させるのではなく、次のステップに移行してほしい。一定の年齢に達しているのに新人と同じ仕事って変でしょう?」と“年相応”という言葉を繰り返していました。

ただ、今の場所にとどまり、日々の仕事に今まで通りに取り組みたいと願う人は、企業サイドのその言い分に納得しません。組織にとって必要な仕事だと分かっているなら、その仕事をさせてくれればいい。仕事の難易度に見合うだけの報酬しか出せないと言われたら、それはそれでいい。どうして一定の年齢に達したら、次のステージに行けと促されるのか、なぜ現状維持(=自分たちは日々成長していると実感しているけれども、周囲から見た評価としては)ではダメなのかと。組織の中で、年齢と経験と仕事の難易度と評価、それに対する報酬が紐付いている、その仕組み自体が変なのでは、と。

新しい組織の仕組みを考える時代が、すぐそこに来ている

人事制度などに詳しい人なら「日本型と欧米型の話だね」と気づく人もいるかもしません。企業人事における「年功序列」という言葉は誤解を生みがちですが、これは“年をとっている人だから偉い”という制度ではありません。入社時からキャリアが階段状になっていて、仕事によって経験を重ねることで、少しずつできることを増やし、結果として「年長=仕事ができる」という構造を指すのです。同じ場所にとどまって、日々変わらず仕事するという人のための仕組みは、今までの日本の企業にはありませんでした。ただ、階段状になった先のポストは詰まってしまい、「階段を無理に登りたくはない」という人も増えています。

もちろん、多くの企業は「じゃあ、どうする?」と次の打ち手を考える必要があります。例えば「会社に入る」のではなく「職に就く」スタイルを普及させるのも、そのひとつ。アイデアはたくさんあり、実施している企業も少なくありませんが、今回、本稿ではそこには触れません。

それよりも、この時期にキャリアの曲がり角に立つ皆さんは、今が、さまざまな仕組みの変わる過渡期であることを、まずは理解してほしいのです。日々、丁寧に働く。そのためには、自分に何が求められているのか、周囲で何が起きているのか、キャッチアップしておく。それが、「自分らしく働くこと」が自己満足に終わらないための予防策なのです。

サカタカツミ/クリエイティブディレクター
就職や転職、若手社会人のキャリア開発などの各種サービスやウェブサイトのプロデュース、ディレクションを、数多く&幅広く手がけている。直近は、企業の人事が持つ様々なデータと個人のスキルデータを掛け合わせることにより、その組織が持つ特性や、求める人物像を可視化、最適な配置や育成が可能になるサービスを作っている。リクルートワークス研究所『「2025年の働く」予測』プロジェクトメンバー。著書に『就職のオキテ』『会社のオキテ』(以上、翔泳社)。「人が辞めない」という視点における寄稿記事や登壇も多数。