あなたは上司に「で、お前は何がしたいの?」などと問いかけられたことはないでしょうか。上司の意図がすぐに分かった人はOK。でも答えがすぐに出てこなかった人、上司の意図が分からなかった人はこの記事を読んでみてください。

「で、お前は何がしたいの?」

上司が部下に対して問いかける言葉は、それこそ星のように無数に存在します。中でも最近よく耳にするフレーズの一つに「で、お前は何がしたいの?」という問いがあります。

こんなに乱暴な、あるいはよく言えばフランクな物言いも珍しいですが、おおよそこんな感じのトーンでの問いかけであることは間違いありません。仕事を進めていく上で、立ち止まったり戸惑ったりしている部下に対して「こういう道を進もう」とか「打開策はこれでいこう」という指示やアドバイスではなく、「どうしたい?」「何がしたい?」と意思を確認するのです。

こう聞かれて、スッと答えられる人は、それほど多くいません。多くのケースでは「私の意思としては……」という枕詞くらいは口をついても、その先が続きません。ここまで読んで「似たようなことは自分にもあるな」と思った人は少なくないでしょう。しかし中には、この問いにスムーズに答えられる人もいます。さらにいえば、この質問を投げかけた上司の本意はどこにあるのか、その意味を深く考えたことがあるという人は、それほどいないはずです。

本コラムをご愛読いただいている、キャリアの曲がり角に立つ皆さんは「あなたは、どうしたい?」と問いかけられ、そして問いかける立場でもあるはずです。今回はこの「何がしたいのか問題」について、少しだけ一緒に考えてみましょう。

混乱のポイントは「あなた」という言葉に隠されていた

結論から言うと、あなた(冒頭では「お前」)という言葉が混乱の原因になっています。上司は仕事の現場において、混乱して立ち止まってしまっている部下に対して、本来ならば「あなたは(この状態を収拾するために)どう(いう打ち手を準備していて、それをどのように実行)したいのか」と問うています。こう書けば当たり前のことなのですが、カッコでくくった部分を抜いてしまうと「あなたはどうしたいのか」となります。

これを誤って解釈すると「あなたは(この仕事を通して)どう(いう状態になりたいから、何に取り組んでいきたい、どういうアクションを)したいのか」にもなってしまう。もっとシンプルに「あなたは(この仕事を通して)どう(成長)したいのか」と取ることも可能です。

この(成長)の部分を「何を実現したいのか」という言葉に置き変えると、この勘違いが起きやすい状態に対して、ピンとくる人もいるはずです。そう、自分がどうしたいのかという問いかけの多くは、自分が実現したいこととひも付きやすいのです。しかし仕事の多くは、企業から求められる、いわば「やるべきこと」であるはず。しかし、「あなたは~」と問いかけられると、「やるべきこと」と「やりたいこと」の混同が始まってしまう。個人のモチベーションを大切にしているという企業には、特にありがちな話です。

「やるべきこと」と「やりたいこと」を、意図的に混同させる意味

「仕事で自分のやりたいことなど実現できるわけがないのだから、そんな勘違いはしない」という人もいるでしょう。しかし、企業によっては、企業が働く人たちにやってほしいと望むこと(=やるべきこと)と、ごく個人的に思っていること、頭に描いている何かを実現したい気持ち、ここでいう「やりたいこと」を意図的に混同させるケースがあります。理由はとてもシンプルで、単に仕事だと割り切って働いてもらうよりも、仕事ではあるがそれだけじゃない、自分でやりたいことをやっていると思わせるほうが良いこともあるからです。「なるほど、内発的動機の話だな」と気付いた人もいますよね。

単に仕事として、それこそ報酬を目当てに、そのためだけに働くという人よりも「お金も大事だけれど、それだけじゃない。自分のやりたいことと仕事が重なることが大切」というタイプの人は、時に会社にとって非常に都合がいい存在になります。なぜならマネジメントが上手くいけば、自律的に、かつ報酬を低く抑えた状態にできる、つまり企業が儲けを出せる働かせ方が可能になるからです。「やるべきこと」とは、企業にとっては「やらせること・やってもらわないと困ること」であるはずですが、働く個人にとっては、「やらされる」という言葉のネガティブな印象はプラスにならない。だとしたら、「自分でやるべき」と決めて行動してもらうのがベストなのです。

部下でもあり、上司でもある、皆さんの「やりたいこと」とは?

皆さんが部下の立場として、上司に「あなたは何がやりたいの?」と質問された時には、今まで書いてきたような勘違いはしないようにするのが重要です。時には上司がごく個人的な話をしているケースもあるでしょうが、うっかりすると勘違いしてしまう場合が多いのでご用心。

逆に、あなたが上司として部下に話す際にも、細心の配慮が不可欠です。部下は経験が浅い分、勘違いしがちですから。「あなたは(この状態を収拾するために)どう(いう打ち手を準備していて、それをどのように実行)したいのか」という質問を、「あなたはどうしたいのか」と問いかけることは、ある意味でかわいそうな仕打ちなのです。

ただし「あなたは何がやりたいの?」というセリフを、上司である皆さんが部下に対して時々かけてあげるのは大切なことです。それを聞き、意図をくみ、相手の個人的な野望がかなう、つまり「やりたい」仕事を「やるべきこと」として依頼すれば、その部下の仕事に対しての取り組みは大きく変化すると期待できるからです。

こういう話を書くと「個人の想いを利用するのはズルい」と思う人もいるかもしれません。しかし多くの企業の存在意義は、極論すると「儲ける」ことです。それをないがしろにしてしまっては、そもそも企業自体が成り立ちません。キャリアの曲がり角くらいの年齢なら、そのあたりの分別はつけなくてはならない。そんな気もするのです。

サカタカツミ/クリエイティブディレクター
就職や転職、若手社会人のキャリア開発などの各種サービスやウェブサイトのプロデュース、ディレクションを、数多く&幅広く手がけている。直近は、企業の人事が持つ様々なデータと個人のスキルデータを掛け合わせることにより、その組織が持つ特性や、求める人物像を可視化、最適な配置や育成が可能になるサービスを作っている。リクルートワークス研究所『「2025年の働く」予測』プロジェクトメンバー。著書に『就職のオキテ』『会社のオキテ』(以上、翔泳社)。「人が辞めない」という視点における寄稿記事や登壇も多数。