「女性向け」と書いてあるのに、全然自分向けじゃない……そんな商品、ありませんか?

本物の“女性向け”マーケティングとは

「ダサピンク現象」をご存じだろうか。昨年末ごろから、インターネット上で使われ始めた言葉だ。「ピンク=ダサイ」の意味ではない。「どうせ女性って、みんなピンクが好きなんでしょ?」との固定観念で作られた商品が、当の女性に、「ダサイ」と映りやすいことをいう。

もちろん、ピンク好きな女性も多い。ただ、女性は「どうせこうだろう」と、一方的に決めつけられるのがイヤなのだ。

では、本物の“女性向け”の商品やサービスは、どうすれば開発できるのか。ひと言で言えば、固定観念をいったん取り払い、女ゴコロの奥にまで潜り込んで、彼女たちのニーズを探ること。

ホンダが2011年12月に発売した、軽自動車「N-BOX」。角ばったデザインは、一見すると女性向けには見えない。当時、開発責任者だった男性は、ターゲットとなる30~50代の母親たちを中心に、綿密な市場調査を繰り返した。すると母親たちの多くは、クラブ活動や塾に“自転車”で通うわが子を、夕方、クルマで迎えに行っていた。ただ、女性の力では後部に自転車を積めず、苦心していた。

「それなら、母親が自転車を積み込みやすいクルマがあれば、売れるのでは?」

――その発想が、低い床と軽最大級の室内空間を生み、女性たちに大ヒット。発売から38カ月で、N-BOXシリーズ累計販売台数約67万台を記録したのだ(15年2月末現在)。

11年8月に発売がスタートしたコスメ、マンダム「ビフェスタ うる落ち水クレンジングシリーズ」も、女ゴコロに耳を傾けてヒットにつながった。15年2月末、累計販売本数は1500万本を突破した。

コットンに含ませてふきとるだけで、クレンジングと保湿が一度に済む。節約や時短にもなるが、それだけではない。

「疲れてすぐ眠りたい人のためのクレンジング」と銘打ち、寝室ではなく“リビングルーム”に置ける、インテリア雑貨ふうのデザインを目指したのだ。

誕生のきっかけは、同ブランドリーダーの男性が、以前忙しく働くシングルマザーに言われた「短時間で簡単に、でも肌にやさしく、きちんと手入れできるコスメが欲しい」という言葉だった。

そう、大事なのは「受容と共感」だ。女性のちょっとした悩みに「そうだよね」と真摯(しんし)に耳を傾け、それを自分が解決してやろうと、ひと肌脱ぐココロ。そんな、「女子力」や「姐御力」、それが、本物の女性向けマーケティングに求められる力なのだ。私のような女性マーケッターも、立場が違う女性の気持ちを理解するのは難しい。まして男性なら、むべなるかな。

そこで最近は、「女装マーケティング」も注目されている。昨年10月に開かれた同名セミナー(企画:ひみつきち)では、参加した男性たちが文字どおり女装姿に。ウィッグやワンピースを身にまとい、メイクアップ指導を受け、女性たちの心理を理解しようと努めた。

「そこまではできない」とたじろぐ男性には、もっと簡単な方法をお薦めしたい。それは職場や家庭で、女性の部下や同僚、妻の声に、キチンと耳を傾けること。

アサヒビールが10年9月から発売している、アルコール分0%のカクテルテイスト清涼飲料「ゼロカク」。開発のきっかけは、同社の男性研究者が、お酒の苦手な妻のために試作品を作ったこと。

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もはやママ会にはノンアルコール飲料が必須!

彼は妻のママ会にも同行。「アルコールを飲んでいるかのように楽しみたい」という妻の女ゴコロに寄り添い、ひと肌脱いだのだ。当時は、「母親が日中から飲むなんて」という声もあった。だが、いまやランチ会やパーティーで「ノンアルコール飲料を飲んでみたい(飲んだ)」と答えるママが9割。「ママ会」は、ノンアル飲料市場を支える大きな柱となっている。

女性も男性も、自分以外の多様な女ゴコロに耳を傾け、共感することで、本物のヒットが生まれる。ふだん「オジサンっぽい」とスタッフに揶揄(やゆ)される私も、もっと女子力や姐御力を磨かねば!

牛窪 恵

世代・トレンド評論家。マーケティングライター。インフィニティ代表取締役。財務省 財政制度等審議会専門委員等を務める。