保育園に入りやすい地域への引っ越し、祖父母を頼っての引っ越し、思わぬ転勤辞令を受けての引っ越しなどなど、保育園在園中もしくは入園予定の子どもをかかえて転居という事態に直面する人は少なくないと思います。

でも、引っ越しを伴う入園・転園には、通常の入園にはなかった落とし穴があります。少し細かい話になりますが、入園のしくみが複雑な認可保育園について、気をつけたいことを説明しておきましょう。

引越し後の入園なら在住者と同条件

できるなら、認可保育園については、引っ越しを完了してから引っ越し先での入園申込をするというスケジュールがベストです。住民票を移してからであれば、通常の入園申込と同じ手続・条件でできるからです。

たとえば、育児休業中の10月にA市からB市に転居して住民票を移し、11月にB市認可保育園の来年4月の入園申込をするという場合です。この場合は、普通にB市市民として入園申込を受理してもらえますし、入園選考でも通常どおりの扱いになります。ただし、自治体によっては、入園選考で複数の申込者の点数が完全に同点になったとき、在住年数の長い家庭が優先される場合があります。

入園申込後に引っ越す場合

注意しなければならないのは、入園申込みをする時点でまだその自治体の住民になっていない、という場合です。たとえば、A市で子どもを認可保育園に通わせていた人がB市にマンションを買って、4月に引越しと子どもの転園を同時にしたいという場合。この場合、入園申込の時点ではまだA市市民なので、B市の認可保育園への入園が不利になる場合があります。

認可保育園は、公立も民間立も基本は市区町村が実施している事業なので、住民票がある市区町村以外の認可保育園を希望する場合には、市区町村同士の斡旋による「管外協議」という特別な扱いになるのが原則です。「管外協議」扱いになると、入園選考で減点対象になったり、住民の選考後に空きがあった場合のみ受け入れ可と言われたりします。

しかし、数週間あるいは数か月後にその自治体で暮らすことが確実なのに、保育園入園が不利になるのは理不尽なことです。そこで、救済策を設ける自治体も増えてきました。

転入予定者への配慮は自治体によってまちまち

救済策を設けている自治体では、転入が確実であることが証明できれば、「管外協議」なしで申込みを受け付けるようにしていたり、とりあえず「管外協議」で受理しても、転居先住所を証明する書類を提出すれば、入園選考では自市区民と同等に扱っていたりします。転入を証明する書類とは、たとえば、売買契約書や賃貸契約書などです。

転入予定者について「管外協議」を不要とするのか、「管外協議」扱いにするのかによって、入園申込の方法も違ってきます。

ややこしいので、図に整理してみました。

まずは転居先自治体への問合せから

図を拡大
引越し入園の自治体の対応いろいろ

このように転入予定者の入園申込に対する市区町村の対応にはいろいろなパターンがあるので、事前によく調べることが必要です。

最初に調べなければならないのは、転居先自治体の方針です。「管外協議」なしで直接申込を受け付けてくれる自治体なら話は簡単です。

たとえば、仙台市では、申込前に電話で相談を受け、事情を聴取した上で、必要書類を指示して簡易書留で送ってもらい、「管外協議」扱いなしで入園申込を受け付けるようにしているそうです。

その一方で、申込時に住民票がなければとりあえず「管外協議」扱いになる自治体も多いので、転居先自治体がその方針であることがわかったら、現在、在住する市区町村経由で入園申込をして「管外協議」に乗せてもらう必要があります。

転居先自治体への確認事項をまとめておきましょう。

(1)転入予定で入園申込時には住民票の異動ができていない場合、入園申込は受け付けてもらえるのか。(現住所の自治体に管外協議の申込をするのか、転居先自治体が直接に入園申込を受理してくれるのか)
(2)入園申込後の入園選考での扱いが不利になることはないか。
(3)転居先住所を証明する書類を提出する場合、どのような書類が有効か。それで入園選考での扱いは変わるのか。

入園が不利になりそうなとき

転入予定者の申込は「管外協議」でしか受け付けず、転居先住所を証明する書類を提出しても入園選考では他市区民扱いで不利になるという自治体に引っ越す場合、待機児童が多ければ入園の難易度は相当に高くなってしまうでしょう。

転居&入園を果たした人の中には、役所の担当者に窮状を訴えたら対応が変わったという人、住民票を引越し前に異動してしまったという人もいました。住民票は引越し後に移動する決まりになっているので、後者は正当な方法ではありませんし、住民票担当窓口で正直に話すと異動は受理してもらえません。

とはいえ、住宅ローンを組むために引越し前に住民票を異動するということは結構行われているようです。ただ、異動した後は役所等からの通知はすべて新住所に届くようになり、行政サービス、学校などの関係で不都合が発生する場合もあるので、十分な注意が必要です。

住民票のことはともかく、転居前の入園申込については、とにかく役所の窓口にしっかり問合せ・相談をし、どういうスケジュールで取り組むのがいいのか、早めに作戦を考えておくことが必要です。

保育園を考える親の会代表 普光院亜紀
1956年、兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。出版社勤務を経てフリーランスライターに。93年より「保育園を考える親の会」代表(http://www.eqg.org/oyanokai/)。出版社勤務当時は自身も2人の子どもを保育園などに預けて働く。現在は、国や自治体の保育関係の委員、大学講師も務める。著書に『共働き子育て入門』『共働き子育てを成功させる5つの鉄則』(ともに集英社)、保育園を考える親の会編で『働くママ&パパの子育て110の知恵』(医学通信社)、『はじめての保育園』(主婦と生活社)ほか多数。