「銀行は偉い」「預金しておけば安心」読者のみなさんは何となくそう思っていませんか。しかし現実はそうではなく、バブル期崩壊後に日本が長い不況に突入した大きな原因は銀行にありました。

仰ぎ見られる存在・銀行

日本の20世紀高度経済成長を資金面から圧倒的に支える役割を担ってきたのは、国民がせっせと積み上げた預金に裏打ちされた銀行融資であることは、連載第2回「戦後70年! 歴史にみる『預金は正義』の功と罪」(http://woman.president.jp/articles/-/482)でお伝えしました。その過程で、資金の出し手である銀行業界が、産業ヒエラルキーにおいて、あらゆる業界の頂点に君臨する存在としてこの国に定着してしまったのです。

セゾン投信株式会社 代表取締役社長・中野晴啓さん

日本経済の戦後復興を牽引してきた鉄鋼業や自動車・電機などモノづくりの代表的産業でさえ、資金繰りを握られた銀行には頭が上がらない。そんな産業界の構図の中で、銀行は偉い! と位置付けられた「銀行神話」が世間にも根付いていったに違いありません。

なにしろ僕自身も入社してすぐ上司から、くれぐれも銀行を怒らせることのないようにと叩き込まれ、「いつも床の間を背に座るのが銀行」で、「銀行は晴れている時は傘を差し出し、雨が降ったら傘を取り上げる」、まさに企業の生殺与奪の権を握っている畏れ多い存在であると教わったものです。

実際、僕の大学時代の友人達で成績優秀な連中はこぞって誇らしげに銀行に就職していたし(僕は成績が芳しくなくて、銀行からお呼びがかからなかったのですが……)、女友達が結婚したい相手ナンバーワンも悔しいかな、やっぱり銀行員でした。

どんな大企業でも頭を下げる相手が銀行であり、有名大学を成績優秀で卒業した人達ばかりが働いているのが銀行! 戦後、国内経済発展の過程で世間に常識化した「銀行神話」は、その後現在に至るまで日本社会に厳然と根を張っているのです。

護送船団の来し方、行く末

ところが21世紀に入って日本経済の高度成長期は終わりました。長期の経済低迷が続き、成熟経済社会へと移行する中で、親世代から当たり前のごとくプレジデントウーマンオンライン読者世代へと引き継がれてきた「銀行神話」は、もはや実際には前世期の名残に過ぎないのです。

実は1990年代後半、日本経済はバブル崩壊と共に深刻な不況に陥ったのですが、この時日本の銀行は軒並み強烈な苦境に立たされました。バブルに踊った不動産業者が相次いで壊滅し、そこに巨額の融資を積み上げていた銀行の多くが、大量の不良債権を抱え込んでしまったのです。

それまで銀行は産業界を支える存在として大蔵省から特別に守られ、銀行は絶対潰れないという「銀行不倒神話」がありましたが、あっさり覆ったのです。いくつかの銀行は規模を問わず破綻して、倒産を免れた大銀行も次々と行政指導のもと、合併による業界大再編が起こりました。

そして国家の金融システムを守るため、不良債権処理には多額の国家予算が投入されました。更には生き残った銀行も、不良債権で消耗し切った体力を維持するため、こぞって貸出債権の圧縮へと一斉に動いたのです。

かつての戦後20世紀、あらゆる産業界の発展に寄与してきた銀行が、今度はその頑張っている産業界から資金を強引に引き揚げる(貸し渋り、貸し剥がしと言います)、日本経済の活力を損なう存在に成り下がってしまったのでした。

この時、“輝ける銀行業界”は過去のものとなったのです。厳然たる事実として、それ以降銀行業界の貸出金残高は、ほとんど回復することなく現在に至っています。

お金という名の血液がない貧血状態・ニッポン

どうでしょう、皆さん。こうした歴史的事実に鑑みてもなお、銀行は偉い、銀行は正しい、銀行に任せておけば安心……と言い切れますか?

無論、銀行だけが悪者であるわけではありません。しかし日本経済がデフレという重篤な病に罹ったのは統計上1997年とされています。銀行が産業界から一斉に貸出金回収へと動いたのはまさにこの時期。即ち日本が“デフレ病”に罹ることとなった大きな要因の1つとして、銀行が実体経済から産業活動の血液たる資金を一気に吸い上げたことで、日本経済全体が途端に貧血を起こし、デフレ不況に陥ったことは否めないことなのです。

何だか「銀行神話」の本質を説明しているうちに、21世紀の銀行ビヘイビアを非難するばかりの論調になってしまいましたが、要するに銀行だって間違いを犯す、普通の産業の1つに過ぎないということです。

そう気付いたならば、銀行にひたすらお金を預けること、つまり「預金は正義」の誤謬に思い至るはずです。

とりわけ現在はちょうど、20年近く深刻なデフレ不況に悩まされ続けてきた日本経済が、ようやくその病から脱却する途上です。今改めて銀行が経済に果たす役割を考え、私たちの預金が今どのように使われているのかを知ることから、「脱デフレ社会のお金との付き合い方」へと思考を進めるべきで、プレジデントウーマンオンライン読者の皆さんにはしっかり納得の上で、「脱・預金バカ」への行動規範を学んでいただきたいと思うのです。

では次回は、脱デフレ社会で、預金と私たちの関係はどう変わるのか!?  そこを解説します!

中野晴啓(なかの・はるひろ)
セゾン投信株式会社 代表取締役社長
1987年明治大学商学部卒業後、現在の株式会社クレディセゾン入社。セゾングループで投資顧問事業を立ち上げ、海外契約資産などの運用アドバイスを手がける。その後、株式会社クレディセゾン インベストメント事業部長を経て2006年に株式会社セゾン投信を設立、2007年4月より現職。米バンガード・グループとの提携を実現し、現在2本の長期投資型ファンドを設定、販売会社を介さず資産形成世代を中心に直接販売を行っている。セゾン文化財団理事。NPO法人元気な日本をつくる会理事。著書に『投資信託はこうして買いなさい』(ダイヤモンド社)、『預金バカ』(講談社)など。