壱番屋創業者秘書をはじめ、30年以上に渡りその道を究め、日本秘書協会の「ベストセクレタリー」にも選ばれた“プロ秘書”中村由美さんから、すべてのビジネスパーソンに通じる“秘書の素養”を教わります。

美しいお辞儀のコツは「止め」と「アイコンタクト」

社内で同僚とすれ違う際の軽い挨拶から、初対面の相手との名刺交換まで、秘書の日常にはお辞儀がつきものです。とはいえ、自分がお辞儀をしている姿はなかなか自分で見ることはできません。改めて「お辞儀」と言われると、キレイにできている自信がない人も多いのではないでしょうか。プロの秘書は、自然に美しいお辞儀をします。

仕事をしていれば、日に何十回も訪れる「お辞儀をする機会」。いい加減なお辞儀は、「お辞儀をしない」以上に、悪い印象を与えることに!

一般にお辞儀には、頭を下げる角度で15度、45度、90度の3種類があるとされています。15度のお辞儀は「会釈」と呼ばれるもので、同僚との軽い挨拶や、お客様とすれ違う際などに使います。45度は「敬礼」と言って、深々とお辞儀をした状態です。お詫びをする際や相手に感謝の気持ちを伝えたいときに使います。90度のお辞儀は「最敬礼」です。一般にはあまり使いませんが、皇室の方など非常に身分の高い相手に対して、敬意を込めて行います。

このなかには含まれませんが、仕事中によく使うお辞儀は、30度の「中礼」です。実際にお辞儀をしている姿を鏡に映して確認してみるとわかりますが、仕事中に行うお辞儀はこの角度が多いのです。あまり深々と頭を下げられても、相手も恐縮してしまいます。ただし、メリハリをつけることは大事です。「頭を下げる」という表現はしていますが、実際には頭だけを下げるのではなく、背筋を伸ばした状態でゆっくりと腰を折るのです。そして、頭を下げきったらピタリと止める。そしてまた、ゆっくりと頭を元の位置に戻し、目線も相手に向けます。この「止め」と「アイコンタクト」があることで、メリハリのついた美しいお辞儀になるのです。

角度だけを聞くと少し浅いように感じるかもしれませんが、作業をしながらの挨拶は、「会釈」よりも簡単な「目礼」になっていることが多いものです。頭を下げる角度は10度くらいで、一瞬目線を下げるだけ。意識しないとなかなか下がらないのが私たちの頭です。お客様に対しても、忙しさのあまり、ながら動作になってしまい、うっかり「目礼」で済ませている可能性もあります。「自分は大丈夫かな」と心配になった人は、ぜひ一度鏡の前で自分の姿を確認してみてください。背筋が伸びていなかったり、顎を前に突き出すようにしたりして、相手に失礼な印象を与えるお辞儀をしているかもしれません。

“正しい”名刺交換で優位に立つ!

名刺交換の際は、お辞儀だけでなく、その後のアイコンタクトも重要です。名刺を受け取ると、頭を下げた状態で名刺ばかりを気にしてしまい、相手の顔を見ていない人も多いのです。しかし、名刺はあくまでもネームカード。相手の分身で大切なものではありますが、主役は名刺を渡した本人です。名刺を受け取ってサッと名前を確認したら、相手の顔を見ましょう。相手の視線が戻ってくる瞬間を逃さずに目を合わせ、そのままの状態で「○○様ですね。よろしくお願いします」と言うことができれば、心理的には相手をお迎えしたこととなり、一歩リードといえます。相手に感じがよい印象を残すことができるでしょう。

名刺交換は、秘書にとってある意味戦いの場ともいえます。というのも、お客様がどのような方か、名刺交換をしながら判断する場合もあるからです。名刺をやりとりする一瞬で相手を理解し、判断して、次の瞬間には「あいにくですが、不在にしておりまして……」とお断りしなければならないこともあるでしょう。だからこそ、名刺交換の場で心理的に相手を迎え入れる余裕が必要となるのです。

場面に合わせた美しいお辞儀とアイコンタクトで、相手の心をグッとつかんでください。

 プロ秘書からのメッセージ 
名刺交換は、秘書にとってある意味戦いの場である

中村由美(なかむら・ゆみ)
コンサルタント会社の社長秘書を経た後、株式会社壱番屋に入社。創業者・宗次徳二氏をはじめ、3代の社長に仕える。日本秘書協会(元)理事、ベスト・セクレタリー、秘書技能指導者認定、サービス接遇指導者認定。カレーハウスCoCo壱番屋創業者(宗次夫妻)秘書。著書に『日本一のプロ秘書はなぜ「この気遣い」を大事にするのか』(プレジデント社刊)(http://presidentstore.jp/books/products/detail.php?product_id=1730)などがある。