秘書に求められる素養は、すべてのビジネスパーソンに通じるもの。壱番屋創業者秘書をはじめ、30年以上に渡りその道を究め、日本秘書協会の「ベストセクレタリー」にも選ばれた中村由美さん。著書『日本一のプロ秘書はなぜ「この気遣い」を大事にするのか』からの抜粋を、ちょい読み版としてご紹介します。

短所を見つけるは易く、長所を見つけるは難し

人間は、相手の短所を見つける天才です。自分に害が及びそうなこと=危険を察知するのは人間の本能なので、放っておけば、周りへの不平不満はいくらでもわいてくるでしょう。しかし、相手のことを短所も含めて「こういう考え方をする人だ」「こういうことが苦手な人なのだ」と受け入れることが、相手とうまくコミュニケーションをとるための第一歩。「苦手だ」「嫌いだ」と断じて心を閉ざしてしまわないためには、意識して長所を探す心がけが必要です。

嫌なところばかりが目につく上司。それがあなたの“人”のとらえ方次第で、どんな相手だろうとも、ポジティブな感情を持って接することができるようになるんです!

長所は、誰に対しても最低2つは見つけておくといいでしょう。「それくらいなら簡単だ」と感じるかもしれませんが、実際に「今からできるだけたくさん長所を挙げてみよう」と考えると、なかなか難しいことのようです。以前社内研修で、仲の良い2人に「相手の長所を10個挙げてアピールしてください」とお願いしたところ、スムーズに出てきたのは5つほど。そこから先は言葉に詰まってしまい、なかなか出てきませんでした。いつも接している相手でも、自然と目につくのは短所ばかり。積極的に探していかないと、長所は短所に埋もれてしまうということのいい例です。

2つの長所探しでポジティブな感情が持てる!

上司の良い点を見つけようと思えば、行動をよく観察するようになります。これだけでも、「苦手だな」とだけ思って避けていたときに比べれば、大きな前進です。観察することで、「こんな良い面がある」と気づけば、感謝や尊敬の気持ちがわいてきます。また、たった2つでも良い部分があるとわかれば、上司の行動に対してネガティブな感情がわいてきても、「なんて大雑把な指示をするんだ! (マイナス1)だけど、この人はおおらかで(プラス1)誰に対してもフラットな対応ができる腰の低い人だ(プラス1)」と、最終的には「差し引きプラス1」で、ポジティブな感情を持つことができます。

ネガティブな感情は、相手に伝わりやすいという特徴もあります。「苦手だな」「嫌いだな」と思って接していれば、どんなにうまく隠しているつもりでも、態度や表情に表れてしまうもの。そして、こちらが「苦手だな」と感じている場合、ほぼ100パーセント相手も同じように感じていると思っていいでしょう。自分が相手に対して抱いている感情は、鏡のように自分に返ってくるのです。

上司と良い関係を築いていくためには、まず相手の良い部分を探して、認めること。何か自分と違う部分があっても「合わないな」、だから「苦手だ」と考えるのではなく、「自分とは違うな」、だから「何か学べることはないかな」と、ポジティブに思考を転換しましょう。秘書には、多様な考え方を受け入れられる、優れたバランス感覚が求められているのです。

 プロ秘書からのメッセージ 
「苦手だ」ととらえるのではなく、「自分とは違う」と考えよ

中村由美(なかむら・ゆみ)
コンサルタント会社の社長秘書を経た後、株式会社壱番屋に入社。創業者・宗次徳二氏をはじめ、3代の社長に仕える。日本秘書協会(元)理事、ベスト・セクレタリー、秘書技能指導者認定、サービス接遇指導者認定。カレーハウスCoCo壱番屋創業者(宗次夫妻)秘書。著書に『日本一のプロ秘書はなぜ「この気遣い」を大事にするのか』(プレジデント社刊)(http://presidentstore.jp/books/products/detail.php?product_id=1730)などがある。