3回シリーズでお送りしている、ジェーン・スーさんの“JS流 平成サバイブ術”の第2回。――男社会をしぶとく、スマートに生き抜くためには、女ならではの個性を生かすことが成功のカギ! 女の個性って、なんだっ!?

正攻法じゃなく、奇襲作戦でいこう

女性が活躍の場を広げて輝く秘訣としては“お花見の場所取り作戦”でいくのがいいんじゃないかと、かねがね思っています。

未婚のプロこと、ジェーン・スーさん。連載2回目の今回は、男女それぞれの「働く」ことへの矜持について語ります。(取材協力:ウェスティンホテル東京 龍天門)

お花見を社会の構造に置き換えてみましょう。花見の席=組織上のポストです。そこはすでに、場所取り用のブルーシートが敷き詰められちゃっているんです。そのブルーシートが、重なっていないわずかな隙間に「あら、桜がきれいね~」なんて言って、さりげなくすべり込む。

周りの花見客と「きれいですねえ」と話をしながら、風でシートがめくれたらチャンス到来。「こっちで1杯どうですか」とすかさず仲間を引き入れて、さりげなく座り込む。また「友達が来たんで入れてもらっていいですか」とか言いながら、花を見ているフリをして、どんどん陣地を広げていく。

こうしたさりげなく、でもしたたかな「交渉力」は、女性の立派な個性。うまく利用して立ち回っていくことが大切だと思いますね。肩ひじを張る必要はないし、せっかくの女性という“個性”をつぶすことは考えないほうがいいですよ。

もちろん、真正面から「その席譲ってください」とぶつかるのが悪いというわけではありません。「そこは私の場所です」とポストを自己主張するやり方もあるとは思うんですけど、それで譲ってくれるほど、世の中甘くないし、いい人ばかりじゃないですから。相手を見て、交渉の仕方を変えるのは働くのに必要な柔軟性です。陰口を叩かれがちな“相手によって態度を変える人”とは違うレベルの話です。

マイノリティが生き抜く、ということ

組織で生き抜くってことはある種、交渉事でしょう。だからこそネゴシエーターとしての能力を高める必要があって、そのためにはその世界のルールを頭に入れておくことが重要なんです。

ゲームは、ルールを熟知している人ほど有利ですよね。拙著『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎刊)でも書きましたが、そのルールって、だいたいマジョリティが決めている。現状の仕事社会においてマジョリティは男性ですよね。その中で、ルールを決めているのは一部の男性。

マイノリティである女性が、男性社会を生き抜くには、そのルールを知ったうえで行動しないと勝てない。ルールを変えていこうとするのであれば、なおさらです。

どうするかというと、女性の力を信用していないタイプの男性には、女はこんなもんだろうって思っている女性の型を身にまといつつ主張する。男性が期待するステレオタイプの女性らしさという洋服を着ておいて、道を開けてもらったらニコニコして居座り続ける、みたいな感じかな。

これは仕事に限ってのことですが、正面から対決ばかりしていたら、明日の飯の種がなくなる可能性があるわけです。戦うだけで給料が出るならいいけど、そうもいかないでしょう。真正面から戦えない自分を責めないで、うまくやることも大切です。それはズルではない。

最初から「道を開けろ!」と怒鳴っても嫌な顔をされるだけ。警戒されるのは場所取りをして動かせない楔を打ってからでいいんです。「桜がきれいね?」とさりげなく入り込むというのは、そういうこと。これは決して男性への媚びではなく、正当な権利の主張の仕方だと思います。

敵(男)を認めることも大事

それと同時に、忘れてほしくないのは、男の人は仕事に対する責任感や矜持が女性のそれとは全然違うということ。

男性は大卒なら22歳で働きはじめて、65歳まではノンストップで働き続けることが当たり前とされているでしょう。途中で「こんな会社いつでも辞めてやる!」とは安易に言えない環境にあらかじめ置かれているんです。

そして、その状況というのは、社会で期待されていることや、高い給与水準や出世のしやすさといった男性として得られる特権とセットになっている。一見、うらやましく思えなくもない。でも、それを女性である自分に置き換えてみると結構キツくないですか?

私、未婚ですけどね。自分が一生誰かを養っていくと考えたら、今以上に怖くて結婚なんてできないですよ。共働きが主流になってきたとはいえ、まだま だ稼ぎ手は男性という家庭も多い。その稼ぐ役割が自分だとしたら……。

家に自分が働かないと食べていけない人がいる。子供がいる。教育費や家のローン、老後の蓄えだって必要になる。しかも自分が働いた分のお金を全部家族に渡して、そこからお小遣いをもらうことにも文句を言わないんですよ。

男の人がそれを不条理だと感じないのは、男性としての特権と「男は、女子供を食わしてなんぼ」っていう思い込みがセットになっているから。マジョリティである男が築いたその構造に対して、男性自身が疑問を持てないというか、そういうものと受け入れているんじゃないですか。

女は不条理を受け入れる代わりに、自由を得てはいないか?

この構造をそのまま女性に当てはめてみたらどうなりますか。もう暴動ですよ(笑)。「ひどい!」「理不尽だ」って言う女性はいっぱいいるでしょう。

女性は、35歳になって「ヨガのインストラクターになりたいからインドに行きます」と会社を辞めたって、「人生楽しそうでいいね」となるけど、男の人がそんなこと言ったら「あいつヤバイよね」って思われるのが今の日本社会でしょう。

女性は男性よりもよっぽど自由なんです。それは、働き手として期待されていないという悲しい現実とのセットでもあるのですが。期待されていなかったからこそ「女性活用」なんて言葉がでてくるわけで。

男と女、期待されているものが違うと分かった上で一緒に仕事をしないと、逆にこっちの首が絞まることになりかねない。会社や組織って不条理も多いですけど、そういう違いを理解したうえで働けば、一緒に働く男性への接し方、見え方はおのずと変わるでしょう。変に腹も立たなくなりますし、お互いに感謝することもできるではないでしょうか。そこで改めて、女性としての「交渉力」が問われるのではないか、と思います。

私自身、不条理に腹を立てて吠えていたタイプでしたから、タイムマシーンに乗って若い頃の自分に言いたい。「社会の不条理をあげつらっても何にも解消しないよ」って教えてあげたいですね。

※第1回「ジェーン・スーより指令【1】 武装解除し「かわす力」を身につけよ」を読み逃した方はこちら(http://woman.president.jp/articles/-/416
※第3回は7/23に更新予定です

ジェーン・スー
東京生まれ東京育ちの、生粋の日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。音楽クリエイター集団agehaspringsでの活動に加え、TBSラジオ「ジェーン・スー 相談は踊る」をはじめとしたラジオ番組でパーソナリティーやコメンテーターを務める。著書に『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ社)、『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎)がある。TBSラジオの番組をまとめた『ジェーン・スー 相談は踊る』(ポプラ社 編者/TBSラジオ ジェーン・スー 相談は踊る)は、ラジオリスナーでなくとも、ジェーン節を堪能できる内容になっている。