入門書を買って一から勉強

エレクトロニクスの研究をしていた時は、1人の研究者が1つのテーマをもつこともあり、個人の裁量に任されて研究をすることも多かったです。新たな技術を立ち上げるということはまだ誰も歩いたことのない道を1人で歩いていくようなもので、商品化が可能かどうか分からない状況はとても不安で心細く思うこともありましたが、たとえ失敗しても後ろ向きにならずに前に進んでいこうとは思っていました。

コマツ開発本部 エンジン開発センタ 向島美香さん

一方でエンジンの開発というのは、決して1人ではできないものということを実感しています。

2014年からの排出ガス規制に対応するため、当初私はエンジンの排出ガス浄化システムの開発を担当しました。エンジン開発センタには大学時代からエンジン一筋のエンジニアもたくさんいますが、私の場合は書店で内燃機関の入門書を買うなど一から勉強し、試行錯誤しながら開発に携わることになりました。

職場も業務内容も大きく変わることとなり苦労することも多かったですが、新しい技術に携われることは楽しいですし、自分自身で勉強するとともに周りの人の助けも得ながら変化に真摯に前向きに対応していこうと考えています。

エレクトロニクスの研究を実施していた時以上に、エンジンの開発では失敗が許されません。目標がきっちり決まっていて、達成しないと製品を売り出すことができないからです。そして、その中ではグループの仲間たち、エンジン本体の開発グループや協力企業の方々など、本当に多くの人たちとの調整がひっきりなしに行われていくことになります。

他部署との絶え間ない調整

もともと私は人見知りをするタイプで、入社してからも少人数で研究をすることが多かったので、最初はその雰囲気に慣れるのが少し大変でした。昔から分からないことがあっても積極的に人に聞けないところもありましたが、開発が本格的に始まると、とてもそうは言っていられなくなりました。

(写真上)向島さんが開発したエンジンが搭載されたICTブルドーザー「D155AXi-8」(写真下)向島さんが勤務する小山テクニカルセンタ。竣工したばかり。

エンジンの開発というのはある一方を立てると、別の一方が立たなくなることの連続です。例えば排気システムの性能を高めるだけであればいかようにもできるけれど、そうすると耐久性が悪くなったり、肝心のエンジンのパワーが犠牲になったりするわけです。その全てをターゲットに収めるためには、本当に多くの制限の中で他の開発グループと絶え間なく調整を図ることが必要なんです。

これなら上手くいくと思っても、テストをするとぜんぜんダメということもありますが、データをひっくり返して、物事をさかのぼって考え直す。それを同僚たちと議論を重ねながら、ある一定のスピード感を持って進めていくことが重要です。

いまは先行開発を担当するグループの主任技師として、AとBという道があったとき、どちらに進むかをはっきりと理由を示しながら、みなに伝えなければならない立場でもあります。

私たちのようにものを作る仕事は、エレクトロニクスであれエンジンであれ、社会に役立つものを作りたい、という思いに支えられています。その思いを確認し合いながら、周囲の人たちとチームで開発を進める日々をこの数年送ってきたことは、仕事に対する考え方だけではなく、自分自身を少しずつ変えていったように感じています。

●手放せない仕事道具
ノートは方眼派。月刊スケジュールを張り付けて手帳の機能も。

●ストレス発散法
快食・入浴・快眠でその日の心身の疲れを癒すことです。

●好きな言葉
ボクシングにラッキーパンチはない(普段の地道な積み重ねが重要だという趣旨の、ある物語の中のセリフです)

向島美香
大学卒業後、2000年にコマツに入社。研究本部にてエレクトロニクス関係の研究に従事した後、2008年から建設機械用エンジン開発に従事し、2012年に開発本部に異動、2013年から現職。