世界中のエンジンを小山工場で

私の職場がある栃木県の小山工場は、コマツ製の建設機械に搭載されているエンジンの一極生産工場です。最も小さいもので3リッター、大きいものでは46リッターエンジンもあるんですよ。

コマツ開発本部 エンジン開発センタ 向島美香さん

街中でも見かける道路工事現場の油圧ショベルから、世界の大規模鉱山に導入されている巨大ダンプトラックやブルドーザーまで。それこそ世界中に散らばる大小様々な建機のエンジンが、もとをたどればこの工場から出荷されています。そのことをときどき想像すると、自分の仕事に何だかわくわくするような醍醐味を感じますね。

所属しているのは、コマツとアメリカのディーゼルエンジンメーカーのカミンズ社の合弁企業であるIPAという会社です。ここにコマツのエンジニアとして出向し、次世代エンジンの先行開発を行うのがいまの立場です。現在は約20名のグループで主任技師として次の新しいエンジンのコンセプトを考えてその性能を実証する役割を担っています。

コマツは昨年、日米欧の新しい排出ガス規制に対応した新エンジンを投入したばかりです。今後はやはりダントツの低燃費エンジンが要求されると考えています。しかしながら建設機械のエンジンというのは燃費を良くすることも大事ですが、それ以上に耐久性も求められます。

舗装された道路を走る乗用車と比べ、建設機械が使用される環境ははるかに過酷です。稼働する場所は平地ではないことも多いですし、赤道直下の暑い国、シベリアのような極寒地や空気の薄い高地でも使われます。オーバーホールをしながら、過酷な現場でときには20年近く使い続けられるのですから、それに耐えうるだけの強さがなければなりません。

私たち先行開発のグループでは新エンジンのコンセプトを決め、開発の達成手段、実証試験をして量産エンジンのグループにその後の開発を託すんです。

キャリアのスタートは、「本業」ではない分野

私がコマツに入社したのは2000年のことでした。いまでこそ本業中の本業である建機の開発に携わっていますが、最初は平塚市にある研究本部(当時)でエレクトロニクス分野の研究をしていました。

コマツは日本で1位、世界でも2位のシェアを持つ建機メーカーというのが、一般のイメージだと思います。私自身も重厚長大なことをしている企業だと思っていて、学生時代はそうした研究本部があるとは知りませんでした。でも、実は私が大学を卒業して就職した頃は、多角化経営で建機以外にも経営の柱を持とうと、エレクトロニクス分野の研究にも力を入れていたんです。

研究本部では本業の建機とは異なる分野のエキシマレーザー、それから熱電発電技術の研究を行いました。コマツの「本業」ではないという位置づけもあったのでしょう、平塚の研究本部にはまるでベンチャー企業のような雰囲気もあり、新しい技術を世の中に出すことを目指していました。比較的女性のエンジニアも多くて、就職活動時に初めて研究室を訪れたときは、コマツってこういうこともやっているんだと思いましたね。

転機は2008年に、エンジンの開発部署に移ったことでした。エレクトロニクス一筋だった私が本当の意味でコマツという会社と出会ったと言えるのかもしれません。そこで初めて実際に期限が決められた中で開発を行うプレッシャーや緊張感、それゆえにこれまでとは違った形のやりがいを体験することになったからです。

向島美香
大学卒業後、2000年にコマツに入社。研究本部にてエレクトロニクス関係の研究に従事した後、2008年から建設機械用エンジン開発に従事し、2012年に開発本部に異動、2013年から現職。