300万円程度から利用できるラップ口座
「投資をしたいけれど、時間がなくて……。新聞に出ていた『ラップ口座』にしてみようかな……。ねぇ、どう思う?」
40代会社員の友人から聞かれました。
ラップ口座とは、証券会社などの金融機関が行っているサービス。証券会社や信託銀行に数百万円以上の資金を預け、運用を任せるものです。
一昔前までは千万円単位の資金がないと利用できず、利用者の多くは富裕層や多額の退職金を手にしたリタイア層でした。現在は300万円程度から利用できる金融機関が多くなるなど最低投資額が(以前よりは)小さくなり、利用者が増加。皆さんも新聞などで話題を目にしたかもしれませんが、私の友人も新聞で「ラップ口座が人気」という記事を読んで興味をもったようです。
株価が上がると投資に関心をもつ人が増えるので、その流れでラップ口座を利用する人も増えた、というところでしょう。余計な話ですが、どんな運用商品でも、株価が上がっていなければ人気は出ないものです……。
コンサルティングと戦略づくり
人気の理由はともかく、ラップ口座とはどんなものなのか、利用した方がいいかなど、考えてみましょう。
運用を任せるのがラップ口座、と述べましたが、具体的には、スタート時に「どんな運用がしたいか」を利用者と金融機関の担当者が相談し、方針を決めます。資産の額や内訳、年齢、投資経験などから、どの程度のリターン(収益)を狙うか、どの程度の損失に耐えられるか(リスク許容度などという)を明確にしていくのです。
そして、それに応じて、「運用金額の半分は株式、もう半分は債券に投資する」「積極的にリターンを狙いたいから新興国の株式にも多めに投資しよう」など、「どんな資産に」「どんな割合で」投資するかが提示されます。
投資には、「卵をひとつの籠に盛るな」という格言があります。資産の全額を1社の株式に投資すると、その会社に何かあった時には資産がゼロになる危険性もあります。そうならないよう、1社ではなく複数の会社、株式だけではなく債券、国内に限らず世界など、投資先を分散させるのが投資の鉄則。ラップ口座でもその鉄則に沿って「分散投資」させるのです。
国内の株式、先進国の株式など、過去の実績などを参考に、各資産がどの程度の投資成果を生み出すかを推計し、期待する投資成果を得るための最適な組み合わせを考えてくれる、というわけです。
つまり運用の方針を決めるためのコンサルティングをしてくれて、運用の方針に合った投資先や配分の決定をしてくれるのが、ラップ口座なのです。
運用報告やメンテナンスも
投資比率などが決まったら、実際に運用がスタートします。
実際に投資するのは、ほとんどの場合、投資信託(投信)です。
投信とは、複数の投資家から集まった資金がまとめて運用され、得られた収益が分配金や値上がり益として還元される仕組みの投資商品です。たとえば国内株式に投資するとしたら、国内株式に投資する投信を購入する、ということになります。どんな投信が選ばれるかも、金融機関任せです。
ラップ口座の中でも、最低投資金額が千万円単位のものなどでは、投信のほかに、直接、株式を買ったり、ヘッジファンドといわれるものに投資したりと、投資対象の幅が広がります。
運用開始後は、4半期ごとなどのペースで運用状況を知らせるレポートが届いたり、金融機関によってはネットで随時、状況がチェックできたりします。
また時間が経つと、株式1:債券1の比率で投資していたのに株式が大きく値上がりしてバランスが崩れるなどの変化が生じるため、定期的に資産の入れ替えなども行われます。これは「リバランス」といわれるメンテナンス作業で、運用においては大事なプロセスなのですが、なかなか面倒。ラップ口座ではそれも含めてお任せです。
儲かるとは限らない!
ここまで説明すると、友人は「よさそう~」と言いました。
「コンサルを受ければ自分に適した投資方針を導き出してもらえそうだし、専門的な知識がなくても投資ができるってことでしょう? 途中のメンテナンスもしてくれるから時間がなくてもいいしね」と言うのです。
甘い! 果たして、そんなにオイシイことばかりではありません。
強調しておきたいのは、金融機関に任せたからといって、絶対に希望通りの投資成果が得られるわけではないし、さらにいえば必ずしもリターンが得られるわけではない、ということです。
株価などは思ったとおりには動きませんし、予測が難しいのはプロであっても同じこと。過去の値動きなど、莫大なデータとノウハウを使っているとはいえ、将来を正確に予測することはできません。
最善の組み合わせを考えたつもりでも、結果が伴うとは限らないのです。
リーマンショックの際には、自身の判断で投資している人も、ラップ口座を利用している人も、多くの人が資産を減らしました。プロであっても、最善を尽くしていても、ノウハウがあっても、金融危機というような場面では損してしまうことが多いのです。どんなに優れた船頭さんでも、嵐の海では太刀打ちできないのです。
そのことはよくよく認識しておくべきですが、プロに任せるのだから損しない、ちゃんと儲かるなどと過信しがちです。リーマンショックのあとには、金融機関にうまいことを言われて騙された、退職金が減ってしまったなど、ショッキングな記事が週刊誌を賑わせましたが、投資に絶対はなく、必ずしも金融機関が悪いとはいえませんし、責任を問うこともできません。
コストも高い!
もうひとつ、コストがかさむということも知っておく必要があります。
普通に投信を買うときには購入手数料がかかりますが、ラップ口座では購入手数料が不要なものの、資産の2%(1%台後半~2%台など、金融機関によって異なる)、といった形でラップ口座の手数料がかかります。
さらに投信を保有している間は、投信の信託報酬(投信の運用手数料)がかかります。信託報酬は0%台後半から2%程度など、投信によって異なります。
ラップ口座の手数料と信託報酬を合計すると、コストは3%程度にのぼります。たとえばコストが3%かかる場合、資産が5%値上がりしても実質的なリターンは2%ですし、3%以上値上がりしなければリターンは得られない、ということです。仮に資産が値下がりしても、コストはかかります。
運用で成果を得るにはコストを抑えることが大切であり、その意味で、ラップ口座の手数料は高いと言わざるを得ません。
ラップ口座は魔法ではない
「ということは、ラップ口座は使わない方がいいってこと……?」(友人)
Yes。とく投資経験が浅い人にはラップ口座はお勧めしません。
そもそも投資経験が浅い人が一度に数百万円もの資金を投資するのは危険であり、まずは少額で投資を始めて、慣れてきたら金額を増やしていくというのが王道です。
また人に任せるのではなく、どんな投資先があって、どれが合っているのかなど、少しずつ経験を積んだ方が「経験という資産」になると思います。
「プロといっても魔法使いではない」、ということを友人に伝えます。
1989年よりライターとして活動。資産形成、投資信託、住宅ローン、保険、経済学などが主な執筆テーマ。