「この先ずっと働き続ける!」と決意している人も、「この先ずっと働き続けられる?」と不安に感じている人も。未来の幸せのために、今できること、すべきことを、女性の働き方に関する支援経験が豊富な中小企業診断士・小紫恵美子さんとともに考えていきます。

オンナの仕事道は迷い道?

ある32歳の働く女性から、こんな相談を受けました。

「仕事はきついこともあるけれど、やりがいを感じられるまでなりました。今までずっと目標にしていた海外支店に勤務するポジションにも打診されたんです。一方、そろそろ出産のことも気になるんですけれど、肝心の彼がそもそも結婚に煮えきらない様子です。親も高齢になってきて安心させてあげたいけれど、自分から結婚を言い出すのも嫌だし、それならまずは小さなマンションでも投資目的で買っておこうか、って考えているんです」

仕事も家事も恋もデキル女だからこそ迷う。数多くある選択肢を前に、どれが自分にとってのベストなのかがわからなくなってしまうのです。

■仕事にも育児にも真面目な女性ほど、悩む

女性は学校を卒業して仕事を始めると、迷うポイントが各所に現れてきます。今でこそ、「結婚したら仕事はどうするの?」などという上司や同僚はいなくなりましたが、いまだに第1子出産後に会社を辞めてしまう女性が6割いることからも、女性が仕事を当たり前に続けられる社会になったとは到底いえない状態なのです。

仕事を辞める理由は人それぞれですが、例えば末子妊娠後に退職を決めた人にその理由聞いたところ、第1位は、「家事・育児に専念するため自発的に」となっています。(内閣府webサイトより)

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「末子妊娠時の就業形態別退職理由」より (出典:内閣府webサイト掲出、厚生労働省委託 三菱UFJリサーチ&コンサルティングス「育児休業制度等に関する実態把握のための調査(労働省アンケート調査)」(2011年度版)を元に作図)

自発的に、とありますが、すべての人が「積極的に」辞めたわけではないはず。その根底には、「このような働きぶりでは、将来子供との時間を過ごすことが難しいだろうな」「夫が働いていて家計は何とかなる以上、私が辞めた方がいいんだろうな」などの想いがあるのではないでしょうか。仕事もしっかり責任を果たしたい、そして家庭でも、いい妻、お母さんでいたい、という決断が働いているのだろうことは想像に難くありません。

自由になる残り時間は意外と少ない!?

■まずは頭の中を整理:出産を考えるならばその年齢を設定した働き方年表を

仕事、結婚、出産、育児、介護。この中で、制約条件となってくるのは出産年齢です。もちろん子供を産むかどうかは個人的な問題で周囲がとやかく言うことではないですし、子どもがいなくてはならないというつもりも毛頭ありません。夫婦2人で、1人で、充実した毎日を送っている人もたくさんいます。大切なのは、自分で決めること。そのためには、このような「働き方年表」をまずは作ってみることをお勧めします。

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思い切り働ける時期、働きづらくなる時期が一目でわかる小紫式「働き方年表」。パートナーの仕事のプランや、子どもの人数など、個々人の希望や条件に合わせてカスタマイズしながら自分だけの年表を作っていく。資格取得や留学などを考える手立てにも。

横軸に自分の年齢、およびパートナーがいる人はその年齢を、縦軸に自分とパートナーの予定ややりたいことを書き出してみましょう。出産を考えている場合には、仮に時期を定め、そこを基準にして結婚や仕事の配置を考えます。65歳まで働くとすると、実は長い期間にわたる計画を考えることなのだ、という全体像も見えてくると思います。

育児や介護などによる制約がかかり、自分主体では働きづらくなる期間がおのずと発生してきます。「制約期間」は長さも発生する時期も人ぞれぞれ。この表では「制約期間」の例として、「自分の年齢」のところを、「子どもが小学校1年生になるまで」と「親が80歳以上」となる期間、色を変えてあります。自分とパートナーが仕事だけに全力集中できる時期は、意外に少ないことがおわかりいただけるでしょうか。

出産については「仮に時期を定める」と前述しましたが、グラフのように、20代後半から女性の妊娠力は低下が始まり、35歳を過ぎると急激に不妊率が高まるという調査報告もあります。出産を考える人はまずはここを中心に計画をする必要があります。

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NPO法人Fineによる「不妊に関する意識調査」(NPO法人日本不妊予防協会との共同調査)結果報告からデータを引用。(https://j-fine.jp/prs/prs/fineprs-anke1.pdf)グラフは筆者作成。

出産は女性の体にとっての一大事業。特に第1子は初めてのわが子ということもあり、産む前とは体や心が大きく変化する人もいます。結果、お休みを想定より長く必要とする人もいるかもしれません。キャリアに「ブランク」はできますが、会社の制度で使えるものを調べて活用し、働き続けたいもの。自分の価値観も踏まえて、今後どんなふうに働いていきたいと「今」思っているのかを、前述の働き方年表を使いながら整理しておくことが大事です。

制約期間の前に、職場ですべきこと

■人に伝え、説得する:自分が「会社の業績に対してどんな貢献ができるのか」という観点で

次に、制約条件を加味した「働き方プラン」を考えます。仕事にブランクができるということは、まわりの人たちにも少なからず影響を与えるということです。今の会社で働き続ける、と決めている人は、どの分野でどんな仕事を成し遂げたいのか、上司との面談のたびに適宜説明していきます。営業として○○という顧客を開拓してこんな取引をしたい、あるいは、こんな新規事業を始めたい、またはそのサポートとして経理総務を引き受けたい等々、必ず会社や所属する組織の方向性を意識した仕事の内容にすることがポイントです。

女性たちに対して、経営側からよく出てくるクレームが、「女性は“権利”として産休や育休を主張する」ということです。これらはもちろん、法律でも認められた男女の権利ですから(男性も、なんですよ!)、主張して何ら問題はないものです。ただ、申請される上司や職場の立場になってみれば、その間の仕事の回し方を新たに考える必要が出てくるのも事実。

そのためには、あなたが「会社にいてほしい」人材だという認識を、相手にもたせることが大切です。自分の主張だけではなく会社に対して何が貢献できるかという視点をもっていること、そして、それを裏付ける実績があるとより一層goodです。売上やコスト減につながる貢献、職場の仕事がスムーズに運ぶような気の利いたサポート。出産前の特に20代のうちに、主張した「自分のやりたい仕事」につながる実績を築いておくことが、その後の自分を助ける材料になります。

幸せに向かって自分の人生をコントロール!

■自分の"味方"を見極めよう:実は大事なパートナー選び

働き方年表と働き方プランを組んでみたあとなら、パートナーと結婚、あるいは一緒に暮らした時に、自分が相手に対してできること、相手からしてほしいことがおぼろげに見えてきます(もちろんここから明確に役割分担……などとすると、相手によっては引いてしまうこともあるので慎重に)。ぜひ、結婚前に、パートナーとそのことを話し合ってみてください。できれば、先ほどの働き方年表を見せながら。男性側も自分の親の介護も含めた現実を見て、「男は仕事だけしていればいい」という考え方を改めるきっかけとなるはずです。事実に基づき、数値を使ってロジカルに組み立てる働き方年表はとても「男性的」な分析なので、パートナー、場合によっては会社の男性上司や人事スタッフなどを説得するのには極めて効果的です。

結婚してから、価値観の相違にびっくりして関係を続けられなくなるよりは、少なくとも結婚する前に価値観が合わない部分がある、ということを認識しておいたほうがいいです。その上でどうするか、を真剣に考えてみましょう。大事な今のパートナーです。もし、価値観が違うようなら、頑張って説得するか、相手を尊重してお別れするか、それとも自分の価値観を少し変えるか。家庭という組織をともに動かしていく相手です。出産のタイムリミットを図りつつ、パートナーとのコミュニケーションは密にしましょう。

会社ともパートナーとも、ぶつかってもいいからコミュニケーションをとり、相手の気持ちを理解し、自分の気持ちを伝えることが、結局は自分の仕事や生活をコントロールすることにつながります。

小紫恵美子(こむらさき・えみこ)
中小企業診断士。
経営コンサルタント事務所Office COM代表。二児の母。東京大学経済学部卒業後、大手通信会社にて主に法人営業に従事。1998年中小企業診断士取得後、のちに退職。10年間の“ブランク”を経て、独立開業。
現在は企業研修講師や中小企業への経営支援、執筆活動を行う。企業研修では会計、ロジカルシンキング等ビジネススキルを伝えるとともに、女性経営者を中心に数値とロジックに基づいた経営の重要性を伝える自主セミナーを展開。
最近は、これまでの実績と、自身の大企業勤務→専業主婦→子育てしながら独立開業、という経験を踏まえ、女性の働き方についての執筆や講演に力を入れている。「活き活きと働くオトナが増える社会」を目指して日々活動中。