多様化する放課後の居場所
就学前は認可保育園(=保育所)、就学後は学童保育(=放課後児童クラブ)。働く親を助ける「保育」と言えば、この2つが決定版でした。
しかし今、どちらの「保育」も多様化しています。
「小1の壁」で問題になっている放課後の子どもの居場所はどうなっているのか、都市部で広がる民間サービスも視野に入れて、状況を解説してみましょう。
ざっくり分けると、こんな種類が
就労家庭の子どもに放課後の居場所を提供する事業を、ざっくり分類すると、図のようになります。
学童保育は正式な制度名を放課後児童クラブといい、働く親の子どもが放課後を安心して過ごせるように、遊びと生活の場を提供する児童福祉法上の事業です。
以前は、学校外の学童保育が多かったのですが、だんだんに学校内の学童保育がふえ、東京23区や横浜市・川崎市などでは、全児童対策と合体して実施されるケースがふえてきました。
全児童対策というのは、親が働いているかいないかにかかわらず、その小学校のすべての児童を対象にした遊び場事業です。通常の学童保育には定員がありますが、全児童対策には定員がない場合が多く、大規模化によって子どもの「生活の場」として機能が薄まっているという指摘もあります。
さらに、このところ注目されているのが、民間会社による放課後サービスです。保育時間が長かったり、送迎があったり、習い事や塾的な機能があったりします。ビル等のテナントとして入っているところが多いようです。
学童保育の選び方ってあるの?
学童保育は、保育園ほどには数がないので、選べない地域も多いと思います。ただし、児童館の中に学童保育が設けられているとか、学校に学童保育や全児童対策があるけれども、民設の学童保育、民間会社の放課後サービスも近くにある、といった場合には、選ぶことができます。
簡単に「選ぶ」と書きましたが、何をどう判断したらいいのか、迷いますね。
そこで、特色がわかるチャートをつくってみました。このチャートは、保育園を考える親の会会員の体験に基づいています。実際には、各類型ともさまざまな内容がありますので、全部がこれにあてはまるわけではありません。
チャートの評価項目を簡単に解説しましょう。放課後の居場所としてベーシックに求められることを集めてあります。
(1)安全管理(出欠を含む):子どもに目が届いていて物理的な安全が確保されやすいか、出欠を把握して家庭と連絡を取り合っているか、など。
(2)安心・依存できる大人との関係:指導員(支援員とも言う)が子ども一人ひとりの心身の状態を把握し、子どもが甘えられる関係も大切にしているか、など。大規模な事業では、この点が弱くなりがち。
(3)休息をとったり本を読める環境:学童保育は規模が大きいほど喧噪な環境になりがち。性格にもよるが「静かに本を読むのが好き」という子どもにはつらい環境になる。
(4)宿題等ができる環境:宿題の時間を設けている学童保育は多いが、机を出してみんなが宿題を広げられる室内環境がなければ無理。
(5)戸外遊びができる環境:学校内の場合は、校庭が毎日使える場合が多い。学校外の場合は、どうしても室内が多くなるが、夏休みなどは外に連れ出してくれる場合が多い。
(6)子ども同士の自由な遊び:子ども同士がかかわり創意工夫をこらして遊ぶことの教育的な意味は大きい。ただし、集団遊びは狭い室内では展開しにくい。
(7)遊びたい友だちと遊べる:放課後、気の合うクラスの友だちと遊べないことを苦にする子どももいる。全児童対策と合体している事業は、いろいろな友だちと遊べるメリットがある。
(8)学校からの解放:学校から出てほっとしたい子どももいる。また、友だち関係で悩みがある場合は、人間関係が変わることが救いになることもある(1年生では、そこまで人間関係がフクザツになることは少ない)。
(9)保護者との連携:連絡ノートのやりとりがあったり、保護者懇談会があったり、保護者と連携してくれているかどうか。
(10)利用しやすい費用:全児童対策を一般児童として利用すると無料。学童保育は数千円の保育料がかかる。民間会社の放課後サービスは認可外保育施設並みの料金がかかり、特に1日利用する夏休みの料金が高い。父母会運営の民設学童保育も、保育料が1万円~2万円程度になりがち。
子どものフィットする居場所を
親は、利便性や安全性を第一に考えがちですが、学童保育は子どもが自分の足で通うので、子ども自身がフィットすることがとても大切になります。選べる場合は、子どもの性格や意見も考え合わせて選ぶ必要があります。
選べない場合は、親子でよく話し合い、安全のために子どもに必要性を理解してもらって通ってもらうしかありません。通ううちに楽しくなることもあります。
と書きながら、一番思うのは、やはり一定の質を備えた、子どもが喜んで通える学童保育をふやしてほしいということです。
放課後に子どもは育つ
厚生労働省は、今年4月に、「放課後児童クラブ運営指針」を発表しました。(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000080764.html)
この内容は、実に示唆に富んだものになっています。子ども・子育て支援新制度実施に伴って、学童保育の基準も定められたのですが、指針では、基準に加え、6歳から12歳までの子どもの発達過程を解説し、そんな育ちを支えるために、学童保育はどうあるべきかということが述べられています。ちょうど保育園に保育所保育指針があるように、子どもをしっかり見つめた内容になっているのです。
たとえば、児童期の子どもが、遊びの中で自己の欲求と他者の欲求を折り合わせるために、がまんをしたり順番を待ったり約束を守ることなども身に付けるようになることが述べられ、遊びに子どもが自発的に参加し、遊びの楽しさを仲間と共有するために、大人の援助が必要な場合もあるとも書かれています。
依存からだんだんに自立へ向かう児童期の心の発達についてもふれ、大人が配慮すべき事柄について発達過程別に記されています。
学童保育の指導員にも専門性が求められているのです。そして、指針が示すような放課後生活を実現するためには、施設環境も重要です。
つまるところ、「小1の壁」をなくすためには、学童保育の質の向上が必要であることを、改めて強調しておきたいと思います。
1956年、兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。出版社勤務を経てフリーランスライターに。93年より「保育園を考える親の会」代表(http://www.eqg.org/oyanokai/)。出版社勤務当時は自身も2人の子どもを保育園などに預けて働く。現在は、国や自治体の保育関係の委員、大学講師も務める。著書に『共働き子育て入門』『共働き子育てを成功させる5つの鉄則』(ともに集英社)、保育園を考える親の会編で『働くママ&パパの子育て110の知恵』(医学通信社)、『はじめての保育園』(主婦と生活社)ほか多数。