駅長=親父

立川車掌区区長 久保素弥子さん

JR東日本八王子支社の立川車掌区には、中央線、青梅線、五日市線、武蔵野線の一部に乗車している280名の車掌がいます。そのうち女性社員は43名。これでも当社の乗務員が集まっている職場としては、女性比率は高い方ですね。私の役割は区長として彼らのマネジメントを行うことで、とりわけ中央線という東京の大動脈の1つを抱えていることもあり、大きな責任を感じています。

ただ、「責任」という意味では、実際に現場で列車の運行に直接関わる車掌たちの方が、私よりもそれを強く感じながら働いていることでしょう。安全はもちろん定時運行も強く求められる鉄道会社の特性なのか、当社の社員は新人からベテランまで一様に真面目な人が多いんです。それだけに気を張って仕事をしているので、ストレスや悩みを抱えることもあるかもしない、と彼らの様子を見て、働きやすい環境を作るのが私の務めです。

ちなみに、JRでは駅長のことを「親父」と呼ぶ習慣があるんです。女性駅長なら「おふくろ」かもしれませんが、その言葉が象徴するように、駅長には家族みんなに気を配る一家の中心というイメージがあります。区長もまた、それと同じ役割があると思っています。

私が立川車掌区の区長になったのは昨年の5月のことでした。八王子支社における初めての「女性区長」――その前は「支社初の女性駅長」(国立駅)でしたから、思えばこれまでのキャリアには「女性初」という言葉が付いて回っています。

おお、女がいる!

JR東日本を志望したのは、そもそも旅行が好きだし、人と接したり生活に密着したりしている仕事に就きたいと思っていたからでした。そんななか、国鉄から民営化されたばかりで注目が集まっていたJR東日本に、ミーハーな気持ちもあって惹かれたんです。

いまでこそ鉄道会社で女性が働いているのは当たり前ですが、私が入社した平成2年はJR東日本で女性総合職を採用し始めてまだ2期目、完全な男職場でした。同期で女性は40名。約8万人いた社員の中で、1期生と合わせても100名足らずですから、とにかくめずらしがられましてね。たぶん私たちよりも、年配の男性社員のカルチャーショックの方が大きかったでしょう。「おお、女がいる」と隣の部屋から見に来るくらいで、まるで天然記念物のような扱いでしたから。

まだ社内には着替えをするための女性専用の設備なども完備されておらず、私たちの異動に合わせて慌てて作っている状態。20年程度前はそのような職場だったのですから、車掌や運転士、保線や電力などのメンテナンス部門にも女性が増えてきた今と比べると隔世の感がありますよね。

私は入社してすぐに東京駅の旅行専門のカウンターに配属され、お客様からの旅行の相談を承る仕事をすることになりました。そこでの日々は学生時代に思い描いていた通りのものでしたから、とても楽しい日々を送っていました。でも、キャリアの転機となったのは、やはり八王子駅や国分寺駅の助役として駅のマネジメント業務に携わるようになったことです。

助役というのは駅長の補佐をする仕事です。全ての最終責任者である駅長に対して、駅の日々の運営責任者です。私は窓口責任者としてお客様対応を担当することになりました。八王子支社で女性が助役になるのは初めてのことでした。

JR東日本 立川車掌区区長
久保素弥子
(くぼ・すみこ)
山梨県出身。1990年入社。東京駅、広報課などの勤務を経て、2000年に八王子駅、続いて国分寺駅の助役に。その後は人事関係、お客さまサービス関係の業務にも携わり、11年中央線国立駅長に就任。14年5月より現職。大学講師の夫と2人暮らし。