わが子の保育に「あれ?」と思ったら

やっと保育園に入れたのに、保育士や保育内容に疑問を感じてしまったらどうしたらいいのでしょう。

保育園に疑問をぶつけるのは勇気がいります。保育士さんの心証を悪くしないか、関係が悪化したら園にいられなくなるのでは、という不安を感じてがまんする人も少なくないでしょう。でも、わが子が1日の大半を過ごす保育園と信頼関係をもてないというのは、働く親にとってつらいこと。

どうすれば、今後のためによい結果を引き出せるか、作戦をもってアプローチすることが必要です。

理解しようとする姿勢をもって

気になることをあれこれ自分の中だけで考えていると、どんどん悪い方向へ妄想してしまいがちです。そうならないうちに、思い切って園に相談してみたほうがいいでしょう。

ただし、いきなり「不満をぶつける」という形にならないように。まず「性善説」(悪気はないと考える)でアプローチしてください。

送迎のときの立ち話や連絡ノートで、「家では、いつもこうしているのですが、園ではこうなんですね。そっちのほうがいいのでしょうか」など、相談して相手に説明してもらう姿勢で持ちかけるのが解決の糸口づくりに有効です。

「不便なルール」と思われたことにも、園の側には深い意図がある場合もあります。説明を聞いても納得がいかない場合は、そう伝えてもいいと思います。意外に保護者の事情や気持ちに園側が気づいていない場合もあるので、伝えることは大切です。保育園では、保護者から意見が出ると職員会議などで話題にして検討してくれるのが普通です。

保育士の個人的な言動などが気になるけれど当人には言いにくいときは、主任や施設長(園長)に話を聞いてもらいましょう。認可保育園には「苦情窓口」を設けることが義務づけられていて、施設長や主任などが窓口になっています。いつでも対応してくれるはず。ただし、「苦情があるのですが」ではなく、「ちょっとご相談があるのですが」と切り出しましょう。なお、こういった相談では、人物批判から始めるのではなく、いつ、どんな状況で、どういうことがあったかという事実をしっかり伝え、それについて何を問題と感じているか、何に困っているかを具体的に説明したほうが理解されやすいと思います。

子どもは家族のように一緒に過ごしている

ひとつ前提にしなければならないことがあります。

保育園は子どもが共同生活をしながら育つ場だということです。保育士やお友だちに囲まれて過ごす中で、子どもはたくさんのことを身につけていきます。心を安定させ自分のやりたい遊びに夢中になること、仲間とのかかわり合いをたくさん経験することで、心身の発達が促されていくのです。また、そうなるように保育(教育)を行うのが保育園のあるべき姿とされています(「保育所保育指針」参照)。

0、1歳のころは「かみつき」や「ひっかき」も起こります。活発に遊ぶようになれば、小さなコブやすり傷をつくりながら、身の安全を守るしぐさを身につけます。友だちとぶつかってまず自己主張することを覚え、次に自己抑制することも覚えます。

親としては心が痛む場面でも、子どもはその瞬間に育っています。

もちろん園は子どもの安全に十分に配慮する責任がありますが、小さなケガにも保護者が過敏になっていると、保育が萎縮してしまうこともあります。

つまり、小さなケガや子ども同士のぶつかり合いについては、親は少しおおらかめに見守ったほうがよいこともあるということです。

このことと、大きなケガが起こったのにちゃんとした説明や謝罪がないとか、子どものつらい気持ちを保育士が理解していないということはまったく別です。それらは、保育士の専門性にかかわることです。

明らかに実力不足の園は要注意

ここまで書いてきたようなことが通用しない保育園もあります。

施設長や保育士のレベルが低すぎて基本的なことができていないような園では、保護者としても共感的に交渉するのが難しいし、園側の受けとめる力も弱いので、激しい対立関係になることがあります。

特に、保育の質が低い(保育士の子どもに対する対応がひどい、ケアが行き届かない)ケースや、大きなケガをしたのに対応がいい加減、謝罪もないなどの場合は、保護者としても悠長にはかまえていられません。

ケガは、ていねいな保育を行っている園でも起こるときは起こりますが、保育室や園庭で子どもが過密になっていたり、職員集団が未熟で目が行き届いていないことが誘因になっている場合もあります。大きなケガが起こったときは、発生時の状況把握と検証をしっかり行い再発防止策を検討するということが、保育施設のリスク管理として求められています。

ケガについて「謝罪がなかった」「きちんとした説明がなかった」という不満をよく聞きますが、それは園が子どもの安全に責任をもち、再発防止のための検証をし報告をしてほしいということにほかならないと思います。

事業者の人事が保育の質低下の原因になっている場合もあります。系列施設への異動などで施設長や保育士がいつも入れ替わっていると、在園児の理解、保育方針の共有、チームワーク、室内外の安全管理などが熟成されず、保育はいつもバタバタと落ち着かず、保育士の労働が苛酷になり人材が定着しないという悪循環が起こります。保育士の待遇改善も含め、組織全体で人材の定着・育成に取り組んでもらわなくては、問題は解決しません。

事業者がそのことに気づいていない場合は、保護者がそれを求めてもいいと思います。

はっきりと要望する場合

施設長や保育士と温和なコミュニケーションと相互理解のもとで問題を解決できることがいちばんです。多少カチンとくることがあっても、なるべく友好的な話し合いをもってほしいと思います。

保育園に「モノ申したいときの作法」として、まず「理解しようとする姿勢をもつ」「子どもはともに育つという前提をもつ」ということを挙げました。しかし、それでは通じない場合には、保護者としてはっきり要望することも必要になります。その場合にポイントになることを以下の7つの作法として挙げておきます。

(1)1人でかかえこまない
できるならば、父母会や複数の父母で話し合って、問題意識を共有しておくことが望ましい。家庭内(夫婦)でも共有したい。要望書などを出す場合は、父母会や父母有志の連名などで出せるとなおよい。

(2)記録をとる
問題の出来事、保育士や施設長の言動について日時も含め事実を記録し、問題を具体的事実で指摘するようにする。関係が悪化したとき保護者側に暴言があると「モンスターペアレント」扱いされてしまうことがあるので注意。記録をとることで冷静になれる。

(3)どこに訴えるか
施設長の問題処理能力に期待できる場合は施設長に、そうでなければ、事業者の本部(本社)に。これらの当事者が誠実でない場合は、市区町村の担当課に相談する。私立であっても認可保育園(保育所)は市区町村の事業(民間へは広義の委託がされている)なので、市区町村は運営に関与すべき立場にある。認定こども園・小規模保育・家庭的保育は施設と利用者の直接契約だが、給付費を受けて運営されており(公的契約という)、市区町村が無関係でいることはできない。自治体の助成を受ける認可外保育施設(認証保育所)は公的契約ではないが、公費を受けて運営されていることを理由に指導を求める。

(4)問題を整理する
問題点と改善してほしいことを文章化する。関係が悪化すると大人同士の関係に神経が集中しがちだが、何よりも子どものために改善する必要があるということを要望の骨子にする。その関連で、職員の言動を問題にすることはあってもよいが、それだけになると、第三者に問題の本質が伝わりにくくなる。

(5)どこまで求めるか
文書等で整合性のある要望が出された場合、事業者から「改善の努力をする」等の回答が得られる場合も多い。できれば具体的な約束をとりつけられるとよいが、いろいろなケースがあるだろう。市区町村の担当者に立ち合ってもらい、責任をもって指導・支援するように求めるのも有効かもしれない。

(6)その他の相談機関
園の苦情窓口に苦情を提出したけれども当事者同士で解決しないという場合は、都道府県社会福祉協議会に設けられた運営適正化委員会に調査・助言・勧告を依頼することができる。また、各地の消費生活センターでは、契約に関するトラブルを中心に扱っており、保育施設等についても相談を受け付けてくれる。ただし、保育内容については、踏み込めない場合も多い。

(7)退園を迫られたら
認可保育園は市区町村の事業なので、原則として入退園は事業者だけで決めることはできない。市区町村との協議が必要。その他の保育施設は、施設と保護者の直接契約だが、契約には退園となる場合の取り決めも書かれているはずなので、確認する。いずれにしても、退園を迫られた場合は市区町村に相談したほうがよい。

ずいぶん厳しい内容になってしまいました。

このところ認可保育園の新設が多く、不慣れな施設長や保育士がふえているのかもしれないと思う出来事がふえています。最終的には、保育園に成長してもらうしかないので、そのために保護者から厳しい意見が出ることもときには必要ではないかと思っています。

保育園を考える親の会代表 普光院亜紀
1956年、兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。出版社勤務を経てフリーランスライターに。93年より「保育園を考える親の会」代表(http://www.eqg.org/oyanokai/)。出版社勤務当時は自身も2人の子どもを保育園などに預けて働く。現在は、国や自治体の保育関係の委員、大学講師も務める。著書に『共働き子育て入門』『共働き子育てを成功させる5つの鉄則』(ともに集英社)、保育園を考える親の会編で『働くママ&パパの子育て110の知恵』(医学通信社)、『はじめての保育園』(主婦と生活社)ほか多数。