■編集部より指令

女性活躍推進が叫ばれる今日この頃。

職場で「女性らしいセンスで」とか、「女性らしいアイデアをお願い」などと言われ、戸惑いを隠せない女子たちも多い。

男職場であっても、とくに性別を意識せずに仕事に向かってきた女性たちには失礼とさえ言える。

こんな場面に遭遇したら、どう切り返せば良いでしょうか。

■佐藤留美さんの回答

上司が求める「女らしいアイデア」って?
http://president.jp/articles/-/13675

■大宮冬洋さんの回答

収入半減、週休5日の日々

いつもながら私事になりますけれど、僕も7年ほど前に同じような悩みを抱えていたことがあります。僕はビジネス分野に強いイメージがある大学を卒業し、小売業で1年だけ正社員として働いた経験があり、出版業界に転じた後は実用書の編集を少しだけやりました。フリーライターとして求められる仕事は、当然ながらビジネスや実用系の取材・執筆が多くなります。この連載をやらせてもらっているプレジデント社とも長い付き合いです。

30歳になったときの僕は考え込んでいました。ビジネス系の仕事ばかりを求められても困ります、と。憧れている書き手はみうらじゅんとリリー・フランキーだったので、「オレも彼らみたいになりたい。真面目な仕事は向いてない!」と勝手に決めたんです。身の程知らず、ですよね……。

現実は厳しいものでした。「ゆるいエンターテイメント系」企画を各社に提案してもまったく通らず、仕事量も収入も半分以下になり、週休5日みたいな日々を過ごすことに。体は健康でやる気も時間もあるのに、何をどうすればいいのかわからない。悶々とした時期でした。

売れそうなものは、何でも売っちゃう

そのまま3年が経ち、生活費すら借金するようになってようやく気づいたのです。「自分は強烈に書きたいテーマなんて持ち合わせていない。文章の面白さだけで稼ぐ才能もない。実用記事でも求められているうちが幸せだったのだ」と。翌日にはかつて仕事仲間(編集者)たちにメールを送り、返信をくれた人たちには会ってもらい、「書く仕事なら何でもやります」と頭を下げました。

本当に何でもやりましたよ。というか、今でも「どうしても気が進まない依頼」以外は喜んで引き受けています。自分には向いていなさそうな仕事をがんばってやってみると、意外な発見があったりしますよね。お金をもらえるのも素直に助かります。一石二鳥です。

「あまり得意じゃないからできません」などと謙虚なことはめったに言わなくなりました。そんな理由で断っていたらまた仕事がなくなってしまう、という恐怖感が常にあるからです。

売れそうなものは何でも売っちゃうという図々しさがあなたにも僕にも必要なのでないでしょうか。

「女性ならでは」から「自分ならでは」へ

僕は2年半前に愛知県の三河地方に自宅を移しました。製造業と農業が盛んな地域なのでフリーライターは目立ちます。地元の経済団体から「東京出身のライターから見た東三河の魅力をテーマに講演してほしい」なんていう依頼も受けました。僕は埼玉出身なので「東京人ならではの」なんて求めれても困ります、とちょっとは思いましたよ。

でも、断りませんでした。新しい地元でいろんな人たちと知り合いになれる機会ですからね。講演自体はすごく緊張してしまって失敗でしたが、経済団体の事務局の人たちとは信頼関係ができ、今でもいろいろ教えてもらっています。

職場で「女性らしいセンスで」「女性らしいアイデアをお願い」などと言われるなんてチャンスです。女性社員が過半数の百貨店や化粧品などの業界だったら、間違ってもそんな大雑把な括られ方で存在感を発揮できません。

上司の顔さえ立てれば、好き放題にやれる可能性が高いと思います。あなたが女性だからという単純な理由で「女性らしい」企画を求めてくる上司は、はっきり言って何も考えていないからです。女性らしさなんて無視して、骨太かつ雄渾な企画をぶつけてしまいましょう。

「えっ!? これをやりたいの? 今どきの若い女性はこんなことが好きなのか……」
「そうなんです。さすが部長は女心がわかってますね!」

性別は、学歴や職歴などと同じく僕たちの個性の一つであり、武器にもなり得ます。下品にならない程度に「使えるものは何でも使う」と割り切ると少し強くなれますよ。いろんな人に様々な角度から仕事を求められ、夢中で応えているうちに、いつの間にか「自分ならでは」の働き方をしていることに気づくのではないでしょうか。

大宮冬洋
1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に就職。退職後、編集プロダクションを経て、2002年よりフリーライターに。ビジネス誌や料理誌などで幅広く活躍。著書に『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ぱる出版)、共著に『30代未婚男』(生活人新書)などがある。
実験くんの食生活ブログ http://syokulife.exblog.jp/