アー・ユー・クレイジー?

BTジャパン 社長 吉田晴乃さん

自分のやりたいことをあきらめて専業主婦になるか、子どもを犠牲にしての仕事なのか、そんな馬鹿げたLose-Loseの選択ではなく、お母さんが自分の生き方を選択し、子どもも幸せでいられるWin-Winの生き方があるはずなんです。

2012年、私は170年の歴史を持つBTグループの日本法人の社長に就任しました。BTジャパンは創設30年ですが、初めての女性トップです。

私をBTジャパンの社長に選んだボスは、周りから「アー・ユー・クレイジー?」「(女性活用が遅れた)日本で女性を社長に就けるのか」と言われたそうですが、それでも最初にやったんですからすごいですよね。エリザベス女王やサッチャー元首相と国のツートップを女性に任せた国の代表的企業。器の大きさと先進性を感じます。

企業が女性をトップに就けることは、“我々はパラダイムシフトを歓迎します”というメッセージです。こういう企業文化はその企業が提供するサービス、開発するプロダクト、いたるところに反映されるのではないでしょうか。

多くの女性が営業職についてほしい

私はずっと営業の仕事をしてきました。部下にはよく人の話を聞かないといわれますが(笑)、世間亭はばからずですから、自分がしゃべって人を面白がらせるのが楽しくてしょうがないんですね。それが落語ではなく仕事になっただけです。テクノロジーのマーケットでは女性の営業は希少で、もっと多くの女性に営業職を目指してほしいと思っているんです。営業は女性の特性を生かしやすいからです。

まず女性の営業は珍しいので、必ず名前を憶えてもらえます。名刺交換しようとした方に「もう名刺3枚ももらったから」と言われたこともあります。あと面白いのは、男性は女性にはいつもとはちがう対応をします。女性の営業という定型外シーンが人をオープンにするのでしょうか。お嬢さんの話をされたり、妻にプレゼントしたいが何がいいかと聞かれたりということもあります。ビジネスを超えた会話から、人としての信頼関係を築くということは大切なことです。

なにより営業職のいいところはフェアな評価がもらえるところです。オフィスのサポート業務は定量評価が難しいのですが、営業は数字がモノをいう世界ですから性別は関係ありません。前任者が作った数字をどんどん上回っていけばいい。そう考えるとCEOほど女性にとってフェアなポジションはないかもしれません(笑)

社長も挫折することなんてあるんですか?なんていう不思議な質問には「はい、毎日挫折してます、今日も朝一のミーティングで挫折して始まりました。」と答えています。私は毎日「今日が終わりかも」と思いながらすごしていますが、トップの皆様は同じなんじゃないでしょうか。行けども行けども楽なところはなくて、いつも崖っぷち。でも「いけてるかな」と思ったときは逆に停滞しているときで、抵抗を感じるときこそ前進している証拠じゃないでしょうか。

GDPのためなんかだけじゃ働けない

そんな私が終わりにならない理由は、今年20歳になる娘の存在です。大学生になって、サマーインターンではじめて働く経験をし、周りに「うちのママはずっとお仕事頑張ってきたんだよ」とちょっと自慢げに話しているようです。ママとしては落第だったけれど、ビジネス社会において、私は彼女の世界一のコーチになれます。娘への罪悪感にさいなまれつつも仕事優先に走りぬいた20年。今、娘に認められることで自分を許し、ようやく間違いのない人生だったと思えるようになりました。20年の歳月を要しました。

働く女性、母親が増えることはGDPを成長させること。それもひとつ。日本の労働力不足を解決する、それもその通り。ですが、「GDPを伸ばすために女性を活用する」だけでは、女性はくじけてしまいます。そんな指標なんて、悲しむ子供を前にどうでもよくなってしまう。なによりも最大の未来のGDPは、次世代を担う子ども達です。働く母親が増えることが、今の子ども達にどういう影響を与え、そしてその子ども達がどういう大人になることを選択をするのか。

女性の社会進出を応援するためにはもっと子どもの視線での議論というのも必要なのかと思っています。

私のライフワーク、通信

通信業が私のライフワークだと思うのは、このテクノロジーの進化こそが女性解放だと思うからです。

女性、そして人類の解放ですよね。

私の仕事道具:電話会議システム。国内外のどこにいてもミーティングに参加できる。

通信=テレコミュニケーションの「テレ」とはギリシャ語で遠隔のことで、語源は遠隔通信なんです。我々は遠隔通信を可能にしている世界のライフライン業なんです。たとえばBTのテクノロジーを使えば、テレビ(電話)会議システムで、子どもの体調がすぐれない日は家にいながら会議に参加できます。また託児所の子どもと仕事場にいるママをいつでもテレビでつなげることもできるテレコミュニケーションは、ドラえもんのどこでもドア。つまり子どもか仕事かみたいな選択じゃなくて、両方だけど、どっちに実際の身体があったほうがいいかという選択になるんです。

我々のコーポレートミッションは“Connecting for a better future.”。

世界の国々、人々、文化、マーケットをつなぐこのライフライン業に、最高のロマンを感じながらやっています。勝手し放題の人生懺悔の念をこめ、ドラえもんのどこでもドアで、日本、働く女性たち、子ども達を輝ける未来へとつなげていきたいと思います。