■編集部より指令

愛煙家はますます肩身の狭い世の中です。だからか、タバコ部屋での結束がより固くなっているというようなことも聞きます。

たまにそこで人事が決まったりするようなのですが、本当にそうなんでしょうか。

■大宮冬洋さんの回答

「タバコ部屋」では何が話されているのか -男社会のトリセツII・男の言い分
http://president.jp/articles/-/12581

■佐藤留美さんの回答

吸わないのに入室する人々

タバコ部屋で人事が決まる――。

コレは確かに複数の会社人から、聞いたことがある話です。

たとえば、こんな場面が想定されます(以下、筆者があるIT企業幹部から聞いた話)。

タバコ部屋で幹部同士が、現在提案中のビッグプロジェクトの進捗を報告し合っています。そこに、中堅クラスのマネジャー氏が入っていく。幹部たちは、慌ててピタリと会話をやめる。

でも、幹部たちは、現場に近いマネジャーに、そのプロジェクトを引き受けたら何人くらいの動員が必要か、どんな問題がおきやすいのかといった現場寄りの話が聞きたい。

そこで、「○○くん、そういや、最近△のプロジェクト、どう? 問題ない?」なんて風に軽く打診する。

マネジャー氏がそこで幹部たちが欲しいネタを提供したとする。すると幹部たちは顔を見合わせて、「あいつ、いいな」となる。

そして、このマネジャー氏は、幹部たちの推薦により、新規ビッグプロジェクトのリーダーに抜擢される――。そんなことは現実にあるようです。

確かに、非喫煙者からしたら、喫煙者同士のえこひいきにみえるかもしれません。実際、ズルい話です。だからでしょう、上記のIT企業では、最近、喫煙しないのにタバコ部屋に入っていく猛者まで出現中なのだとか。

肩身の狭い者同士で強まる絆

しかし、私は何も非喫煙者が受動喫煙してまで、そこまでする必要はないと考えます。

そもそも、なぜタバコ部屋で喫煙者同士が結束を固めているかというと、心理学的に秘密の共有は親密度を高める効果があるからだと思います。

筆者はつい最近禁煙したものの長らくスモーカーでしたので分かるのですが、今どき、喫煙者は本当に肩身が狭い。

喫煙者の多くが、タバコなんていう害悪しかないものにハマり、それなしではいられない中毒になっている自分が内心、嫌で仕方がないはずです。

喫煙所はいわば、そんな脛に傷持つ者同士が肩を寄せ合う場。人には言えない不倫の恋が盛り上がるメカニズムと似て、絆が深まるのは必然です。

だから、非喫煙者が煙草も吸わずにタバコ部屋に入り込むのは、スモーカーからしたら、治外法権を侵されるようでかえって不快なのではないでしょうか。

タバコを吸わずに「上」と距離を縮めるには

では、非喫煙者は力のある喫煙者とどうやって距離を縮めるべきか?

それは、先述した、「人は秘密を共有すると親密度が増す」心理学のテクニックを、駆使すればいいのではないでしょうか。

具体的には、喫煙部長とお酒でも飲みに行った時、「ここだけの話なんですけどね」とか、「誰にも言わないで欲しいのですが」とか「これは秘密にして欲しいのですが」などといって、自分のプライベートな部分や、仕事で今悩んでいることなどを話すのです。

人は誰だって、「ここだけの話」「秘密にして」と相手に言われると、自分にだけ心を開いて貰ったようで優越感に浸れますし、秘密を共有することで親密度を高めることが出来ます。

また、上司が欲しい情報とは、書類には落とし込めないアンオフィシャルなネタであり、そうしたネタを放出することは、実際彼ら彼女らの役にも立つことでしょう。

佐藤留美
1973年東京生まれ。青山学院大学文学部教育学科卒。出版社、人材関連会社勤務を経て、2005年、企画編集事務所「ブックシェルフ」を設立。20代、30代女性のライフスタイルに詳しく、また、同世代のサラリーマンの生活実感も取材テーマとする。著書に『婚活難民』(小学館101新書)、『なぜ、勉強しても出世できないのか? いま求められる「脱スキル」の仕事術』(ソフトバンク新書)、『資格を取ると貧乏になります』(新潮新書)、『人事が拾う履歴書、聞く面接』(扶桑社)、『凄母』(東洋経済新報社)がある。東洋経済オンラインにて「ワーキングマザー・サバイバル」連載中。