■編集部より指令

女性管理職を増やそうとする企業が増えてきましたが、登用の話を持ちかけても断られてしまうなど、昇進・昇格への意欲が低い女性に頭を痛める人事担当者も多いようです。

ズバリ、管理職になりたくない彼女たちのホンネとは? また、どうすれば彼女たちの気持ちを持ち上げることができるのでしょうか。

■佐藤留美さんの回答

女性が管理職になりたくない理由 -管理職登用・女の言い分
http://president.jp/articles/-/12224

■大宮冬洋さんの回答

マネージャーは癒し役

何年か前に、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』という本が大ヒットしましたね。読みました? 僕は読んでませんけど、「マネージャー」という言葉の意味と価値が学生と社会人ではずいぶん違うなあと思います。

学生時代の運動部におけるマネージャーって、本当に裏方もしくは「癒し役」ですよね。男ばかりではむさ苦しいので、「洗濯とかテーピングとか何にもしなくてもいいから練習を見に来て!」とかわいい女子に頼んだりする部もありました。男子がマネージャーになる場合は、選手として活躍できない人が「でも部活はやめたくない。みんなの支えになりたい」とサポート役を買って出ることが多いですよね。花形はあくまでも選手たちです。

一方の企業。マネージャーはずいぶん威張っています。「管理職」というとちょっと古臭いけれど、マネージャーはカッコいい。この連載をしているプレジデント社も『プロフェッショナルマネージャー』というヒット作を出していますね。これも読んでませんけど、黒っぽくて素敵な表紙だと記憶しています。オレ、張り切ってマネジメントしちゃうぜ、みたいな気分になりますよね。

男社会の息苦しさ

ええっと、お題は何でしたっけ? 「管理職になりたくない女性たちの本音」ですね。うーん、僕は女性ではないのでよくわかりませんけれど、「精神的にも時間的にも負担が増えそうだから」という恐れが先行しているのでしょう。

でも、もっと根本的な理由もあると思います。それは、マネージャーという言葉にしみついた男社会(サル山社会)の息苦しさです。

学生時代の部活動におけるヒエラルキーは、エース、レギュラー、補欠、マネージャーの順でした。企業に入ると、マネージャー、総合職、一般職、派遣・アルバイトの順になる。権限や実力といった「力」によって階層が決まるんですね。わかりやすいけれど、自由度は低い世界です。

ちなみに、ファーストリテイリングの柳井社長は、先月11日に従業員4100人を集めて、<私は数多くの失敗をしてきましたが、その中で一番大きな失敗が、「店長」を主役とした会社にしようとしたことでした。そうではなくて「店舗のスタッフ一人ひとり」を主役にする。そのために我々が全員でサポートしていく>(日経ビジネスオンラインより抜粋)と語りました。本当に一人ひとりが主役ならば、「それはどうかと思います。やっぱり会社の主役はあなたで、ユニクロ店舗の主役は店長でしょう。責任転嫁はやめてください」と反論できるはずですが、そんな自由闊達な雰囲気はなさそうです。

高校野球の男子マネージャーに学べ

僕は女性たちが現在の企業社会におけるマネージャーになることが必ずしもいいことだとは思いません。数少ない女性マネージャーたちを見ていると、離れ小島の立派な部長席に寂しそうに座っていたりするからです。かといって、運動部のお飾り的なマネージャーもひどい話ですけどね。

実現可能で夢のある目標を設定し、メンバー一人ひとりの体調や状況を気遣い、丁寧に進捗管理し、必要に応じて叱咤激励し、みんなが働きやすい環境を整える――。これが裏方であるマネージャーの仕事なのであれば、むしろ女性に向いている職業だと僕は思います。そのためには「マネージャー」という言葉の再定義が必要です。

女性管理職を増やすにはどうすべきか。女性たちの気持ちを持ち上げる前に、ドラッカーの『マネジメント』が好きなおじさんたちが高校野球の男子マネージャーになってみることから始めるべきだと思います。

大宮冬洋
1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に就職。退職後、編集プロダクションを経て、2002年よりフリーライターに。ビジネス誌や料理誌などで幅広く活躍。著書に『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ぱる出版)、共著に『30代未婚男』(生活人新書)などがある。
実験くんの食生活ブログ http://syokulife.exblog.jp/