※本稿は、青木栄明『「枕詞」を使えばビジネスはすべてうまくいく』(日本能率協会マネジメントセンター)の一部を再編集したものです。
試されている圧を感じて、つい「大丈夫です」
【業務指示の後「何か質問ある?」と言われたが「大丈夫です」と言ってしまった】
業務の説明を一通り受けたあとで、「何か質問ある?」と聞かれたものの、とっさに「大丈夫です」と答えてしまった。しかし、自分の席に戻ってから改めて考えてみると、わからないことや確認したいことが次々に出てくる。本当は質問したい。でも、「大丈夫です」と言ってしまった手前、今さら声をかけづらい。しかも上司は忙しそうで、とても話しかけられる雰囲気ではない。
管理職研修でも、「部下に『何か質問ある?』と聞いているのに質問が出ないんです。ところが、後になって確認すると、理解できていないことが多い。どうすればいいのでしょうか」という相談を受けることが少なくありません。
上司からすると、「わからないことがあるなら、その場で聞いてくれればいいのに」「質問があれば答えられる時間を確保しているのに」という思いがあります。
しかし実は、この「何か質問ある?」という問いかけ自体が、部下にとって質問しづらい状況をつくってしまっていることがあります。上司は、「説明を理解できたかどうかを確認するため」に聞いているつもりでも、部下は「ちゃんと話を聞いていたのか?」と、試されているように受け取ってしまいやすいからです。
そのため、私は管理職研修では、「何か質問ある?」ではなく、部下が答えやすい問いかけに変える方法をご紹介しています。
上司も部下も早く話を終わらせたい空気
とはいえ、問いかけ方だけが問題ではありません。それ以上に大きいのは、「質問がないほうがお互いに都合がいい」という空気が、その場に流れていることです。
上司は説明を早く終えて次の仕事に取りかかりたい。一方、部下もできるだけ早くその場を離れ、自分の席に戻りたいという気持ちがあります。特に上司とのやり取りに緊張を感じている部下ほど、「安全・安心ではない場所から早く離れたい」という心理が強く働きます。
その結果、「何か質問ある?」「大丈夫です」というやり取りは、お互いの本音とは別に、その場を終わらせるための“社交辞令”のような会話になってしまうのです。だからこそ、あとから質問をしに行くときには、この心理的な壁を乗り越えるためのひと工夫が必要になります。
「問いかけ方」を変えることについては、上司側の課題であり、本稿のテーマとは少し異なるため詳しい説明は割愛します。
ただ、仮に管理職研修などで適切な問いかけ方を学んだとしても、忙しい状況になると、多くの上司は無意識のうちに「何か質問ある?」というような、少し乱暴な問いかけに戻ってしまいがちです。それだけ上司には時間的な余裕がなく、「早く説明を終えて次の仕事に移りたい」という心理が働いているからです。
その空気を感じ取った部下が、「これ以上時間を取らせてはいけない」と考え、「大丈夫です」と答えてしまうのも、ごく自然な反応と言えるでしょう。
聞き直すときは“時間への配慮”から
しかし、現実には、指示内容が曖昧なまま仕事を進めれば、その後の業務に支障が出る可能性が高くなります。
自分なりの解釈で進めた結果、上司の意図とはまったく違う方向へ仕事が進み、気づいたときには修正に多くの時間と労力がかかることも少なくありません。そして、その状態で受ける叱責や評価への影響は、「何か質問ある?」と聞かれたときに勇気を出して質問した場合よりも、はるかに大きくなってしまいます。
だからこそ、一度「大丈夫です」と答えてしまったとしても、疑問が生まれたのであれば、できるだけ早い段階で確認することが大切です。
【上司の思い:余計な時間は取りたくない】
この場面で上司が最も強く感じているのは、「上司である自分の都合」です。上司は、多くの仕事を抱えながら時間に追われています。そうした中で、部下が困らないように時間を割いて業務を説明したのだから、「もう一度最初から説明するために、さらに時間を取られたくない」というのが本音なのです。
もちろん、部下が理解できていないのであれば、説明し直すこと自体は上司の役割です。
しかし、忙しい状況であればあるほど、「また説明しなければならないのか」という気持ちが先に立ってしまうことは珍しくありません。
したがって、このケースで枕詞を考える際のポイントは、「上司の時間を再びいただくことに対して配慮している」という姿勢を最初に伝えることです。枕詞でまず上司の都合や負担を理解していることを言葉にしてから質問に入ることで、「自分の時間を軽く考えているわけではない」というメッセージが伝わります。
①「なんで聞かなかったの」を先回り
【型1:上司から言われたくないこと、思われたくないことをあえて先に言う
《「なんでさっき聞かなかったの?」と言われるかもしれませんが》】
これは上司に「ちょっと質問よろしいですか?」という声かけをした場合、ストレートに返ってきそうな言葉を枕詞にしています。上司の心の声を代弁することで余計なひと言をもらわずに済みますし、上司の心境としても「部下も悪いと思っている」と感じるので対応が柔らかくなります。
使用イメージ:
「なんでさっき聞かなかったの?」と言われるかもしれませんが、改めて疑問が出てきたのでいくつか質問させていただけませんか?
枕詞に続けて「改めて」という言葉を入れることで、「いい加減な姿勢で聞いていたわけではないんだな」「よくよく考えたうえでのことなんだな」という印象を与えることができますので、部下としては安心して質問ができる状況をつくれます。
【同様の枕詞】
・「今頃聞くの?」って思われるかもしれませんが
・「さっき、『質問ある?』って聞いたよね?」って言われそうですが
②「大丈夫と言ったこと」を先に詫びる
【型2:上司の不満を先取りして伝える
《大丈夫と言った手前、お時間をいただくのは大変心苦しいのですが》】
上司の都合として、「余計な時間は取られたくない」という本音があることを先ほどお伝えしました。この枕詞は、まさにその不満を前提に組み立てたものです。部下から声をかけられることで生じる負担感を和らげるとともに、「申し訳ないと思っています」という気持ちを最初に伝えたうえで要望につなげる枕詞になっています。
「言われたくないことを先に言う」型と比べると、こちらは上司の状況への配慮を前面に出した、より丁寧で柔らかなアプローチです。そのため、上司も「自分の忙しさを理解したうえで声をかけてきている」と受け止めやすくなり、納得感が高まります。
使用イメージ:
大丈夫と言った手前、お時間をいただくのは大変心苦しいのですが、どうしてもわからないことがあるので質問させていただけないでしょうか。
枕詞に続けて、「どうしてもわからないことがあるので」と伝えることで、「自分なりに考え、一人で解決しようと努力したものの、どうしても整理できなかった」という経緯が自然に伝わります。そのため、上司としても、「それなら質問に答えてあげよう」という気持ちになりやすくなります。
【同様の枕詞】
・先ほどお聞きできれば良かったのですが
・余計にお手間をおかけして申し訳ありませんが
③「一回の指示で理解すべきだった」と認める
【型3:上司の願望を先に口にする
《一回のご指示で理解すべきところではありますが》】
上司が部下への業務指示で最も望んでいるのは、「一度の説明で内容を正確に理解し、そのとおりに仕事を進めてくれること」です。
この枕詞は、そうした上司の願望を部下が先に言葉にすることで、「そのとおりだ」「ちゃんとわかっているじゃないか」という「わかってくれている感」を生み出し、「そこまで理解したうえでの相談なら仕方ない」という包容的な気持ちを引き出すことを狙っています。
また、多くの上司は、現実には「一度の説明だけですべてを完璧に理解するのは難しい」ということも十分に理解しています。そのため、「曖昧なまま仕事を進められてしまうくらいなら、今のうちに確認してもらった方がよい」と考えやすくなります。
使用イメージ:
一回のご指示で理解すべきところではありますが、よくよく考えるとわからないことがでてきてしまったのでいくつか質問をさせてください。
「よくよく考えると」という表現によって、部下が仕事に対して真摯に取り組んでいるという姿勢も伝わるので、上司としては、部下からの質問に対しポジティブな姿勢で臨むことができます。
【同様の枕詞】
・その場で確認すれば良かったのですが
・ご指示いただいた時に質問すべきことですが
