咳や鼻水が続くと、風邪やインフルエンザを疑う季節になった。昭和医科大学の鈴木慎太郎准教授は「その症状はアレルギーかもしれない。毎日使っている身近なものが原因になっていることもある。本人にとっては当たり前のものなので、なかなか疑うことができない」という――。(第3回)

※本稿は、鈴木慎太郎『その不調、「かくれアレルギー」が原因かも』(あさ出版)の一部を再編集したものです。

体温計を見る男性
写真=iStock.com/Kunlathida Petchuen
※写真はイメージです

当たり前に触れ、吸い込んでいるアレルゲン

アレルギーの原因というと、食べ物を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、日常生活には、知らないうちにアレルギーを引き起こす原因が数多く潜んでいます。

特に見つけにくいのは、毎日の生活や仕事の中に溶け込んでいるアレルゲンです。毎日当たり前に触れたり吸い込んだりしているものほど、「まさかこれが原因とは思わなかった」と見過ごされがちです。

例えば、カビや羽毛製品、ダニを含む寝具では、アレルゲンを繰り返し吸い込むことで、鼻炎やぜんそくだけでなく、過敏性肺炎を引き起こすことがあります。症状が自宅で悪化し、外出や旅行で軽くなる場合は、住環境が関係している可能性があります。

また、小麦粉やそば粉は、食べるだけでなく、吸い込むことによって感作され、ぜんそくや重い食物アレルギーにつながることがあります。さらに、汗やマラセチア菌、植物、農薬、ゴム製品などは、皮膚のバリア機能が低下していると、じんましんや接触皮膚炎の原因になることがあります。

原因不明の咳や息切れ、皮疹、しびれなどを繰り返す場合は、食事だけでなく、生活環境や職業、趣味、寝具、衣類、ペット、屋外活動なども振り返ってみましょう。思いもよらない日常の習慣や身近な環境の中に、症状の原因が隠れているかもしれません。

50代男性…羽毛ダウンジャケットで「過敏性肺炎」に

【羽毛が引き起こした肺炎】

50代の男性Cさんは散歩や庭仕事の際、新しく購入した羽毛ダウンジャケットを毎日のように着ていました。しかし数週間後から夕方になると微熱や乾いた咳、全身のだるさが現れ、息切れも悪化。肺炎が疑われましたが原因は不明でした。詳しく生活環境を調べたところ、羽毛製品との関係が浮上。ダウンジャケットの使用を中止すると症状は改善し、鳥由来成分を吸い込むことで起こる過敏性肺炎と診断されました。

ダウンジャケットを着て咳き込む人
イラスト=さのふうか
50代男性は、ダウンジャケットの使用を中止すると症状が改善。鳥由来成分を吸い込むことで起こる過敏性肺炎と診断された。 出所=『その不調、「かくれアレルギー」が原因かも』(あさ出版)

鳥関連過敏性肺炎は、羽毛布団やダウンジャケットなどに含まれる鳥由来のタンパク質を繰り返し吸い込むことで起こるアレルギー性の肺疾患です。

一般的な肺炎のように細菌やウイルスが原因ではなく、免疫が過剰に反応することで肺の奥(肺胞)に炎症が生じます。そのため、咳や息切れ、微熱などで苦しむことになります。特徴的なのは、鼻や口から吸い込んだアレルゲンにより、肺の深い部分に炎症が起こり、アレルゲンを繰り返し吸い込むことで症状が繰り返される点です。

鳥関連過敏性肺炎が見逃されやすいのは、咳や微熱、息切れといった症状が風邪や一般的な肺炎とよく似ているためです。

抗菌薬は効かない、寝具や衣類を疑って

しかし、この病気は細菌やウイルスによる感染症ではなく、免疫の過剰反応によって起こります。そのため、抗菌薬を使っても改善せず、症状を繰り返すことがあります。

また、原因が職場ではなく自宅にあることも少なくありません。毎日接している寝具や衣類が原因の場合、本人にとっては当たり前の環境であるため、なかなか疑うことができないのです。特に、家にいると症状が悪化し、旅行や入院中に軽くなる場合は、住環境との関連を考えましょう。

生活環境を詳しく振り返ることが診断の重要な手がかりになります。自宅の近隣に鳩の飼育場や鳥小屋、インコなどを取り扱うペットショップがある場合や、自宅や職場に鳥のはく製がある場合も注意が必要です。

鳥関連過敏性肺炎では、原因となる抗原との接触を減らすことが最も重要です。羽毛布団やダウン製品が原因として疑われる場合は使用を中止し、必要に応じて別の素材へ変更します。

また、真菌(カビ)が原因となる過敏性肺炎では、室内の換気や除湿を心がけ、カビがたまりにくい環境を整えることも大切です。

この病気は薬だけでは改善しにくく、原因となる環境が残っていると再発を繰り返すことがあります。そのため、治療と同じくらい生活環境の見直しが重要です。ときに転居や大規模なリフォームを要するケースもあります。原因不明の咳や息切れが続く場合や、「家にいると悪化する」「外出すると楽になる」といった傾向がある場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。

50代女性…朝起きるたびに咳・鼻水・くしゃみ

【マットアレルギー 寝室に潜むアレルギーの原因】

50代の女性Hさんは、健康のため毎朝ヨガを続けていました。数カ月前から朝起きると咳や鼻水、くしゃみが続き、夜中に咳で目覚めることもあったため、風邪が長引いていると思っていました。しかし旅行先のホテルでは症状が軽く、自宅へ戻ると再び悪化。不思議に思って受診したところ、ヨガ用マットや室内環境に潜むダニによるアレルギーが疑われました。

布団や枕、カーペット、ヨガマットなどは、ダニやカビが繁殖しやすい環境です。特に問題となるのはダニの死骸やフンで、これらを吸い込むことでアレルギー性鼻炎やぜんそくが起こります。

また、寝具やマットに付着したアレルゲンに長時間触れるため、朝方や夜間に症状が強くなることがあります。そのため、「寝ても疲れが取れない」「朝だけ咳や鼻水が出る」といった症状の背景に、寝具由来のアレルギーが隠れていることがあります。

原因はダニの死骸やフン

室内アレルギーの原因として最も重要なのがダニです。生きているダニそのものではなく、死骸やフンに含まれる成分(いわゆるハウスダストの主成分)がアレルギーの原因になります。

鈴木慎太郎『その不調、「かくれアレルギー」が原因かも』(あさ出版)
鈴木慎太郎『その不調、「かくれアレルギー」が原因かも』(あさ出版)

布団や枕は長時間顔を近づけるため、睡眠中にアレルゲンを吸い込みやすくなります。そのため、起床時のくしゃみや鼻水、夜間の咳はダニアレルギーの典型的な症状です。布団や枕だけでなく、カーペットやヨガマットなどでも発症します。

また、自宅では悪化するのに旅行先では軽くなる場合、住環境が原因である可能性を示す重要な手がかりになります。風邪だと思っていた症状が、実は寝室の環境によるアレルギーだったということは珍しくありません。

対策の基本は環境整備です。布団やカーペットは定期的に乾燥・掃除を行いましょう。防ダニカバーの使用も有効です。

梅雨から夏にかけては室内の湿度を下げ、ダニの繁殖を防ぎましょう。ヨガマットは使用後に乾燥・清掃し、定期的に交換することが望ましいです。症状が続く場合は医療機関で検査を受け、必要に応じて薬物療法を行います。日常環境を見直すことでも症状の改善が期待できます。

ダニやハウスダストのアレルギーは子どもだけの病気ではありません。大人でも環境を整えないと、将来的にぜんそくやアトピー性鼻炎、アトピー性皮膚炎が悪化することがあります。毛の生えている動物・ペットの室内飼育者は特に注意してください。

住環境を整えるための7つの基本

屋内環境は自分たちで改善できることが少なくありません。私たちは一日の大半を室内で過ごすため、住環境を整えることは、症状の改善や悪化予防に大きく影響します。

日本は高温多湿の気候のため、ダニやカビが繁殖しやすい環境です。特に寝具やカーペット、布製ソファ、水回りにはアレルゲンがたまりやすく、注意が必要です。また、ペットを飼っている家庭では、毛やフケ、唾液などがアレルゲンとなることもあります。住環境を整えるための基本は次のとおりです。

・定期的に換気を行う
・室内湿度を50%前後に保つ(冬季や感染症流行時は50〜60%前後)
・週1回以上、掃除機をかける
・寝具を定期的に洗濯・乾燥する
・布製品を増やしすぎない
・加湿器はこまめに清掃する
・空気清浄機は補助的に活用する(頼りすぎないこと)

すべてのアレルゲンを完全に避けることはできませんが、体に取り込む量を減らすことはできます。毎日の小さな工夫の積み重ねが、症状の悪化を防ぎ、アレルギーと上手に付き合うことにつながるのです。

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