※本稿は、鈴木慎太郎『その不調、「かくれアレルギー」が原因かも』(あさ出版)の一部を再編集したものです。
アレルゲンの特定は謎解きレベルで難しい
毎週、多くの患者さんが私の外来を訪れます。アレルギー診療の難しさは、症状の現れ方が人によって大きく異なることにあります。同じ病気でも症状や重症度はさまざまで、同じ患者さんでも、そのときの体調や環境によって症状が変わることがあります。
アレルギーには「これさえ飲めば治る」という万能薬があるわけではありません。そのため、一人ひとりの生活習慣や生活環境を丁寧に確認しながら、症状を引き起こす要因を探り、対策を考えていくことが大切になります。
さらに難しいのは、アレルギーの原因が患者さんの日常生活の中に隠れていることです。何を食べたのか、どこへ行ったのか、どのようなものに触れたのか――。患者さん自身も気づいていないことが少なくありません。
そのため、アレルギー専門医は問診や検査の結果をもとに、わずかな手がかりを集めながら原因を探していきます。アレルゲンの特定は、しばしば推理小説の謎解きにたとえられます。さまざまな可能性を一つずつ検証しながら、本当の原因を見つけ出していくのです。
本稿では、食べてすぐには症状が出ず、しかも何年も前の出来事がきっかけになっていたアレルギーの事例を2つ紹介します。
50歳男性…前夜に食べた「納豆」で救急搬送
【納豆アレルギー 時間差で現れるアレルギー】
50歳の男性Dさんは、若い頃からサーフィンを続けている海好きです。ある日の夕食も、焼き魚や味噌汁、納豆など普段と変わらない献立でした。食後に体のかゆみを感じたものの気にせず就寝。しかし翌朝、全身にじんましんが現れ、動悸や息苦しさも出現。立ち上がった際に突然意識を失い、救急搬送先でアナフィラキシーと診断されました。原因は、普段から食べ慣れていた納豆による、時間差で起こるアレルギーでした。
納豆アレルギーは、大豆そのものではなく、納豆特有のネバネバ成分によって起こるアレルギーです。原因として注目されているのは、納豆の粘りのもととなる「ポリγグルタミン酸(PGA)」です。この成分に体が過敏に反応することで、じんましんや呼吸困難などの症状が現れます。
納豆アレルギーの特徴は、食べてすぐではなく数時間から半日ほど経って症状が現れることがある点です。そのため原因に気づきにくく、診断が難しい場合もあります。
この症例がわかりにくいのは、納豆を食べてすぐに症状が出るとは限らない点です。数時間から半日ほど経って発症することがあるため、原因が納豆だとは気づきにくいのです。
きっかけは過去にクラゲに刺された経験
さらに、納豆アレルギーには意外な特徴があります。それは、過去にクラゲに刺された経験が関係している可能性があることです。
クラゲの毒に含まれる成分と、納豆の粘り成分には似た構造を持つ部分があると考えられています。そのため、クラゲに刺されたことをきっかけに体が反応しやすい状態となり、その後、納豆アレルギーを発症するケースが報告されています。
つまり、アレルギーの原因は直前の出来事だけとは限りません。何年も前の出来事が、思いがけず現在の症状につながっていることもあるのです。

対策の基本は、原因となる納豆を避けることです。
すでにお伝えしているとおり、納豆アレルギーは食べてから症状が現れるまで数時間から半日ほどかかることがあるため、「昨日の食事は関係ない」と思い込まず、前日まで含めて食事内容を振り返ることが大切です。
診断には詳しい問診のほか、血液検査などが行われることがあります。原因がはっきりしない場合は、アレルギー専門医に相談しましょう。
過去に全身のじんましんや呼吸困難などの重い症状を起こしたことがある人は、緊急時に備えてアドレナリン自己投与薬(エピペンⓇ、ネフィーⓇ)の携帯が勧められます。
納豆は健康食品として広く親しまれていますが、ごくまれにアレルギーの原因となることがあります。原因不明のじんましんや体調不良を繰り返す場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。
60代女性…肉を食べて救急搬送
【肉アレルギー 虫刺されが招いたアレルギー】
60代の女性Gさんは、若い頃からキャンプが趣味で、山や草原で過ごすことが多く、虫に刺されることも珍しくありませんでした。ある時期から、外食後に全身のじんましんや腹痛、呼吸困難を繰り返し、救急搬送されるように。食事内容を詳しく調べた結果、毎回、牛肉や豚肉を食べた後に発症していることが判明。最終的に肉アレルギーと診断されました。
肉アレルギーの中でも、近年注目されているのが「α-gal(アルファガル)症候群」です。これは、牛肉や豚肉などの哺乳類の肉に含まれる「α-gal」という成分に対して、体がアレルギー反応を起こす病気です。
特徴的なのは、マダニに咬まれたことが発症のきっかけになる場合があることです。マダニに咬まれることで体がα-galに反応しやすくなり、その後に肉を食べるとアレルギー症状が現れるようになります。
また、一般的な食物アレルギーと異なり、食後すぐではなく、数時間経ってから症状が現れることも大きな特徴です。
きっかけは過去にマダニに咬まれた経験
α-gal症候群は、一般的な食物アレルギーとは異なる特徴を持っています。多くの食物アレルギーがタンパク質に対する反応であるのに対し、このアレルギーでは「α-gal」という糖鎖(糖タンパクの構成成分)の一種が原因となります。
また、症状が食後すぐではなく、数時間経ってから現れることも特徴です。そのため、食べた肉と症状を結びつけにくく、原因不明のアレルギーとして見過ごされることがあります。
牛肉や豚肉、羊肉などが主な原因ですが、鶏肉や魚肉は通常問題ありません。
さらに、発症のきっかけとしてマダニに咬まれた経験が関係すると考えられており、屋外活動の多い人ほど注意が必要です。日本でも患者の報告は増えており、中高年で発見されるケースも少なくありません。
対策の基本は、原因となる哺乳類の肉を避けることです。牛肉や豚肉、羊肉だけでなく、肉由来のゼラチンを含む食品や一部の加工食品にも注意が必要です。過去にアナフィラキシーなどの重い症状を起こしたことがある人は、緊急時に備えてアドレナリン自己投与薬(エピペンⓇ、ネフィーⓇ)の携帯が勧められます。
また、新規発症予防、再発予防のためにはマダニ対策も重要です。草むらや山林に入る際は長袖・長ズボンを着用し、帰宅後はマダニが付着していないか皮膚を確認しましょう。α-gal症候群は、食事や生活に注意していれば、時間の経過とともに症状が軽くなることもあります。
しかし自己判断で肉を食べ始めるのではなく、医師の指導を受けながら経過をみることが大切です。

症状が出たときの状況をメモしておいて
アレルギー対策で最も大切なのは、自分の体が何に過剰に反応しているのかを知ることです。つまり、原因となるアレルゲンを特定することです。
原因は人によって異なり、複数のアレルゲンに反応していることもあります。原因がわかれば、対策は具体的になります。食物アレルギーなら原因となる食品を避ける、ダニアレルギーなら寝具や室内環境を整える、薬剤アレルギーなら使用を避ける薬を明確にする、といった対策が可能になります。
一方で、原因がわからなければ、何を避ければよいのかもわかりません。まるで、姿の見えない敵を相手にしているようなものです。
原因を見つけるうえで最も重要なのが、症状が出たときの状況を振り返ることです。いつ、どこで、何を食べたのか、何をしたあとに症状が出たのか――こうした情報が、原因を探る大きな手がかりになります。
受診の際は、あらかじめ簡単なメモを用意しておくと役立ちます。長い文章や日記を書く必要はありません。医師から質問されたときに、要点を整理して伝えられる程度で十分です。
記録しておきたい7つの項目
例えば、次のような内容を記録しておくとよいでしょう。
・症状が出た日時
・どのような症状だったか
・症状が出るまでの時間
・食べたもの
・服用した薬
・行った場所
・運動や入浴の有無
こうした情報があるだけで、診断の大きな手がかりになります。特に重い症状が出た場合は、その日の状況をできるだけ詳しく記録しておくことが大切です。
例えば、「アナフィラキシーを起こした日はいつも運動していた」「鼻炎がひどい日は花粉と黄砂が多く飛んでいた」「外食をしたときだけ症状が出る」といった共通点が見えてくることがあります。
原因を調べるためには、血液検査や皮膚検査が行われることもあります。
しかし、検査だけですべてがわかるわけではありません。検査で陽性でも症状が出ないことがありますし、逆に検査が陰性でもアレルギーを否定できないこともあります。そのため、医師は症状が出たときの状況と検査結果を合わせて判断します。
アレルギーと上手に付き合う第一歩は、「何となく調子が悪い」で終わらせないことです。紙の手帳でもスマートフォンのメモ機能でも構いません。症状が出た日時や食事、服用した薬、その日の行動などを簡単に記録しておくだけで、後から振り返ったときに思わぬ共通点が見えてくることがあります。症状を記録する習慣は、アレルギーと上手に付き合うための最も簡単で、最も効果的な第一歩です。
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