「老いの達人」でもある宇野千代。「自分のしたいことを一心にするのが、最終的に自分を勝たせる方法」と言い切り、98歳まで生き抜いた。そんな彼女のポジティブな生き方を『人生は何歳からでも花開く 宇野千代の幸福語録』(世界文化社)より紹介する――。
作家、実業家、デザイナーとして 98歳まで生涯現役を貫いた宇野千代
作家、実業家、デザイナーとして 98歳まで生涯現役を貫いた宇野千代〔出典=『人生は何歳からでも花開く 宇野千代の幸福語録』(世界文化社)〕

老いを愉しみ、悔いなく生き切る知恵

「花咲か婆さん」になるのが夢、と言った宇野千代。「ざるの中に幸福の種になるものをいっぱい詰めて、枯れ木に上って(中略)、その幸福の入っている種をパーッパーッパーッとまいてね、人を幸福にして自分も幸福になる。これが私の人生観なんです」とも語っていました。

逃れようのない老いや死を自然に受け入れ、「少しボケてきたかな、と思うこともたまにあるが、私くらいの歳になると、その少しボケたというところがとても気持ちがいい」と言い、「ボケることが少しも恐ろしくなくなるとは、われながら気楽なものではないだろうか」と「老いもまた愉し」いう境地に至ります。

作家としては生涯現役を貫き、「年齢を忘れるほど忙しい」「何だか私、死なないような気がする」とユーモアたっぷりに語り、「自分のしたいと思うことを一心にするのが、最終的に自分を勝たせる方法」と言い切った人生。

死を恐れず、最後までバイタリティにあふれ、「幸福な花咲か婆さん」としての生涯を全うしたのです。

憎まず、悔やまず、すべてを肯定する人生

多くの著作や生き方を通じ、私たちに示してくれたことは、年齢に関係なく、「今、この瞬間を真剣に生きる大切さ」です。

過ぎたことにとらわれたり、どうなるかわからない先行きのことを煩ったりしてもしかたがありません。「人生はいつだって、今が最高のとき」とくり返し、後半生にこそ人生の醍醐味があることを教えてくれます。

「ご気分はいかがですか?」と尋ねられると、必ず「最高ですよ!」と笑顔で答えたという千代。

どんなときも、日々の暮らしの中から幸せのかけらを見つけ出し、体中に張り巡らせて生きる達人でした。20代には20代の、30代には30代の、40代には40代の、そして98歳には98歳の美しさ、自分の輝かせ方があり、生きてきたすべてのときが花のときと語ります。

年老いて目が見えにくくなっても、「風呂上がりに鏡に映った自分の裸が絵画のヴィーナスのように見えた」といって、老いさえも幸せの一つに数える。入院中も、「明日はどんな寝巻を着ようかしら」と思いめぐらせ、ワクワク心をはずませる。憎まず、悔やまず、すべてを肯定して生きた人生でした。

イタリア・ルネッサンスの巨匠ボッティチェッリの『ヴィーナスの誕生』
イタリア・ルネッサンスの巨匠ボッティチェッリの『ヴィーナスの誕生』(画像=The Yorck Project/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons)

自分で自分の欠点を“広告”するな

自分が社会にとって必要のない人間であると思った途端、人は老いる。逆に、自分が周囲から必要とされるかけがえのない存在であると思えていて、生きる目的があるならば、その人は溌剌はつらつと長らえることができる――宇野千代の生涯がその見本です。

宇野千代の言葉

私の頭は年齢相応にちぢんではいるけれど、脳の中の血の流れは若い人と同じように良好だし、おでこの辺り、つまり小説を書くための部分は大層しっかりしている。

宇野千代の言葉

「私はおばあちゃんだから」とか、「私はこんなに肥ふとっちょだから」とか、自分で自分の欠点を広告して歩く人がありますが、私はそんな人のことを、損な人だなァ、と思います。明るいことを考えましょう。いつでも、花飾りのついた帽子を冠かぶっている気になりましょう。

逆境を逆境と思わずに、飛び込んでみる

宇野千代の生き方の指針となったのは、その精神力。それは、しなやかな「ソフトパワー」ともいえる生き方でした。どんなときも「幸福か不幸かは自分で決める」を旨とし、どんなに耐え難いと思える出来事が起こっても、力ずくで立ち向かったり、抵抗したりするのではなく、むしろその中へするりと入り込んでいくのが千代の流儀でした。

人生とは想定外のことや理不尽なことばかり起こります。

コントロール不能な出来事に振り回されるのではなく、まずは逆らわず受け入れてみる。逆境を逆境と思わないで、あたかも“待ち構えていたかのように”、飛び込んでみる。むしろこの状況すら愉しんでみる。そうするうち、次第に心身になじんで慣れていき、困難を困難と思わなくなるというのです。

この思考法こそが、自分の心を守りながら苦難を乗り越えるための最適解だと、千代は怒濤どとうの人生の中で知っていきました。

幸せを信じる心と、現実を変える実行力

そして、人生には行動が不可欠です。千代は「何か行動すると、またそのあとに新しい行動が生まれてくる」「頭で考えるだけでは、何もしないのと同じ」と捉え、行動が人生を楽しく豊かにすると説きました。

家庭画報編集部『人生は何歳からでも花開く 宇野千代の幸福語録』(世界文化社)
家庭画報編集部『人生は何歳からでも花開く 宇野千代の幸福語録』(世界文化社)

「私は幸せ」「私は運がいい」とくり返し口に出してみると、行動が変わり、それがまわりの人の心にも伝染していきます。まわりの人が幸せな気分になると、そのことによって、自分もさらに幸福になっていく。ポジティブな自己暗示で人生は変わるのです。

千代は、マイナスの思い込みは自ら不幸を招く一方、プラスの思い込みは幸せを呼び、運を切り開く力になると信じていました。ポジティブな言葉をくり返し口にすることで、自分の頭と心に深く刻み込み、やがて現実もその言葉どおりになると心底信じていたのです。

人生には、他人の目には不幸と映るような出来事もあります。しかし、千代はどんな逆境にもへこたれず、過去を悔やんだり、先行きを悲観したりすることなく、常に前を向いて行動を起こしました。そして、行動するたびに新たな道を切り開き、自らの力で活路を見出していったのです。

幸せを信じる強い心と、現実を変えるために動く実行力。その両輪こそが、千代の人生を支えた精神力の源でした。

困難に逆らうほど苦しみは大きくなる

どうにもならないことはどうにもならないのだと受け入れる。体を投げ出して、無心にその状況に従う。すると、ふっと気が楽になる。この方法を千代は、理屈でも、無理にしたのでもなく「いつもの私の癖で、思わず、そうしたのです」と分析しています。

宇野千代の言葉

つらいとき、困難なときは、反抗したり、煩悶はんもんしたり、くよくよしたりしないで、そのつらさにするりとそのまま身を寄せる、入り込む、というのが困難から脱出する私の方法なのですよ。

宇野千代の言葉

困難には逆らってはいけないのです。逆らえば逆らうほど、抵抗が生まれます。心の苦しみはいっそう大きくなるのです。

宇野千代の言葉

一通りではない、でこぼこの人生を歩いて来ました。このでこぼこの人生は、しかし、人のつくった人生ではありません。自分で選んだ人生です。自分の足で歩く人生です。