相手から「また会いたい」と思われる人はどこが違うのか。在米国日本大使館で大使夫妻の社交活動を支えるビューカー清美さんは「勝負は“最初の30秒”で決まる。大切なのは相手への関心を示すことだ」という――。(第1回)

※本稿は、ビューカー清美『世界一流の社交術』(アルク)の一部を再編集したものです。

ビジネスの人々は握手
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最高の「第一印象」のつくりかた

日本のビジネスシーンでは名刺交換から会話が始まることが多いのではないでしょうか。ワシントンDCではいきなり名刺を差し出すことは稀で、まずは短い会話を交わします。忙しい人たちが多いので、こうしたやり取りは長くても最初の30秒、会話の往復でいえば3~4回ほどのやり取りで場の空気を整えられると理想的です。

たとえば、最近の活動や共通の話題、相手が関わっているプロジェクトへの関心を一言添えると、それだけで場が一気に和らぎます。「知りたい、聞きたい」と興味を持つ姿勢が相手に安心感を与えるのです。

もしもよい話題が見つからなかったら、相手の装いや文化的背景からポイントを見つけて口に出すだけでも十分です。

「とても素敵なスカーフですね」
「そのネクタイの色は素敵ですね、もしや和柄ですか?」

「気の利いたことを言わねば!」と気負う必要はありません。大切なのは、相手への関心を示すことです。短い時間のやり取りであっても、最初の印象はその後の関係性に大きく影響します。自分の話をしたい人は多いもの。積極的に聞き手にまわることで、相手の自尊心を満たすことができます。

なお、ハグ文化(※1)があるアメリカでは、再会したときに笑顔とともに自然なハグが返ってくれば、それは前回の出会いが相手にとってポジティブなものだったという証拠です。そっけない握手だけだったら、まだ距離が残っているのかもしれません。次のハグがあるかないかは、前回の自己採点の材料になります。

※1:アメリカやヨーロッパの一部で見られる、挨拶や再会時に相手を抱きしめる習慣のこと。日本の握手やお辞儀にあたるが、単なる形式ではなく、親しさや信頼、好意を直接的に示すジェスチャーとして使われる。

社交の場で嫌われる米国版「学歴厨」

「8 seconds Harvard」という言葉が流行ったことがありました。ハーバード大学(※2)の卒業生の多くが、自己紹介の8秒以内に「I went to Harvard!(ハーバードを出てるんだ!)」と自慢げに言うことを揶揄したものです。ハーバード大学卒業というのは誇るべき実績ですが、早い段階で学歴を売り込むような話をすると、相手からは「それで?」「自慢?」と思われてしまいます。

ハーバード大学
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社交の場で求められるのは、相手と対等な関係を築こうとする距離の取り方と空気の読み方で、自分を見せつける必要はありません。たとえ高い学歴や良い肩書きがあっても、ひけらかさない賢明な態度のほうが好感をもってもらえます。自分のことを語るよりも、相手への関心を示すことから始めましょう。

また、仮に知識を語る必要があってもわかりやすい言葉を選び、講義調にならないように気をつけます。一方的に話し続けたり、専門的用語を並び立てることのないような話し方を意識します。

空気を「読む」力と「育てる」力

「空気を読む」というのが場の状況を察する力だとすれば、社交で必要なのは「空気を育てる」力です。何気ない一言で場の雰囲気をポジティブに変え、人々を笑顔にすることができるスキルは高く評価されます。

ある夕食会で天井の照明を落とし、小さなキャンドルを灯したことがありました。すると、有名な社交家が席につくなり言いました。

「この雰囲気、素晴らしいわね! キャンドルがいい会話を引き出してくれそう。それに薄暗いから、私のシミやシワも見えづらくなって助かるわ!」

彼女の率直でユーモアある発言に、テーブルを囲んだ参加者たちからは笑いがこぼれ、場の緊張がふっと解けていきました。ほんの一言二言でも、機転と自己開示によって心理的な距離は一気に縮みます。このキャンドル効果は話題となり、やがて他の大使館にも広がって静かなトレンドとなりました。

絶妙な発言をしてくれた社交家には感謝するばかりでしたが、これはまさに空気を育てることができたよい例です。「気づき上手」が「うまく言語化する」ことで、場づくりに大きく貢献してくれるのです。

※2:アメリカのマサチューセッツ州ケンブリッジにある世界的に有名な私立大学。1636年に創立。アメリカ最古の高等教育機関として知られ、国内外から優秀な学生や研究者が集まる。学問レベルが高いだけでなく、学生同士や卒業生とのネットワークが非常に強固であり、ビジネスや政治、社会活動での人脈形成の場としても価値が高いとされる。

初対面の雑談での「鉄板ネタ」

初対面の相手と雑談する際は、誰でも入りやすく共感しやすい話題から始めるのが鉄則です。代表的なのは「時事ネタ×季節の話題」の組み合わせで、軽やかな知性を感じさせる切り口や、共感しやすい日常感を意識すると自然に会話が始まります。

たとえば、

「G7首脳会議でAIがテーマになりましたね。ビジネスにも影響がありそうですね」
「猛暑で週4日勤務の議論が再燃していますね。働き方の見直しどきかもしれません」
「夏休みはどちらか行かれますか? この街の人は意外と山派が多いんですよね」
「子どもの夏休みは親もフル稼働で、まるでタクシー運転手です(笑)」

といった具合です。

季節に関連した話題は、特に初対面で共通点が見つかりにくい場合に有効です。休暇の過ごし方のほかにも、各国の行事や文化の話題は会話の入り口になります。

たとえばアメリカでは、多様な民族や文化の歴史を祝う「ヘリテージマンス(Heritage Month(※3))」があり、2月は黒人、3月は女性、5月はアジア系の人々に焦点を当てたイベントや啓発活動が行われます。こうした社会的な行事の話題は、時事性と文化の両方を含んでいるため、自然に会話を広げやすくなります。

スマートに場を離れる一言とは

また、日本の季節行事を紹介するのもよい方法です。3月のひな祭り、4月の桜や入学式、5月の子どもの日など、日本の四季の話題は海外の人にとって興味深く、会話のきっかけになります。

休暇の話題は具体的な地名やスポットが出やすいので、相手も話を合わせやすくなります。「この夏はディズニーワールドに行くんですが、車と飛行機どちらで行こうか迷っていて……」という話題に対して、「去年同じことで迷いましたよ。空港からシャトルサービスがあるみたいですよね」と返ってくれば、会話のキャッチボールが始まったサインです。慣れるまでは、誰もが知っている人気スポットを話題にすると反応が得やすくなります。

話題が広がらなかった場合は、無理に引き延ばさず、「飲み物を取ってきますね。また後ほどお話しできたら嬉しいです」とスマートに場を離れる一言を用意しておくと安心です。

※3:特定の文化や歴史的背景を持つコミュニティの貢献を称えるために設立された。毎年、指定の月に祝福・啓発イベントが行われ、伝統や歴史を学び、多様性と相互理解を深める機会として活用されている。

肩書きより「何をしているか」

雑談で相手のライフスタイルや関心ごと、価値観が見えてきたら、次はもう少し個人的な情報に踏み込む段階です。相手の仕事内容や日常について自然に質問してみるとよいでしょう。「どんなお仕事をされていますか?」と尋ねることで、次に会うことを前提に興味を示しつつ、会話を広げることができます。

ビューカー清美『世界一流の社交術』(アルク)
ビューカー清美『世界一流の社交術』(アルク)

たとえば、私が「日本大使館で何をされているのですか?」と尋ねられた場合は、大使夫妻のネットワーキングやイベント企画といった具体的な活動を説明することにしています。すると会話が次の話題へ発展し、相手の仕事や関心をさらに知るきっかけになります。

アメリカでは、所属先や勤務先よりも「そこで何をしているか」が会話の焦点になることが多く、名前や肩書きに頼らず、具体的な活動内容で相手を理解しようとする傾向があります。

こうした雑談を生み出すためには、日頃から小さな気づきを蓄えておくことも役立ちます。ニュースで気になったこと、街で目に留まった出来事、ふと感じた違和感などをメモしておくと、「そういえば……」と会話のきっかけとして活かすことができます。雑談の引き出しは、日常の観察から少しずつ増えていくようになります。

場の雰囲気を整える「気遣い」

複数人で雑談をしていると、会話が特定の人同士に偏り、誰かが取り残されてしまうことがあります。本人に悪意がなくても、話に入れない人はその場の雰囲気を楽しめず、「わざと疎外されているのでは」と感じてしまいます。その結果、話し手に対する印象が悪くなったり、後にその人の話題が出たときにも距離を置かれてしまうこともあるでしょう。無意識のうちに起こることでも、周囲には「自分ばかり話している人」という印象として残り、評判に影響することもあるのです。

そのため、複数人で会話をしているときは、話題をリードする人がときどき全体を見渡し、誰もが会話に参加できているかを意識するようにします。もし一人だけ発言していない人がいれば、「○○さんはどう思いますか?」と自然に問いかけるだけで、その人を会話の輪に戻すことができます。こうしたさりげない気遣いができる人は、場の雰囲気を整える人として高く評価されます。

また、会話が一部の人に集中してしまったときは、全員が答えやすい話題に切り替えるのも効果的です。すぐに良い話題が思いつかない場合は、ここでも「休暇の過ごし方」が役に立ちます。

「ところでみなさん、この週末はどのように過ごす予定ですか?」
「○○の特別展示会に行こうと思っています」
「いいですね。うちは家の掃除と買い出しで終わりそうです」

このように、それぞれの予定を共有するだけでも、共感や笑いが生まれます。人は「共通する現実」に触れると自然と話しやすくなるものです。複数人の雑談では、誰かが取り残されていないかに目を配りながら、全員が参加できる話題に調整していくことが、場を心地よく保つ大切なポイントになります。