笑顔が相手の心を開く
人の話を聞くとき、自分の表情を意識したことはあるでしょうか。表情が硬かったり、反応が少なかったりすると、相手は「ちゃんと聞いてもらえているのかな」「この話を続けてもいいのだろうか」と不安になります。
反対に、聞き手に笑顔があると、話し手は安心します。「この人は自分の話を受け止めてくれている」「ここでは話しても大丈夫そうだ」と感じることで、言葉が出やすくなります。
笑顔は、話し手に安心感を伝える大切なサインです。聞き方の本の多くでも、笑顔の効用が語られていました。初対面のとき、話を聞くとき、相手が少し緊張しているとき。聞き手の表情ひとつで、会話の空気は変わります。
◆笑顔で聞くと、話は広がりやすくなる
どんなに一生懸命に話していても、聞き手が真顔のままだったり、反応が少なかったりすると、話し手は不安になります。
「この話、つまらないのかな」
「早く終わらせたほうがいいのかな」
「ちゃんと伝わっているのかな」
そんな気持ちになると、会話は弾みません。
以下を意識するように心がけましょう。
● 相手が少し面白い話をしたら、やわらかく笑う。
● うれしそうに話しているときは、一緒に笑う。
● 楽しそうな話題には、楽しそうな表情をする。
聞き手が笑顔でうなずいたり、相手の話に合わせて少し笑ったりすると、話し手は「聞いてもらえている」と感じます。安心感が生まれると、言葉も自然に続きやすくなります。
「笑顔のつもり」は笑顔ではない
◆笑顔は日頃から練習しておく
聞き方の本の中には、「本人は笑顔のつもりでも、実際に笑顔ができていない人がたくさんいる」「『つもり』と『できている』は違う」と指摘する本もありました。
自分では笑顔のつもりでも、相手からは表情が硬く見える場合もあります。日頃から自分の表情を確認し、練習しておくことも大切です。
顔を練習するコツ
● 鏡の前で、口角を上げ、その表情を30秒ほどキープする。
● スマホで自分の表情を録画して確認する。
鏡や録画データで自分の表情を知り、普段から口角を上げることを少し意識するだけでも、聞き方は変わります。笑顔は、相手に「あなたの話を聞いています」と伝える、いちばん身近なサインです。
まずは褒めてみる
自分のよさや努力に気づいてもらえるとうれしいものです。聞き方の本には、「褒めること」の大切さが数多く書かれていました。その人のよさに気づき、それを言葉にして伝えること。その言葉のやり取りが、円滑な人間関係には不可欠です。
聞き方の名著100冊に紹介されていた「褒める」に関わるコツをまとめると、次の3つになります。
◆円滑な人間関係を築く「褒め」のコツ
(1)褒めると相手は話しやすくなる
「褒める」は会話の入り口で大きな効果を発揮します。人は、自分が気に入っているものや、よいと思っていることを認めてもらえると、自然と話しやすくなるからです。たとえば、服装や持ち物、部屋の調度品を見て、「素敵な時計ですね」「きれいな絵ですね」と声をかけるだけでも、会話の空気はやわらぎます。
「最初の質問は、いいところ、聞かれて心地よいところを見つけて、それについての事実質問から始めることをオススメします」
(中田豊一『「良い質問」を40年磨き続けた対話のプロがたどり着いた「なぜ」と聞かない質問術』/ダイヤモンド社)
相手のよさに気づき、言葉にすると、「あなたに関心があります」という気持ちが自然と伝わります。褒め言葉は、会話を始めるための小さな橋渡しにもなるのです。
褒められたときに「謙遜」はいらない
(2)褒められたら素直に受け取る
褒めることが大切なら、褒められたときの受け取り方も大切です。日本では褒められると、「そんなことありません」「まだまだです」と強く謙遜する場面が少なくありません。
ただ、相手が好意を込めて伝えてくれた言葉まで否定してしまうと、その気持ちを受け取り損ねてしまうことがあります。
褒められたときは、「ありがとうございます」「うれしいです」とまっすぐに受け取ってみる。相手の好意を受け止めることも人間関係を育てる姿勢です。
(3)評価を目的としない
一方で、国内だけで300万部の大ベストセラー『嫌われる勇気』(岸見一郎、古賀史健/ダイヤモンド社)によると、アドラー心理学では、褒める行為には上下関係が含まれるとして、「『ほめてはいけない』という立場をとります」と書かれていました。
褒める側と褒められる側という関係が強くなると、褒められること自体が目的になり、相手の評価に振り回されてしまう可能性もあります。
大切なのは、相手を評価するためではなく、よさに気づき、敬意や好意を自然に伝えることです。
苦手な人の話を聞かなければならないとき
実はこのテーマ、本編には入りませんでしたが、どうしても気になる項目として、制作チームの心に、もやもやが残りました。
聞く力が本当に試されるのは、気の合う相手と楽しく話しているときよりも、苦手な相手の話を聞かなければならないときではないか、と考えたからです。
「そこが、知りたい!」という読者のみなさんの声も聞こえてきそうでした。
そこで、嫌いな人や苦手な人の話を聞かなければならないときの現実的な対処法をここでは考えていきます。
◆「なぜ苦手なのか」を自分に問いかける
苦手な人の話を聞くとき、私たちはつい、相手の言動ばかりに目を向けてしまいます。
「あの言い方が嫌だ」
「いつも上から目線に感じる」
そう感じること自体は、自然な反応です。人には相性がありますし、どうしても合わない相手もいます。無理に「苦手だと思ってはいけない」と、自分の感情を否定する必要はありません。ただ、苦手意識が強くなりすぎると、相手が何を話していても、最初から「嫌だ」「聞きたくない」という気持ちで受け取ってしまいます。すると、必要な情報まで耳に入りにくくなります。そんなときは、まず自分に問いかけてみます。
「私は、なぜこの人が苦手なのだろう?」
理由を探してみると、相手そのものが嫌なのではなく、相手の一部の言動に反応していることに気づく場合があります。
また、「この人は、なぜこういう言い方をするのだろう?」と相手の背景を想像しながら聞くのも手です。「見た目や言い方だけではわからない何かがあるのかもしれない」と考えてみると、相手への見方は少し変わります。
いきなり深い質問はNG
◆質問は、無難なものから少しずつ
苦手な相手に、いきなり深い質問をする必要はありません。急に踏み込むと、相手が警戒してしまうこともあります。
まずは、答えやすい質問から入ります。
声・話し方の総合プロデューサーの下間都代子さんは、『「この人なら!」と秒で信頼される声と話し方』(日本実業出版社)で、
「例えば、どこにも興味をそそられないものの、唯一持っているスマホケースがイケていたならこう声をかけよう。
『それ、素敵ですね。どこで買ったのですか?』
好意的な興味から会話をスタートさせると、たいていの相手は嫌な気持ちにはならないので少し心を許してくれる」
と語っています。
こちらが「話を聞く姿勢」を示すことで、相手の警戒心がやわらぐこともあります。
大切なのは、相手を好きになろうとすることではなく、必要な情報を受け取りつつ、相手を少し理解しようとすることです。
苦手な人に好意を持とうとする必要はない
◆「好きになる」より「学べる点を探す」
苦手な人に対して、いきなり好意を持つのは難しいものです。
けれど、「この人から何かひとつ学べることはないか」と考えてみることはできます。
厳しい人なら、仕事に対する基準が高いのかもしれません。
細かく指摘してくる人なら、よく見ている人なのかもしれません。
尊敬できない部分まで無理に理解しようとする必要はありませんが、「この部分は苦手。でも、この部分は参考になるかもしれない」と分けて考えるだけで、相手の話を聞く負担は少し軽くなります。
いいところをひとつだけ探してみるだけでも、聞く姿勢に少し余裕が生まれます。
◆「今、必要な行動」だけに意識を向ける
苦手な人の話を聞くとき、もっとも疲れるのは、相手の言葉や態度に自分の感情まで引っ張られてしまうことです。
聞き方の本には次のような考え方もありました。
「仕事は行動の伝え合い 行動と人格を区別して考えましょう」
(細川貂々、水島広子『やっぱり、それでいい。』/創元社)
きつい言い方をされたときは、相手の言い方ではなく、「今必要な行動は何か」に意識を向けます。
◆必要な行動を聞き取るためのポイント
● 相手の言葉を、自分への攻撃と決めつけすぎない。
● 仕事の話は、「次に何をするか」を確認する。
● 相手の言い方まで、自分の中に入れすぎない。
● わからない点は、短く確認する。
「この人が好きか嫌いか」ではなく、「今必要な行動は何か」に焦点を当てる。そうすると、相手の感情に巻き込まれにくくなります。
苦手意識を完全になくせなくても、必要な情報を受け取り、必要な行動につなげることはできます。その距離感を持つことが、苦手な人の話を聞くときの現実的な対処法です。
