※本稿は、歌島大輔『肩のけんばん断裂 自力でできるリセット法』(アスコム)の一部を再編集したものです。
65歳以上の肩の痛みは「けんばん断裂」かも
ちょっとした動きで肩に痛みを感じたり、腕が上がらなくなったりするのは、年だからしかたがないと、なかばあきらめている方は少なくないと思います。以前は意識することもなかった日常的な動作が、当たり前にできなくなるのは、暮らしそのものが変わってしまうということです。
たとえば、毎日の入浴。
・服を脱ぐ
・シャンプーで頭を洗う
・腰やお尻を石けんで洗う
・お風呂から出てまた服を着る
そんな動作をするたびに、肩が痛んだり、腕を上げにくくてササッとできなかったりするストレスは、知らず知らずのうちに蓄積されていきます。
実は、65歳以上の方の肩の痛みでは「けんばん断裂」の可能性が高くなります。「腱板」は、肩を安定させる4つのスジのことです。腱板が、加齢に伴い徐々に弱ってきて、傷んで切れる疾患がけんばん断裂です。
けんばん断裂は放っておくと進行することがあります。ここでは、毎日の入浴の習慣に取り入れることで、けんばん断裂の症状を和らげ、肩の動かしやすさを保つ簡単な体操をご紹介します。
お風呂で1分「水中うちわあおぎ体操」のやり方
今回ご紹介する〈水中うちわあおぎ〉体操は、肩の「腱板筋群」に刺激を与える体操です。
腱板筋群は、肩の中のインナーマッスル(深層筋)のことです。深層筋は、体の深いところにある筋肉です。関節のすぐ近くにあり、関節の安定性を高める働きがあります。
肩にある4つの深層筋――棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋をまとめて腱板筋群と呼びます。この4つの筋肉が協力し合い、肩関節の安定とスムーズな動きを支えています。肩関節が外れないように、関節のすぐそばで守っているのが腱板筋群です。
【お風呂で1分間「水中うちわあおぎ」体操】
(1)浴槽でお湯につかり、手を動かせる角度に座ります。背筋を伸ばし、脇を締めて、片方の肘を90度くらいに曲げます。肘を曲げたほうの手のひらを広げます。なるべく指はくっつけます。
手首を動かさず、肘から先を、浴槽の床と平行になるよう外側に動かします。
(2)それを内側へ戻します。開いたり閉じたりを1分。少し水の抵抗を感じる強さで続けます。
(1)(2)をもう片方の肩でもやりましょう。
腕を外側に開くときに痛みを感じるようなら、その手前の角度で止めてください。また、動かすのがつらい方は、手をグーにしておこなってください。
お湯の中で動かすだけで効果的
〈水中うちわあおぎ〉は、お風呂の中で前腕を動かすことで、肩の腱板筋群にほどよい刺激を与える体操です。前にいる人をうちわであおぐように、腕をやさしく動かします。
この体操では、水の抵抗を利用します。何も持たなくても、お湯の中で腕を動かすだけで、肩まわりの筋肉にやさしく負荷がかかります。
浴槽の形や大きさによっては、やりにくいこともあるかもしれません。その場合も、無理に大きく動かそうとしなくて大丈夫です。前腕がお湯に入り、肩に痛みが出ない範囲で小さく動かせれば、それで十分です。
お風呂では、体が温まって全身の血流がよくなります。緊張していた筋肉もほぐれやすくなります。湯船につかるだけでも体はリラックスしますが、そこにこの小さな動きを加えることで、硬くなった肩まわりを無理なくゆるめていくことができます。
〈水中うちわあおぎ〉は、「お風呂に入ったらやる」と決めておくと、習慣にしやすい体操です。お湯のほどよい抵抗で、ほんの少し押し返されるような感覚があり、これが意外と気持ちいいのです。
お湯の力を借りて、リラックスしながら、肩をいたわる時間にしてください。毎日少しずつでも続けることで、肩のこわばりがゆるみ、動かしやすさにつながっていくはずです。
“うちわ1本”使って椅子でもできる
お風呂以外でも、肩まわりをやさしく動かしたいときは、〈椅子でうちわあおぎ〉体操をおこなってください。水の抵抗の代わりに、うちわで空気をあおぐときの軽い抵抗を利用します。
用意するのは、うちわ1本です。うちわがなければ、扇子やクリアファイル、段ボールなど、空気を受けて軽い抵抗がかかるもので代用できます。
【〈椅子でうちわあおぎ〉体操】
(1)うちわの柄ではなく、扇の付け根を持ちます。椅子に腰をかけ、背筋を伸ばし、脇を締めて、肘を曲げます。手首を動かさず、肘から先を、床と平行になるように外側へ振ります。
(2)それを内側へ戻します。パタパタとあおぐように1分。少し風が起こるぐらいの強さで続けます。
(1)(2)をもう片方の肩もやりましょう。
鍛えるコツは“弱い負荷”
普通、筋トレで鍛えるのはアウターマッスルです。インナーマッスルを鍛えることはなかなかありません。
肩まわりのアウターマッスルは、三角筋、大胸筋、広背筋、僧帽筋などです。これらの筋肉は頑丈なので、通常の生活で切れたりすることはまずありません。本当に鍛えてほしいのはインナーマッスルのほうなのです。
インナーマッスルを鍛えるコツは、まず弱い負荷から始めること。アウターマッスルに余計な力が入らないようにしながら、インナーマッスルを意識して動かすことが大切です。
〈水中うちわあおぎ〉も〈椅子でうちわあおぎ〉も、肩が外側と内側にまわります。このような肩の回旋運動にはインナーマッスルが関わるため、この動きを繰り返すことで、自然にインナーマッスルに刺激を与えることができます。
とくに〈水中うちわあおぎ〉は、お湯につかりながらすることで、筋肉をリラックスさせる効果もあります。
インナーマッスルを鍛えるときは、アウターマッスルの三角筋などは働かせたくありません。〈水中うちわあおぎ〉は、全身が温まることによって、アウターマッスルがリラックスする理想的な体操といえます。
毎日の入浴やデスクワークの合間に簡単な体操を取り入れて、肩のインナーマッスルに刺激を与え、肩の機能をできるだけよい状態に保っていきましょう。
肩が楽になると、暮らしは変わる
けんばん断裂になってしまった方が目指すべきゴールは、腱板が修復されることだけではありません。夜に眠れ、一人で服が着られ、洗髪ができ、仕事が続けられ、趣味もできて、困らずに暮らせること。つまり、痛みが少なく、腕の機能が保たれたまま人生を全うすることです。
私は肩を専門とする整形外科医として、たくさんの患者さんの声を聞き、姿を見てきました。毎日シンプルな体操を続けることで、外に出るのがおっくうでなくなったという方もいます。好きだった趣味をまた楽しもうと前向きになった方もいます。
肩が楽になると、思っている以上に暮らしは変わります。家族や友人との時間にも、前より自然に笑顔でいられるようになるでしょう。
肩の痛みを和らげることは、単に症状を軽くすることではありません。諦めかけていた毎日を、もう一度取り戻していくことでもあるのです。
