英国に東洋人への蔑視が残っているのは本当か。英国式マナーを教えている佐藤よし子氏は「本当だ。幼少期から現在に至るまで、何度も嫌な思いをしてきた。激しく抗議すると警察を呼ばれることもあるため、対応には工夫が必要だ」という――。

※本稿は、佐藤よし子『本当は怖いアフタヌーンティー 英国階級社会の真実』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

空のレストランテーブル
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英国で驚いた「父への悪口」

子どものころから、神戸に住む外国人の方と親しくさせてもらったり、仕事で香港に行く父に付いていったりしていましたが、楽しい思い出ばかりではありません。英国人の、日本人・東洋人に対する蔑視には、ずいぶん嫌な思いをしてきました。

18歳のわたしが英国留学するにあたって、これからお世話になるホストファミリーや彼らの親戚をご招待して、海辺の街、ブライトンのレストランで父といっしょに食卓を囲んだときのこと。彼らは、父の食事の様子を見て、ずっと笑っているのです。

スープをいただくときにすすってしまったかもしれません。肉料理のときに、最初に全部の肉を小さく切ったのかもしれません。父の食事の作法の何かがおかしかったのでしょう。横を向いて笑っています。「イエローモンキー」というささやきが、わたしの耳に入ってきました。

「ドレスで着飾った貴族たちが、こんなことを言うの?」という、信じられない気持ちと、理不尽な悔しい思いは、そのときに見上げたレストランの美しい天井とともに、今でも忘れることができません。

神戸で英国人と交流のあった母はマナーを知るようになっていましたが、いわゆる「日本男児」だった父は、ヨーロッパのマナーに関しては無頓着でした。英国の人と仕事をしながらも、いっしょに食事をするのは嫌だったようです。

1970年代になったころでも、英国貴族たちの、東洋人に対する偏見といじめは壮絶なものがありました。両親は、仕事とはいえ、よくそれに耐え抜いたと思います。

「だったら、わたしはヨーロピアンの上流階級の中でもまれて、本物のマナーやエチケットがどういうものなのか、この目でしっかり見て学んで見返してやろう」と奮起したのです。思えばそれが、英国礼法の研究につながりました。

「サービスされない」という事実

「ザ・イーストボーン・カレッジ」を卒業してからも、通訳としてヨーロッパを駆け回る生活をしていました。ガラガラのティールームで、アフタヌーンティーを予約しようとしたら、「テーブルが空いていない」と断られたことも一度や二度ではありません。

タクシーで目的地に着いたら、ドライバーにスーツケースを投げ出されたこともありました。「なぜ日本人のために、自分がサービスしなくちゃならないんだ」というわけです。

日本人で、若く、女性で、しかもきちんとした英語を話すわたしは、ワーキングクラスの英国人から見れば、とても不快な存在だったかもしれません。

以来、わたしは個人的にショーファーを雇うことにしています。海外に出るたびに、身体を擦りむくような思いをしてきました。

生徒が税関を通れなかった「残念な理由」

つい最近、教室の生徒さんたちを連れてロンドンに行った帰りの空港でのことです。ひとりの生徒さんが、税関で止められてしまいました。書類は完璧に揃っているのに、どうしても判を押してくれないというのです。生徒さんがわたしに助けを求めました。

わたしがその場に行ったら、判を押さない担当者は隠れてしまって出てきません。その場にいた職員に最上級のていねいな英語で、「彼女がこちらを通していただけないと申しておりますが、見たところ、書類に不備はないと思います。何か手違いがあったと思われます。お時間をいただいて申し訳ないのですが、もう一度ご担当の方か、上の方にお話をさせていただけるとうれしいのですが」と言いました。

隠れてしまった担当者の代わりに、しかたなく上司が出てきて書類をチェックすると、判を押さないのは担当者の意地悪だということに気づいたのでしょう。「書類の書き方がわかりにくかった」などと言い訳をしながら、判を押して通してもらえました。「そうですか。今後気をつけていただけますか」と最後に釘を刺しておきました。

そういうとき怖いのは、激しい言葉で抗議すると、警察が来てしまうんです。英語の中でも、クイーンが使うようなていねいな英語できちんと話せば、もう反論できないのです。

イギリス国旗
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老舗レストランにいまだ残る階級意識

ですが、言葉やマナーが完璧になったからといって、まだまだ気を許してはいけません。

ロンドンに、英国貴族が大好きな「ウィルトンズ」という英国伝統料理のレストランがあります。1742年に創業した老舗で、なかなか予約のとれない人気レストランです。息子が予約の電話を入れたら断られたというので、わたしがかけ直しました。わたしの話す英語が19世紀のクイーンズ・イングリッシュだったので、電話の相手もおもしろがって、なんなく予約できました。

格式のあるレストランでは、ゲストがオーダーしていい人、話しかけていい人、話しかけてはいけない人がいます。ほかのテーブルを片付けている人に話しかけてはいけません。インヴィジブル、見えない人だから。話しかけられた人はクビになってしまいます。「目立つように動いてしまったから」

「ウィルトンズ」は、そういう階級意識が歴然と残るレストランです。

息子といっしょにランチに行きました。中央にあるテーブルに案内されました。まず、こちらのオーダーを試されます。

スターターとしてドレストクラブ(蟹の冷菜)、メインにローストビーフ、デザートにトライフルを注文しました。ドレストクラブのときにパンがサービスされます。スターターを食べ終わって、パンをひくときに「May I ?(よろしいですか)」って尋ねるのです。英国では、メイン料理のときにはパンを食べません。ですから、スターターが済んだら、残ったパンもいっしょにひくのですが、そのときにわざと「May I ?」って聞いてきたのです。

「あ、試してきたな」と気づいたので、「Of course, thank you.」って答えました。「Of course」、つけてさしあげました。

常連客がフランス語で話し出した理由

隣のテーブルがざわめいています。「あのふたりはいったい何者?」というわけです。「彼女は英語がわかるみたいだからフランス語で話しましょ」と、フランス語に切り替えました。この状況でフランス語になったら陰口を言われていると覚悟しましょう。でもフランス語も聞こえちゃうんです、わたし。

佐藤よし子『本当は怖いアフタヌーンティー 英国階級社会の真実』(幻冬舎新書)
佐藤よし子『本当は怖いアフタヌーンティー 英国階級社会の真実』(幻冬舎新書)

「日本人なのに英語がちゃんとしている」
「服装もましね」
「パールつけてるし」
「ナプキン、ちゃんと使えるのかしら」
「食べ終わったカトラリーを縦に置いてる!」
「食後にハーブティーを頼んでるわ!」

わたしたちは常連さんたちのテーブルの真ん中に入れられたのです。

わたしたちがランチをいただいている間に、リュックを背負ったアメリカ人のふたり連れが入ってきました。予約はしていなかったようです。「ここはおいしいって聞いていたから、一度食べてみたいんだけど」と言って。

席は空いているのですが、応対した店の人はまず彼らのいでたちを上から下まで見て、「今テーブルは空いていないけれど、いちばん端っこのドアの前ならご用意できます」と言っています。ドアを開けたらぶつかってしまいそうな場所です。

普通なら「レストランから断られているな」と察して帰ってもいいと思いますが、彼らは「そこでいいです」って、座ってしまいましたが。

「ウィルトンズ」を出たとき、息子は「もう疲れた〜!! 二度と来ない」と言っておりました。

一言注意しただけなのに

やはり息子といっしょにレストランに行ったときのことです。ロンドンのカジュアルなレストランへ、ランチに行きました。

案内されたテーブルの真上に、植物の装飾が下がっていました。わたしたちが食事をしているのに、レストランの人がその植物を棒で動かそうとするので、「今食べているんだからやめて」って言ったんです。ホコリが落ちるでしょう?

食事が終わってレストランを出るときに「Thank you.」と言ったら、「No. You are not thank you.」って返されました。わたしがひとこと注意をしたことに対して、「感謝なんかしていないなら、サンキューって言うな」というわけです。

英国では、意地悪や皮肉に負けない自分を保たなければならないと思います。