「肩の痛み」は年齢を重ねるごとに増していくが、どのように対処すればいいのか。整形外科医の歌島大輔さんは「医師の診断がないまま、整体院やカイロプラクティック院などには行かないでほしい。肩の痛みは“けんばん断裂”という状態かもしれず、適切な治療が必要だ。放置すると最悪の場合、手術でも修復不能になる」という――。(第2回)

※本稿は、歌島大輔『肩のけんばん断裂 自力でできるリセット法』(アスコム)の一部を再編集したものです。

コンピュータを見ながらメモを取る男性医師
写真=iStock.com/kazuma seki
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60代以上の肩の痛みは「けんばん断裂」かも

肩が痛い、どうも違和感がある、という方。

「肩こりは年のせい」
「五十肩はそのうち治る」
「ちょっと傷めただけ」

そう思って、肩の痛みをやり過ごしていませんか。けれど、60代以上の方なら、その痛みの奥で、肩の中の「腱けん」が傷つき、切れている可能性があります。それは肩こりでも五十肩でもなく「けんばん断裂」という状態かもしれません。

ただ、医師の診断を受けることなしに治療院に通うことは、まったくおすすめできません。

なお、本稿では、病院ではない、接骨院、整骨院、鍼灸院、整体院、カイロプラクティック院などを「治療院」と便宜的に呼びます(ただし、「治療」という言葉を使うべきかどうかも意見が分かれます。本来は「施術院」が正しいのかもしれません)。

治療院に行くと、整体師やカイロプラクターなどが「これ、たぶん、けんばん断裂ですよ」などと言うケースもありますが、診断などの医業は、日本では医師だけに認められた行為です。

医師の資格を持たない人に診断は下せません。診断というのは、診察や検査をおこなって疾患を突き止めることです。治療院ではMRIなどの画像検査もできないし、スタッフはその教育も受けていません。何より、くどいようですが、そのような行為は法律で認められていません。

「整体師」は無資格・未経験でも名乗れる

整体師やカイロプラクターなどは、日本においては国家資格を必要としない職業なので、無資格・未経験でも「整体師です」などと名乗れます。そういう人が無責任に「たぶん、けんばん断裂です」と言っても推測にすぎません。素人の友人知人が言うのと同じで法に触れることはないのですが、言われたほうはプロに言われたような気がして、医師の診断と同じように受け止めてしまうのです。

さらに、医学的根拠のない治療法や施術理論が野放しにされています。

もちろん、整体師などがすべて信頼できないというのではありません。長期間かけて技術を学び、民間の認定資格を取得し、誠意ある施術をしている方もいらっしゃるでしょう。それでも、正確な診断はできないし、やってはいけないということです。

一方、整骨院などで骨折・脱臼・捻挫・打撲・挫傷などに手技で対応する「柔道整復師じゅうどうせいふくし」や、「あん摩まマッサージ指圧師」「鍼灸師(はり師・きゅう師)」などは国家資格です。ですが、診断や医療行為は認められていないので、もしも「けんばん断裂です」などと断定的に言えば、法律に抵触することになります。

治療院だけでは「放置」と「悪化」のリスク

柔道整復師の業務は、ケガの応急処置と急性期・亜急性期あきゅうせいきの対処です。けんばん断裂にも断裂直後の急性期がありますが、その時期に柔道整復師がギプスや副木そえぎ、テーピングなどで固定したことで治癒率が上がった、という医学的な根拠は私が知る限りありません。医師として診察していても、そういう実感はありません。

もちろん、治療院で痛みが一時的に軽くなることはあります。固まった筋肉をほぐす施術で、一時的な効果があることは否定しません。

けれども、治療院だけに通うのは、何もせず、けんばん断裂をほうっておくことと同じです。けんばん断裂を放置すれば、断裂広大や脂肪変性が進む可能性があり、大きな断裂では修復不能になる恐れがあります。

整体で肩を押したり揉んだりしてもらったからといって、腱板けんばんの断裂が広がるような心配はありません。腱板は深いところにあるインナーマッスルで、手技の影響は少ないからです。ですが逆から言えば、悪化はしないものの、効果もないわけで、けんばん断裂は放置されたままだということです。

マッサージを受ける女性
写真=iStock.com/mapo
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逆に、肩を動かされてしまう、もしくは診断もないままリハビリのようなものを指導されたりしてしまうことには、悪化のリスクが大いにあります。

つまり、けんばん断裂やそれが疑われる状態で治療院に通うことは、「意味がないリスク」と「悪化するリスク」の両方があるということです。

まずは整形外科へ、ただし診断を誤る医師も

「肩が痛い」「腕に力が入らない」と思ったら、まずは整形外科へ。きちんとした整形外科は、肩の痛みを訴える患者さんには、まずレントゲン、そして必要に応じて超音波検査やMRI検査をします。レントゲンと診察で「断裂はほぼないだろう」と判断できれば、MRIまでは撮らないこともあります。

ただし、残念ながら、医師であっても正しい診断ができないことが少なくありません。「五十肩なのか、けんばん断裂なのか」の識別ができない整形外科医もいます。

レントゲンを撮ることもなく、「五十肩だと肩を動かせる範囲が狭くなるけど、あなたの可動域は広いから五十肩ではありません。腱板がちょっと傷んでいるのかもしれません。腱板損傷ですね」と言って、湿布と痛み止めを処方するだけの整形外科医もいます。でも、これは肩を専門にしている私から見れば、とんでもなくいいかげんな診断で、いいかげんな治療です。

「肩が全然上がらなければけんばん断裂、上がれば五十肩」という診断基準を持っている整形外科医もいますが、肩が上がるか上がらないかで判断するのは、とんでもない間違いです。肩の上がるけんばん断裂もあれば、肩の上がらない五十肩もあります。重症な五十肩を「凍結肩」と呼ぶのですが、「凍結」と表現するぐらい硬くなった状態なのですから、当然肩は上がりません。

「肩が得意」な医師を探して

他の整形外科医から五十肩だと言われたのに、私が診るとけんばん断裂だった、というケースは数えきれません。言うまでもありませんが、診断を誤るということは、適切な治療ができないということです。

なぜ、そのようなことが起きるかというと、けんばん断裂の診断自体が難しいことに加えて、日本の整形外科医は腰や股関節、背骨を専門にしている人が多く、肩については詳しくないからです。

肩について正しく診断をするには、経験値が大きくものをいいます。同じMRI画像を見ても、けんばん断裂を見抜ける医師と、見抜けない医師がいるのは、経験値の違いです。

クリニックで「腱板が切れています」と言われた方の肩を私が診ると、実は「切れていなかった」ということが、実際に毎週のように起こっています。逆に「切れていない」と言われた方を私が診ると「切れていた」というケースもよくあります。同じ画像を見ても、違いが出るのです。

ですから、正しく診断してもらいたいと思ったら、肩を得意としている整形外科医かどうかを調べてください。

肩書きや資格では見分けられない

「専門医」という言葉をご存じですか? 専門医とは、日本専門医機構などの認定団体から、特定の医療領域で「標準的で高度な知識・経験を持つ」と認定された医師の資格です。医師が勝手に名乗れるわけではありません。

困ったことに、「整形外科専門医」という資格はあるのですが、「肩専門医」という資格はありません。ですから、その医師の肩書きや資格を見ても、肩を得意としているかどうかを判断することはできません。

私からすると、整形外科医で肩を得意としている医師は1割もいません。先述したように、肩を得意としていない医師がけんばん断裂を正しく診断するのはほぼ無理です。

歌島大輔『肩のけんばん断裂 自力でできるリセット法』(アスコム)
歌島大輔『肩のけんばん断裂 自力でできるリセット法』(アスコム)

特に、知識のアップデートを怠っている整形外科医には難しいと思います。

理由のひとつは、けんばん断裂に手術を施すのはあまりよくないといわれていた時代があったからです。そのために手術を多く経験しておらず、肩の中を実際に見る機会が少なかったわけです。

しかも、今は「関節鏡」という内視鏡を使った手術が主流ですが、昔は肩の関節鏡がありませんでした。肉眼で見える大きな断裂だけが対象とされ、小さい断裂は無視されていたのです。そういう手術の経験しかない医師が、小さなけんばん断裂まで正確に診断するのは難しいのです。

見るべきは「最低でも週に1回=年間に50件」の手術数

では、どうやって肩を得意としている医師を見つければいいのでしょうか。

私がおすすめするのは、「肩の手術をたくさん経験している医師」です。手術の数は、クリニックの公式ホームページなどで調べることができます。

正直に言いますが、私は、整形外科医ではありますが、肩以外の部位の手術はもう一切やっていません。患者さんのことを考えれば、今の私は肩以外の手術はやらないほうがいいと思っています。手術というのは、それほど専門性を必要とされるものなのです。最低でも週に1回(年間に50件)は手術をやっていないと、腕がなまります。逆から言えば、手術数の多い医師は、日に日に手術の腕が上がっています。

手術中のテーブルの上の外科用器具
写真=iStock.com/faustasyan
「肩の手術をたくさん経験している医師」で、最低でも週1回(年間に50件)を基準にするといい。「肩関節外来」を掲げているクリニックならかなり安心(※写真はイメージ)

誤解しないでほしいのですが、「手術数が多い医師がいい」といっても、手術をおすすめしているのではありません。手術の経験が多ければ、それだけ肩の中やMRIなどの画像を多く見ている医師だから、診断についても信頼できるということです。

「肩関節外来」を掲げているなら安心

50代で、平日はデスクワーク、週末はテニス三昧ざんまいの女性がいました。肩の痛みを訴えて整体院に行ったのですが、「1週間に1回来てください」と言われ、一般的な施術をされただけでした。半年ぐらい通って効果がないと実感した女性は、整体に見切りをつけ、スポーツ外来のある整形外科に行きました。そこでけんばん断裂という診断は下されたものの、5カ月ほどおこなった治療やリハビリで効果は感じなかったといいます。

その後、別のスポーツ外来に相談に行きましたが、また同じことが繰り返されたそうです。合わせて1年以上。この間に適切な治療がされなかったのです。

けんばん断裂は、絶対に「肩を得意としている医師」に診てもらうべき疾患です。スポーツによる故障であっても、スポーツ外来が最適とはいえないのです。

「肩関節外来」を掲げているクリニックなら、かなり安心です。

ですが、肩関節外来があるクリニックや肩の手術例が多いクリニックが生活圏内にない、という方もいらっしゃるでしょう。そうであれば、医師がどんなふうに自分の肩と向き合ってくれるかで判断するしかありません。定期的に診てくれて、治療方針をきちんと説明してくれるなら、誠実に向き合ってくれている目安になります。逆に、「ちゃんと向き合ってくれない」「おかしい」と感じたら、迷わず他のクリニックに相談してください。