※本稿は、和田秀樹『ラーメンと健康 「炭水化物=悪」ではない』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
日本人はインスリンの分泌能力が弱い
多くの方は「糖質=すぐ太る」「炭水化物=血糖値が急上昇する」というイメージを持っていますが、これは半分正しく、半分誤解です。同じ糖質でも、どの食品から摂るか、どんな組み合わせで食べるかによって、血糖値の上がり方はまったく違うのです。
問題は糖質そのものではなく、摂り方です。そして、賢く糖質を摂るために役立つのが、世間では意外にも悪者扱いされてきたラーメンなのです。「ラーメンは血糖値が上がりやすい」というイメージは、本当に正しいのでしょうか。まずは、白米やうどんとラーメンの違いを科学的に見ていきましょう。
食べ方の話をする前に、私たち日本人の体質について触れておく必要があります。
実は日本人は、欧米人に比べて、血糖値を下げるホルモンであるインスリンを分泌する能力が非常に弱いという遺伝的な特徴があります。欧米人がピザやコーラを大量に摂取しても糖尿病になりにくいのは、強力なインスリン分泌能力で血糖値を力業で下げることができるからです(その代わり、余った糖が脂肪になり、超肥満体型になりやすいのです)。対して日本人は、インスリンの力が弱いため、少しの糖質過多でも血糖値が上がりやすく、痩せていても糖尿病になりやすい体質を持っています。
うどん・そばは、血糖値が急上昇しやすい
だからといって「糖質を抜け」というのは間違いです。インスリンが弱いからこそ、血糖値を急激に上げない食べ方を工夫する必要があるのです。空腹時にいきなりおにぎりや菓子パンをたくさん食べるような糖質単体の食事は、インスリンの処理能力を超えてしまい、血糖値スパイク(急上昇)を引き起こします。
日本人に必要なのは、糖質をゼロにすることではなく、糖質の吸収スピードを緩やかにするブレーキをかけながら食べることです。そして、そのブレーキ役となるのが、実は油(脂質)とたんぱく質なのです。
「健康のために、今日はラーメンではなく、うどんかそばにしておこう」。もしあなたがそう考えているとしたら、それはかえって体に負担をかけているかもしれません。実は生理学的な視点で見ると、ラーメンは他の麺類に比べて「血糖値をコントロールしやすい」という、意外な優位性を持っているのです。
素うどんやざるそばのように油をほとんど使わない食事は、一見ヘルシーに見えます。ところが、胃の中に入ってくるのはほぼ100%炭水化物です。消化を邪魔するものが何もないため、胃を素通りして小腸へ直行し、瞬く間に吸収されて血糖値を急上昇させます。
脂質とたんぱく質が吸収を遅らせる
対照的に、ラーメンには必ずスープの脂質が含まれています。また、トッピングのチャーシューや味玉にはたんぱく質が豊富です。実は、これら脂質とたんぱく質には、胃の排出機能を遅らせるという重要な働きがあります。
つまり、油や肉と一緒に炭水化物を摂ることで、糖質が胃の中に留まる時間が長くなり、小腸へ少しずつ送り出されるようになるのです。たとえるなら、素うどんがジェットコースターのように一気に血糖値を上げるのに対し、ラーメンは脂質やたんぱく質という重りを背負ってゆっくり坂道を上っていくようなイメージです。
さらに、麺そのものの性質にも、血糖値を上げにくい理由があります。それが、食後血糖値の上昇度を示すGI値(グリセミック・インデックス)です。一般に、精白米やうどんはGI値が高めの食品に分類されます。うどんのGI値は調理方法によって幅がありますが、条件によっては70以上になることもあります。
一方、ラーメンに使われる中華麺は60前後と中程度の食品に分類されます(図表1)。これは、中華麺特有のかんすいによって小麦のたんぱく質が変性し、うどんやパンに比べて消化吸収がゆっくり進むためです。
血糖値の乱高下は“病気のもと”
このように麺の特性に加え、脂質とたんぱく質による胃の排出遅延効果(ブレーキ)が加わります。このダブルの効果があるからこそ、ラーメンは単体の炭水化物メニューよりも血糖値スパイクを起こしにくい食事なのです。麺だけを取り出し「糖質だからダメ」と決めつけるのは、木を見て森を見ない発想です。この逆説的な真実を知っておくだけで、メニュー選びの視点が大きく変わるはずです。
では、なぜ血糖値スパイクを防ぐことがこれほど重要なのでしょうか。
食事によって血糖値が急激に上がると、体は処理が追いつかず、血管の内側を傷つける活性酸素が増えます。これが動脈硬化を早め、将来的な心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高めることが分かっています。
また、急上昇した血糖を下げるために大量のインスリンが分泌されると、体には連鎖的な悪影響が生じます。インスリンは血糖値を下げますが、その急激な作用で低血糖に近い状態を引き起こし、強い眠気やだるさといった不調を招きます。同時に、インスリンには余った糖を脂肪に変えて蓄える働きがあるため、過剰な分泌は必然的に「太りやすい体質」へとつながってしまうのです。
近年では、血糖値の乱高下そのものが脳の炎症を促し、認知症リスクに関わる可能性も指摘されています。こうした理由から、「どの食品を食べるか」だけでなく、「どう食べるか」が健康と若さを守るうえで大きな意味を持つのです。
「たんぱく質ファースト」を守る
ラーメンがうどんやおにぎりよりも血糖値が上がりにくい構造を持っていることは、お分かりいただけたと思います。とはいえ、油と具が入っているからといって、無防備に麺をすすっていいわけではありません。インスリン分泌能力がもともと弱い私たち日本人が、ラーメンを一生の友として安心して付き合っていくためには、第2回でも触れた「たんぱく質ファースト」を、より厳格なルールとして実践する必要があります。
この「たんぱく質ファースト」こそが、膵臓が疲れやすい日本人にとっての命綱です。
とにかく「麺の前に具を胃に入れる」。この鉄則を守るだけで、食後の血管へのダメージには天と地ほどの差が出ます。
この食べ方は、地域医療や高齢者医療の第一人者である鎌田實先生も積極的に勧めている方法です。鎌田先生は、毎食しっかりたんぱく質を摂る習慣が、血糖値対策に留まらず、サルコペニア(筋肉減少症)やフレイル(虚弱)の予防にもつながり、結果的に健康寿命を延ばすと強調されています。ラーメンの具から先に箸をつけることは、まさにこの健康長寿の秘訣を実践することにほかなりません。
一口目は「チャーシュー」か「味玉」で
ラーメンが運ばれてきたら、湯気の立つ麺をすすりたい気持ちをぐっとこらえ、まずはトッピングのチャーシューや味玉をゆっくり味わってください。スープにも動物性たんぱく質が含まれているため、ひと口すすってから麺に進むのもお勧めです。
サイドメニューの餃子を先に食べるのも非常に有効な戦略です。もちろん、「具材を全部食べ切ってから麺を食べよ」という堅苦しい話ではありません。野菜があればベストですが、なくても問題ありません。「肉と卵が先」。このたった一つの作法を守るだけで、ラーメンは血糖値を乱高下させない優等生的な食事へと変わります。
「糖質は悪者」と決めつけて排除するのではなく、脂質やたんぱく質という仲間と一緒に、正しい順番で賢くいただく。それこそが、日本人が健康を損なわずに糖質を楽しむための、唯一にして最大の秘訣なのです。
(参考文献)
・食品メーカー公表の原材料・成分表(編集部調査)
・鎌田實『医師のぼくが50年かけてたどりついた鎌田式長生き食事術』(アスコム)
・和田秀樹『60歳すぎたら血糖値は下げなくていい』(永岡書店)
