子供の「読書の質」を上げるにはどうすればいいか。『「ことばで伝える」ができない子どもたち 誰が〈ことばの力〉を育てるのか』(日本実業出版社)を出したノンフィクション作家の石井光太さんは「読書には“背伸び”が重要で、大人の世界を少し垣間見るほうが、得るものが大きかったりする」という――。
学校の図書館で本を読む日本人の男の子
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本を「読む子」「読まない子」の二極化

第2回でも述べた文部科学省の調査では、2021年と2024年のわずか3年の間を比較しただけでも、家の蔵書の数は減少していることが明らかになっています。それだけ親の側に本を読み、家に置いておくという習慣が減っているということです。

これに伴って、子どもの読書量も減少傾向にあります。下記の図表1を見ると、10年前と比べて「まったく読書をしない」という子の数は、1.5倍にも増えているのがわかります。読書をしない子の割合は、全体の52.7%に及んでいます

私が出版業界にいて感じるのは、単に読書量が減っているというより、読書をする子としない子の「二極化」が進んでいる点です。これまで一定数存在していた「ときどき読書をする」中間層が減って、読書をする子はするけど、そうでない子はまったくしないという状況になっています。

「読書する大学生」イマどきの特徴

本を読まない子に読ませる方法は、〈「勉強しろ」も「本を読め」も不要…ゲームだらけの家でもわが子を「本好き秀才」にできる最強の家庭習慣〉に記した通りですが、読む子にも現代ならではの特徴があります。

それは、年齢が上がっても、読書の質が上がっていない子が少なくないことです

先日、ある大学のゼミで話をする機会がありました。全国的にも名の知れた学力レベルの高い伝統校です。ゼミの学生はフランス文学を専攻しており、国際意識が高く、ゆくゆくは国際機関や外資系企業に就職したいと語っていました。

このとき、ゼミの教授が学生たちに最近読んだ本を挙げなさいと言いました。学生らの背景を踏まえれば、フランス文学をはじめとした海外文学、あるいはグローバルなテーマの本が出てくるだろうと予想していました。

ところが、彼らはこう言うのです。

「石井さんが講演会に来ると聞いたので、石井さんが原作の絵本を読みました」
「『呪術廻戦』が好きなのでノベライズを読みました」
「本は読んでませんが、映画は見ました。『名探偵コナン』です」

大学生になっても、子ども向けの本を読み続ける。実は、これは決して珍しいことではないのです。20歳、30歳になっても、ずっと小学生向けに作られた本を読み続けていることがあるのです。つまり、読書の「質」が上がっていかないのです。

なぜ〈ことばの力〉が必要になるのか

私は絵本やアニメを否定する気持ちはまったくありません。私自身、児童書から漫画原作まで幅広く手がけていますし、その影響力を実感しています。グローバル市場では、日本のアニメが広く受け入れられている事実もあります。

しかしながら、そのことと、10代、20代の人たちがずっと子ども向けの本だけを読み続けることは別です。

本書『「ことばで伝える」ができない子どもたち』ですでに述べたように、成長するにつれ、人はどんどん複雑な言語空間に身を置くことになります。小学生、中学生、高校生、大学生、社会人、あるいは新入社員、係長、課長、部長、社長……。年齢や地位が上がるにつれて、より細かな言葉で、複雑な課題に向きあわなければなりません。

そのため、〈ことばの力〉を伸ばすための読書も、年齢に応じて質を上げていく必要があります。中学生は小学生より質の高い読書を、大学生は高校生より質の高い読書を求められるのです

年齢とともに上げていく「読書の質」

たとえば、小学生の低学年なら、『おしりたんてい』シリーズを、中学年から高学年なら『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』シリーズを読んでいれば、十分に必要な語彙力、情緒力、想像力、論理的思考力を育てていくことが可能です。それらの作品には、小学生にとってとても有益な内容が散りばめられているからです。

ところが、中学生や高校生になって、それらを読んでいても〈ことばの力〉は上がっていきません。

なぜなら、それらは小学生向けに書かれているので、中高生が新しく学ぶような言葉はほとんど使われませんし、思春期特有の複雑な感情が交錯する場面もないからです。また、日本にいてはなかなか想像できない海外の厳しい状況で生きる人々について学べるようなものでもありません。

そこでしなければならないのが、年齢が上がるにつれて読書の質も上げていくことです。中高生以上の子たちを対象に書かれた本であれば、そうした内容がふんだんに盛り込まれているのです。

日本の学校の図書館
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「何歳で何の本を読むか」の重要性

そして、バトンは渡された』(瀬尾まいこ)を読めば、同世代の子たちの心の機微が細かく記されています。そうした読書体験の中で、「ああ、人はこういうときにこう感じるのか」とか「自分だったらどうするだろうな」と考えながら年齢相応に情緒力を伸ばしていきます。それが、彼らのリアルな人間関係を円滑にするのです。

同志少女よ、敵を撃て』(逢坂冬馬)を読めば、第二次世界大戦中にロシア軍のスナイパーだった女性の人生を通じて大きな想像力を養うことができます。戦争に女性が参加することの意味、人が人を愛すことの意味、さらには現在のウクライナでも同じようなことが起きているという事実……。それは歴史を学んだり、自分の将来を考えたりする上でも大きな意味を持つはずです。

このように、何歳で、何の本を読むかはとても重要です。

人はその時々の年齢に合った本を読むことによって、〈ことばの力〉を年齢相応、あるいはそれ以上に育てていけるのです

年齢に合った本を選ぶ方法

年齢に合った本は、どうやって探せばいいのでしょう。

本を選ぶ女の子
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小学生向けであれば、講談社青い鳥文庫、角川つばさ文庫、集英社みらい文庫など大手出版社が小学生低学年からのシリーズを出しているので、それを中心に選ぶ方法もあります。

公益社団法人・全国学校図書館協議会の選んだ本を参考にするのも一つです。ここでは小学校低学年から高校生向けの良書を毎年選定して、ホームページにも掲載しています。特に青少年読書感想文全国コンクール向けの課題図書は有名なので、そこから選ぶのも一つでしょう。

最近の傾向でいえば、本屋大賞のノミネート作や受賞作を読む子たちも増えています。メディアでも大々的に報じられますし、直木賞や芥川賞の受賞作より文体や内容が平易な傾向にあるので、学校の先生も勧めやすいのかもしれません。

“背伸び”した本選びが「質」を上げる

石井光太『「ことばで伝える」ができない子どもたち』(日本実業出版社)
石井光太『「ことばで伝える」ができない子どもたち』(日本実業出版社)

これらの中には、親にしてみれば「中学生には少し早いのではないか」「難しいかもしれない」と感じる作品もあるかもしれませんが、読書には“背伸び”が重要です。少し大人の世界を垣間見るほうが、興味深かったり、得るものが大きかったりするのです。

そして、それが読書の質を上げることにもつながります。

高校生くらいになれば、「新書」もお勧めです。新書はワンテーマで、それぞれの世界への入門編として書かれています。政治や経済から推し活まであらゆるテーマが揃っていますので、思春期の子たちが自分の関心や悩みに合った本を選ぶことが可能です。

私もこれまで新書を10冊以上出版してきました。その経験からいえば、1冊の中には、大学で半年くらい講義をしたのと同じくらいの内容が詰まっています。仮に高校生が2冊読めば、大学の講義を1年間聴講したくらいの知識を身につけられます。