※本稿は、横山泰行『ポケット版「のび太」が教えてくれたこと』(アスコム)の一部を再編集したものです。
「出世競争」は実力だけで決まらない
会社など何かしらの組織に属して仕事をする場合、多くの人は出世競争とは無縁ではいられません。
ただ、その競争はスポーツのように勝敗が公平に決まる世界ではありません。仕事の実力だけでなく、人間関係や社内の派閥など、さまざまな要素が評価に影響することも多々あります。だから人事の話になると、どこか割り切れない気持ちになる人も少なくないのでしょう。
たとえば、「昨日まで威張り散らしていた部長が、社長の交代をきっかけに突然地方へ異動になった」という話は、決して珍しいことではありません。多くの社会人は、こうした一筋縄ではいかない評価の世界で日々仕事をしているのですから、本当に大変ですよね。
ドラえもんの漫画には、こんなシーンがあります。
のび太は、架空の世界を作ることができるドラえもんのひみつ道具「もしもボックス」を使い、「眠れば眠るほど優秀と評価される世界」を作り出しました。すると、いつでもどこでもすぐに眠ることができるのび太は、一気に高い評価を受ける存在になります。
やがて、その才能が注目され、テレビ局から教養番組「正しいひるね」への出演依頼が舞い込みます。番組では居眠り評論家の解説とともに、のび太が見事な眠りの模範演技を披露します。
「おおっ、なんという早わざ。・・・。0.93秒‼ おそらく世界新記録でありましょう‼」
「オリンピックのいねむり種目に、日本代表として、大活躍が期待されます」
アナウンサーは興奮しながら、のび太の才能を絶賛しました。そのテレビ中継を見たジャイアンとスネ夫は、自分たちの態度を恥じ、野比家の玄関先で正座をして謝罪します。
「そうともしらず、おれたちは……。おわびしなくちゃ。先生‼ ばかにしてすみませんでした!」
すると、のび太は余裕たっぷりにこう答えます。
「つまらないうらみは水に流し、手をとりあってねむりの道をきわめよう。しずかだねえ……。この平和が永久につづくよう祈ってぼくらもねむろうか」
その言葉に、ジャイアンとスネ夫は「先生‼」と叫びながら感激の涙を流したのでした。
『てんとう虫コミックス ドラえもん 第30巻』小学館 第5話目「ねむりの天才のび太」
「できる人」の基準はそれぞれ異なる
物事の評価というものは、どんな基準を設けるかによって大きく変わるものです。
もし「ケンカが強くて豪快な人ほど偉い」という世界なら、ジャイアンは誰もが認める存在になるでしょう。反対に、「要領がよく口が上手い人ほど評価される」世界であれば、スネ夫が一番になるはずです。
これは仕事の世界でも同じことです。「仕事ができる人」の定義は、人によって異なります。だからこそ、同じ人でも上司が変われば評価が変わることは珍しくありません。スピードを何より重視する人もいれば、正確さや丁寧さを高く評価する人もいます。また、「自分で考えて動いてほしい」と期待する上司もいれば、「細かく報告・相談してほしい」と考える上司もいます。
このように、人それぞれ価値を置くポイントは違います。だから、相手の評価基準ばかりを気にしていると、振り回されるばかりで、自分らしさまで見失ってしまいかねません。
大切なのは、自分ならではの強みを見つけ、それを磨いていくことです。その強みに価値を感じる人は、きっとあなたを高く評価してくれるでしょう。一方で、そう感じない人がいても、それは決して悪いことではありません。
「これは自分の得意分野だ」と胸を張って言えるものを持っていれば、その力を存分に発揮できる場所にも、いずれ巡り合えるはずです。だから私は、その時々の評価に一喜一憂する必要はないと思っています。
おとなしい人ほど“実は強い”
普段おとなしい人や、弱い立場にいると思われがちな人を軽く見ていると、思わぬ反撃に遭うことがあります。そういう人ほど、いざ覚悟を決めると驚くほど強いものです。
戦争を経験した世代の高齢者の方を見ていると、それを感じることがあります。体は小さくなり、普段は物静かでも、若者が失礼なことをすれば「ぴしゃっ」と叱りつけたりします。相手のほうが体格で勝っていても、人生経験と覚悟が違うから、まったくひるまないのでしょうね。
あなたの周りにも、やたらと威張り散らす「パワハラ人間」がいるかもしれません。でも、そういう人ほど、実は気が小さいことも少なくありません。
「自分に自信がないから、先に威張って相手を押さえつけようとしているだけ」
そう考えてみると、勇気を持って立ち向かえたりするものです。ドラえもんの漫画を見てみましょう。
強さを決めるのは「覚悟の度合い」
ある日、ドラえもんは、のび太にこうこぼしました。
「日曜も祭日も夜も昼も、気の休まる時がない」
のび太のトラブルに毎日のように振り回され、すっかり疲れ切っていたのです。それを聞いたのび太は反省し、こう提案します。
「あすの日曜は、まる一日ドラえもんの休日にしよう‼ ぼくのことなんかスッキリ忘れて、どこかへ遊びにいっておいでよ」
ドラえもんは、何かあればすぐ呼べるひみつ道具「よびつけブザー」をのび太に預け、安心してハイキングへ出かけました。
ところが、その日に限ってトラブルが次々と起こります。最大のピンチは、町の不良少年二人につかまってしまったこと。怖くて震えながらものび太は、「ぜったい使わないぞ‼」と言い、「よびつけブザー」を足で「グシャ」と踏みつぶします。そして覚悟を決めました。
「さあ~、やるならやれ‼」
その一部始終を塀の陰から見ていたジャイアンは、のび太の勇気に心を動かされ、不良少年たちを追い払ってくれました。こうしてのび太は、ドラえもんの休日を邪魔することなく、危機を乗り越えます。
ハイキングから戻ったドラえもんが、「大丈夫だった?」と尋ねると、のび太は何事もなかったように答えました。
「あったりまえさ! 平和な一日だったよ」
『てんとう虫コミックス ドラえもん 第35巻』小学館 第13話目「ドラえもんに休日を‼」
う~ん、かっこいいではありませんか! のび太だって、やるときはやるのです。不良少年たちをやっつけてくれたのはジャイアンであっても、それは、のび太が覚悟を決めたからのこと。
人間の本当の強さを決めるのは、体力や財力ではなく、覚悟の度合いではないかと思うのです。なんだったら、のび太の言葉「さあ~、やるならやれ‼」を紙に書いて、パスケースなどに忍ばせるのはいかがでしょうか? お守りのようなものになるかもしれませんよ。
「自分はダメ」の思い込みが悪循環を生む
ドラえもんは、恋をするとすっかり「ダメダメちゃん」になってしまいます。漫画にはこんなシーンがあります。
ドラえもんは、白いネコに恋をしました。恋わずらいで上の空になり、昼間からゴロゴロ。食欲がないと言いながら、のび太の分まで平らげてしまうほど、すっかり様子がおかしくなっています。
ドラえもんは、ネズミに耳をかじられたことを気にしていました。デートの前には、ボール紙で作ったつけ耳を試してみますが、どうしても気に入りません。
「デブはいやだって。風船みたいな顔は、きらいだって」
そう思い込んでしまい、「ぼくはもう、こわれてしまいたい」と、すっかり落ち込んでしまいます。そこで、のび太は恋のアドバイス役を引き受け、相手を引きつける話し方を教えます。しかし、何度練習してもドラえもんは自信を持てません。
「やっぱりぼくなんか」
そう言って、六本のダイナマイトに火をつけようとするドラえもん。それを止めたのび太は、こう励まします。
「話しなんか、どうでもいいさ。口先よりま心だ。いちばんいけないのは自分なんかだめだと思いこむことだよ。自信を持て! ぼくは世界一だと!」
『てんとう虫コミックス ドラえもん 第7巻』小学館 第5話目「好きでたまらニャい」
苦手なことに向き合うと、自信をなくしてしまうことがあります。ドラえもんはロボットですが、人間と同じように自信を失い、思うように行動できなくなっていました。本来の力を発揮できず、失敗してさらに自信を失ってしまう――。そんな悪循環にはまると、抜け出すのは簡単ではありません。
「自分の評価」を信頼できる人に聞いてみる
では、私たちはなぜ自信をなくしてしまうのでしょうか。
実は、人から否定されたからではなく、自分で「どうせ私なんかダメだ」と思い込んでいるだけの場合が少なくありません。本当に誰かにそう言われたのでしょうか? 自分で勝手に決めつけているだけではないでしょうか?
これは、仕事だけでなく子育てでも同じです。「理想の親像」や「理想の自分」と比べて、「できていない」と思い込み、自信を失っていることはないでしょうか。こうした思い込みは、多くの人に共通するものです。私自身も例外ではありません。だからこそ、自信を失ったときは、まず「思い込みかもしれない」と考えてみることが大切です。
自分の評価を信頼できる人に話してみるのもよいでしょう。
「ええ? そんなことないんじゃない?」
そんな一言で、自分が必要以上に自分を低く評価していたことに気づけるかもしれません。自分を客観視できなくなったときは、周囲の目を借りることも、自信を取り戻す助けになるのです。
