※本稿は、能勢博『30代からの科学的ウオーキング』(時事通信社)の一部を再編集したものです。
「速歩き」後の牛乳が、筋肉を育む
私は、加齢による体力低下を防ぐために、息があがる程度の「ややきついと感じる」速歩きをおすすめしています。この速歩きを3分、ゆっくり歩きを3分。これを交互に繰り返す「インターバル速歩」を、1日15分(1週間で合計60分)を行うことが効果的です。
(参考記事:「1日1万歩」は歩かなくていい…通勤中にできる、ウォーキングに"ちょい足し"するとヨボヨボ化を防げる動作)
そして、この運動を行った後の筋肉のケアに役立つものがあります。それは牛乳をはじめとする乳製品です。
運動をするときは筋肉内のブドウ糖がエネルギー源として使われます。特に、「ややきついと感じる」強度の速歩きではほとんどのエネルギーがブドウ糖を燃焼、分解することで産生されますので、1日15分の速歩きをした後の筋肉はエネルギーを回復させるために血液中からたくさんのブドウ糖を取り込もうとします。
また、「ややきついと感じる」強度の運動をした後の筋肉では、筋線維に軽い損傷が起こっています。これが筋肉痛の主な原因となるのですが、損傷した筋線維を修復するために筋肉は血液中からたくさんのアミノ酸を取り込もうとします。
運動後の筋肉における“不足したブドウ糖の補給”と“損傷した筋線維の修復”という2つの緊急課題を解決するのが、牛乳をはじめとする乳製品です。
飲むなら“運動後30分以内”のゴールデンタイムに
牛乳には乳糖と乳たんぱく質が含まれています。乳糖は糖質の一種であり腸内でブドウ糖に分解されます。乳たんぱく質は筋線維の修復や筋肉の合成に必要なアミノ酸を豊富に含んでいます。
また、糖質をとったときに分泌されるインスリンには、筋肉でのアミノ酸の取り込みや筋肉の合成を促進させる働きがあります。
筋肉は損傷から回復するとき、元に戻るだけではなく、さらに太く強くなります。これを超回復といいます。乳糖と乳たんぱく質を同時にとることで筋肉の超回復が促進されて、筋力向上効果が底上げされるのです。
したがって、私たちは、インターバル速歩の後、30分以内に200~300mL(コップ1~2杯、あるいはパック牛乳1本)の牛乳を飲むことをお勧めしています。
この30分は筋肉でのブドウ糖とアミノ酸の吸収率が高まる“ゴールデンタイム”といわれています。ゴールデンタイムを過ぎると吸収率が徐々に低下していきますので、30分以内、遅くとも1時間以内というタイミングを逃さずに牛乳を飲んでいただければ、筋肉の超回復が亢進し、筋肉痛を予防することもできます。
ヨーグルト・チーズもOK、「出発前」でもいい
牛乳の他にヨーグルトやチーズをとっていただいても効果があります。ただし、チーズは糖質の含有量が牛乳よりも少ないので、クラッカーやパンなどを併せて糖質を補うことをお勧めします。いずれも1回につき糖質35g、乳たんぱく質10gぐらいを目安にとりましょう。インターバル速歩を小分けに行った日は、その日最もたくさん歩いた後にとるようにするといいです。
ただ、「自宅から駅までのコースがインターバル速歩に最適なのだけれど、すぐに電車に乗ってしまうので運動後30分以内に乳製品をとるのは難しい」というケースもあると思います。そういうときは、自宅を出る前に牛乳やチーズ+パン、ヨーグルト+蜂蜜などで乳たんぱく質と糖質をとっておきましょう。
“運動後30分以内”というゴールデンタイムは、“「ややきついと感じる」強度の運動で筋肉内のブドウ糖が消費され始めてからどのくらい経てば、ブドウ糖やアミノ酸が筋肉で吸収されやすくなるのか”という研究を基に設定されています。その研究によると、厳密には「ややきついと感じる」強度の運動をして10分くらい経った頃から、吸収率が高まり始めることが分かっています。
一方、牛乳を飲んでから30分くらい経つと血液中に増加したブドウ糖とアミノ酸の量がピークに達することも分かっています。このピークと筋肉での吸収率が高まっているタイミングが重なれば、効率よくブドウ糖とアミノ酸を取り込ませて、筋肉を回復させることができます。
乳製品で、頭打ちだった筋力が“底上げ”される
単純に考えれば、自宅を出る前に牛乳をはじめとする乳製品で糖質と乳たんぱく質をとっておいて、その20分後から速歩きを始めるようにすると、うまくタイミングが重なるということです。
実際、運動後に乳製品をとることによって、インターバル速歩の筋力向上効果が高まることも科学的に実証されています。
図表1は、インターバル速歩を6カ月以上続けている中高年女性に、さらに5カ月間継続していただき、運動後30分以内にミルクプロテイン(乳たんぱく質7.6g)と糖質サプリメント(糖質32.5g)をとった方々(摂取群)ととらなかった方々(対照群)に分類して膝屈曲筋の変化を比較した試験の結果です。
出典詳細:
Okazaki K,et al.:Effects of macronutrient intake on thigh muscle mass during homebased walking training in middle-aged and older women. Scandinavian journal of medicine & science in sports 23:e286–e292,2013.を基に作成
インターバル速歩の筋力向上効果は5カ月間継続した時点で頭打ちになることが分かっています。それ以上続けてもさらなる向上は期待できないということです。私たちがインターバル速歩の目標を“5カ月間継続すること”に据えているのもそのためです。
実際、摂取群、対照群ともに試験を開始した時点で筋力向上効果は頭打ちになっていましたが、5カ月後、摂取群では膝屈曲筋群断面積が平均3%増加し、膝屈曲筋力は平均16%上昇していました。一方、対照群ではそれらの顕著な上昇は得られませんでした。その結果、摂取群のほうが大きな上昇度となりました。
「3単位」チーズなら54g食べると、さらに筋力アップ
また、図表2はインターバル速歩の後30分以内に乳製品を1単位とった方々(1単位群)、3単位とった方々(3単位群)、とらなかった方々(対照群)に分けて、下肢の筋力の変化を比較した研究の結果です。1単位の量は、チーズ18gもしくはヨーグルト80gです。
出典詳細
Masuki S,et al.:Effects of milk product intake on thigh muscle strength and NFKB gene methylation during home-based interval walking training in older women: a randomized controlled study. PLOS ONE 12:e0176757,2017.を基に作成
図で示すように、5カ月後、下肢の筋力は3単位群で平均8%上昇、1単位群で平均3%上昇し、対照群では向上が見られませんでした。
この研究結果からも、本来は頭打ちになっていたインターバル速歩の効果が、乳製品をとることで底上げされていることが分かります。
インターバル速歩をすでに6カ月間継続している中高年女性にさらに5カ月間継続していただき、運動後に乳製品をとった方々ととらなかった方々の慢性炎症と血液の状態の変化についても比較しました。
図表3は図表2と同じくインターバル速歩後30分以内に乳製品を1単位とった方々(1単位群)、3単位とった方々(3単位群)、とらなかった方々(対照群)に分類して、炎症促進遺伝子の“メチル化”を比較した研究の結果です。
出典詳細
Masuki S,et al.:Effects of milk product intake on thigh muscle strength and NFKB gene methylation during home-based interval walking training in older women: a randomized controlled study. PLOS ONE 12:e0176757,2017.を基に作成
「慢性炎症」を抑える働きもある
メチル化とは、遺伝子の情報が載った塩基配列上にメチル基が結合して遺伝子の情報が読み取られにくくなり、働きが抑制されることをいいます。“遺伝子が錆さびつく”とも言い表せます。この研究では、炎症反応を促進する2つの遺伝子NFKB1とNFKB2のメチル化の程度を調べました。
5カ月後、2つの炎症促進遺伝子のメチル化(炎症反応の抑制)は3単位群で大きく増加しました。
ちなみに、対照群で脱メチル化(炎症反応の活性化)の傾向が見られるのは、参加者がすでに6カ月間インターバル速歩を行ってきて改善効果の向上が頭打ちになっていたことに加えて、5カ月間の季節変動の影響を受けたためだと思われます。
研究が行われた夏から冬にかけては、一般的に、食事量の増加や食事内容の変化によって炎症促進遺伝子の脱メチル化が進みやすくなることが分かっています。むしろ、インターバル速歩を継続していなかった場合はさらに脱メチル化が進んだ可能性もあります。
一方で、インターバル速歩の後に乳製品を多めにとった人たちは、季節変動の影響を受けることなくメチル化が増加しています。この結果により、「ややきついと感じる」強度の運動をした後の乳製品摂取には、慢性炎症反応を抑制する効果があることが明らかになりました。
“血糖値の悪化”を防げる
なぜ乳製品をとることで炎症反応まで抑えられるのかといいますと、筋力が向上することで筋肉内のミトコンドリアの劣化を防ぎ、全身の組織を傷つける活性酸素が排出されないようにするからです。つまり、サルコペニアによって引き起こされる加齢性疾患の予防効果がより高まるということになります。
運動後の乳製品摂取は、血液の状態にも影響を与えます。図表4はインターバル速歩を6カ月以上続けている中高年女性に、さらに5カ月間継続していただき、運動後30分以内に乳製品をとった方々(摂取群)ととらなかった方々(対照群)に分けてヘモグロビンA1c、血漿量、血漿アルブミン量の変化を比較した研究の結果です。
出典詳細
Uchida K,et al.:Interval walking training and nutritional intake to increase plasma volume in elderly.Medicine and science in sports and exercise 50:151-158,2018.を基に作成
糖尿病の指標であるヘモグロビンA1cが対照群で上昇したのは、図表3のところで解説した季節変動の影響(食事の量や内容などの変化)とそれによる脱メチル化が原因だと考えられます。一方、摂取群では、インターバル速歩に乳製品を組み合わせて筋力を向上させたことで季節変動の影響を受けず、血糖コントロールの悪化を防ぐことができたのだと考えられます。
酸素を運ぶ力が高まり、持久力が向上する
また、摂取群では対照群に比べて血漿量と血漿アルブミン量の減少が抑制されました。
血漿はブドウ糖やたんぱく質、脂質などを含んだ血液の液体成分で、血漿アルブミンは肝臓でアミノ酸を材料にして合成されたアルブミンというたんぱく質が血液中に放出されたものです。
アルブミンには血管内に水分を留める働きがあり、血漿アルブミン量が増えると血漿量も増加します。血漿量が増えると、1分間に心臓から全身へ送り出される血液の量(心拍出量)、すなわち、血液によって運搬される酸素の量が増加します。
「ややきついと感じる」強度の運動を行った直後は肝臓でのアルブミンの合成が活性化しますが、このタイミングでその材料となるアミノ酸を取り込むことでさらにアルブミン合成が促進され血漿アルブミン量と血漿量が増えて、筋肉を含む全身の組織への酸素供給量が向上するのです。
つまり、インターバル速歩後の乳製品摂取には、筋肉への酸素供給量を増やして持久力を向上させる効果もあるのです。
(参考文献)
・「歩き方を変える」だけで10歳若返る、能勢博 著、主婦と生活社、2013年
・ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方、能勢博 著、講談社ブルーバックス、2019年
・健康寿命が10歳延びる「筋トレ」ウォーキング 決定版、能勢博 著、青春出版社、2020年
・Nose H. et al. : Beyond epidemiology: field studies and the physiology laboratory as the whole world. Journal of Physiology 587:5569-5575, 2009.
・Morikawa M, et al. : Physical fitness and indices of lifestyle-related diseases before and after interval walking training in middle-aged and older males and females. British Journal of Sports Medicine 45: 216-224, 2011.
・Masuki S, et al. : High-Intensity Walking Time Is a Key Determinant to Increase Physical Fitness and Improve Health Outcomes After Interval Walking Training in Middle-Aged and Older People. Mayo Clinic Proceedings 94: 2415-2426, 2019.
・Masuki S, et al. : Internet of Things (IoT) System and Field Sensors for Exercise Intensity Measurements. Comprehensive Physiology 10: 1207-1240,2020.
・Ivy JL, Katz AL, Cutler CL, Sherman WM, Coyle EF. Muscle glycogen synthesis after exercise: effect of time of carbohydrate ingestion. J Appl Physiol. 1988;64(4):1480-1485.
・Tipton KD, Rasmussen BB, Miller SL, et al. Timing of amino acid-carbohydrate ingestion alters anabolic response of muscle to resistance exercise. Am J Physiol. 1999;276:E628-E634.
