※本稿は、能勢博『30代からの科学的ウオーキング』(時事通信社)の一部を再編集したものです。
「体力向上のための1日1万歩」は割に合わない
健康増進のための運動目標として“1日1万歩”ということがよく言われています。
松本市熟年体育大学の事業に取り組み始めた私たちは、1日1万歩の効果を検証するために、40歳以上の松本市民100人に1日1万歩を目標に歩くことを1年間続けていただきました。このプログラムに参加した方々には歩数計を配布し、各自で歩行記録をつけていただき、そのデータの集計と分析を行いました。その結果、参加者全体の3分の1が1日1万歩をほぼ毎日1年間行ってくださいました。
そして、この事業を3年間続けますと、1日1万歩を1年間完遂できた方が約100人集まりました。それらの方々を対象に参加前と参加後の体力の変化を検証しました。すると、驚くべきことに、血圧には多少の改善が見られましたが、体力にはほとんど向上が見られなかったという結果になりました。
私はその原因を探るため、国内外のさまざまな文献や論文を調べました。そして、その原因が参加者の歩く速さ(強度)にあるのではないかという考えに行きつきました。
米国スポーツ医学会のガイドラインでは、体力向上や生活習慣病予防のためには「ややきついと感じる」運動を1日20分以上、週に3日以上で合計60〜90分行い、これを6カ月間継続して実施することが推奨されています。これにより体力が10%向上するということです。
歩行量ではなく「質」が大事である
「ややきついと感じる」運動とは、最高酸素消費量の60~70%程度の強さで行う運動のことを指しています。持続的な運動を行うときは筋肉の細胞のミトコンドリアで酸素が消費されてエネルギー源となるアデノシン三リン酸(ATP)が産生されます。しかし、強度が高い運動では酸素の供給が追いつかなくなり、酸素を使わずブドウ糖を分解する解糖系によってエネルギーを生み出すようになります。この切り替えが生じる強度の目安が、最高酸素消費量の60~70%です。
米国スポーツ医学会のガイドラインによれば、1日1万歩を目標とした歩行の強度は最高酸素消費量の40%程度ということでした。体力の向上を目的にした場合、歩数という歩行の“量”に重点を置いた1日1万歩は、努力した割に報われない歩行法であると言えます。
では、体力向上のためには、どのような歩き方をすればいいのでしょうか。私たちがたどりついたのが、量ではなく「質」を重視した歩行法「インターバル速歩」です。ずっと速く歩き続けることは困難ですが、ゆっくり歩くことを挟みながら続ければ、無理なく高い運動効果が得られます。
「2~3分続けると息があがる」くらいのスピードで
加齢性筋量減少症(サルコペニア)に負けないように筋肉を鍛えるためには、最大体力の6~7割に当たる「ややきついと感じる」強度の運動を継続して行う必要があります。
歩行でこの強度を目指すのであれば、“2~3分続けていると胸がドキドキして息が上がり、短い会話は可能でも長く話すことはできなくなってくる”くらいのスピードで歩くことになります。
このスピードの速歩きを1週間合計60分以上行いましょう、それを無理なく5カ月間続けられるように小分けに行って生活の中で習慣化してしまいましょう、というのが私たちの推奨するインターバル速歩です。
速歩きの時間もゆっくり歩きの時間も、1日に行う回数も、ライフスタイルに合わせて自由に決めていただくことができます。
しかし、初めてインターバル速歩を行うときは、基本的に“ゆっくり歩き3分+速歩き3分”を1セットとして1日5セットから始めていただくことをお勧めします。
5セットを連続して行う必要はなく、朝1セット、昼2セット、夕2セットなど分けて行っていただいて問題ありません。最初のうちにこのセットで歩くことをお勧めする理由は、自分にとって「ややきついと感じる」強度の運動にするためにはどのくらいのスピードで歩けばいいのかをしっかり体得しておくことが、インターバル速歩を継続しやすくするポイントになるからです。
心拍数があがるのは1~2分後から
自分自身で「ややきついと感じる」強度を確認する指標としてはRPEと心拍数があります。RPEとは運動をしている本人の主観、すなわち、自分自身がどのくらい“きつい”と感じているかということを基準にして、最大体力の何割程度の負荷がかかっているかを測るものです(図表1)。
スマートウオッチなど心拍数を測定できる機器があれば、歩きながら心拍数の変化を見ると分かりやすいです。個人の最大心拍数は220-年齢で推定することができますから、その6~7割を目標にすればいいです。一方、基本的に心拍数が上がればRPEのポイントも上がりますので、RPEのほうを指標にしていただいても全く問題ありません。
ここで気を付けなければいけないのは、「ややきついと感じる」強度の速歩きは始めてもすぐには心拍数が上がってこないということです。無論、運動開始直後から心拍数が上がり始めますが、それが強度に相当するレベルに達するのは1~2分経過してからになります。
速歩きを始めた直後は心拍数が十分上がらずRPEも低く感じるため、「強度が足りないのかもしれない」とさらにスピードを上げてしまった結果、過度な負荷がかかり、2分も経たないうちに続けるのがしんどくなった、ということも起こり得ます。
「ゆっくり歩き3分+速歩き3分」背筋を伸ばして
したがって、最初のうちは“ゆっくり歩き3分+速歩き3分”を1セットとして行い、速歩きでは3分経過する頃に心拍数やRPEが目標に達するスピードで歩くことを目指していただければと思います。一度そのスピードを体得してしまえば、日常生活の中で場所や時間を選ばずにインターバル速歩を実践しやすくなります。
また、速歩きの後に行うゆっくり歩きは、続けて速歩きを行うための休憩時間、またはインターバル速歩を締めくくるクールダウンタイムとお考えください。時間が限られているときは、“速歩き3分”のみで1セットを終えていただいても構いません。
インターバル速歩の速歩きのフォームには3つのポイントがあります。
【1.背筋を伸ばす】
フェイスタオルの両端を両手で握って引っ張り、頭の後ろから首の後ろまで下ろしていくと、肩が開いて胸がグッと張り、背筋もグッと伸びると思います。その姿勢のままタオルを離して両手を下ろしてみてください。それが上半身の基本姿勢です。
また、顔は正面に向けて、前方25mくらい先の地面を見るように視線をやや斜め下へ向けます。そうすると自然と背筋がまっすぐ伸びて、前方への体重移動がスムーズになり速く歩きやすくなります。
大股歩き「女性は+3cm」「男性は+5cm」
【2.大股で歩き踵(かかと)から着地する】
速歩きのときに大股で歩くことを意識するのが最も大切なポイントです。普段の歩き方よりも歩幅を大きく、女性ならばプラス約3cm、男性ならプラス約5cmを目安にしましょう。
大股で歩くことで、全身の筋肉量の60%に相当するお尻からふくらはぎに至る大きな筋肉群が動かされることになり、下半身の筋肉の代謝が上がって多くのブドウ糖や脂肪酸が燃焼されますし、全身に与える影響が大きくなります。
慣れないうちは“大股で!”と意識しすぎるとテンポが狂って歩きにくくなるかもしれません。そういうときは、頭の中で“1、2、3”とカウントしながら1歩目、2歩目は普通に歩き、3歩目を前へ大きく踏み出すことを心掛けてみてください。
例えば、右足から歩き始めたときは、“1”で右足を前に、“2”で左足を前に、“3”で右足を大きく踏み出します。そのまま今度は“1”で左足を前に、“2”で右足を前に、“3”で左足を大きく踏み出し……と交互に続けていきましょう。そうやって“普段の歩幅のプラス5cm(女性ならプラス3cm)”の感覚を掴めたら、1歩目、2歩目も大股で歩くようにしてみましょう。
また、前に出した足を踵から着地させることを意識すると、大股で歩きやすくなります。よく、「その歩き方では踵を傷めませんか?」という質問を受けることがありますが、踵を傷めてしまうのは重心が後ろに残ってしまっているからです。そういうときは、後ろの足の指でしっかり地面を蹴ることを意識しましょう。そうすれば体がグンと押し出されて重心がスムーズに前へ移動して、踵を傷めることなく着地することができます。
さらに、踵から着地するとつま先が上がりますので、速歩きのときに起こりやすくなる躓きや転倒の予防になりますし、脛の筋肉も鍛えることができます。
両腕を大きく振って
【3.腕を前後に大きく振る】
速歩きのときの両腕は、肘を直角に曲げて大きく振りましょう。腕を体の横に下ろしたまま大股で歩くと腰が左右に回転してまっすぐ歩きにくくなってしまいます。左足を前に出すときは右腕を前に出す、右足を前に出すときは左腕を前に出す、ということを繰り返せば、腰の回転が止まって歩行が安定します。腕を大きく振るほど大股で歩きやすくなります。ゆっくり歩きのときは普通に歩いていただければOKです。
歩幅や腕の振り方も特に気を付けることはありません。
ちなみに、インターバル速歩を行うときの服装は、わざわざスポーツウェアに着替えたりウオーキングシューズを履いたりしなくても問題ありません。大股で歩ける服、底が柔らかくて曲がりやすく踵にクッション性のある靴、腕を振りやすいように両手を空けられる鞄(斜め掛けのバッグやリュックサックなど)があれば十分です。
忙しくて歩くためにまとまった時間を確保しにくい日でも、通勤や買い物、ちょっとした外出の際にこのような歩きやすい格好をしておけば、あらかじめ時間や場所を決めることなく好きなタイミングで好きなようにインターバル速歩を行うことができます。
(参考文献)
・「歩き方を変える」だけで10歳若返る、能勢博 著、主婦と生活社、2013年
・ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方、能勢博 著、講談社ブルーバックス、2019年
・健康寿命が10歳延びる「筋トレ」ウォーキング 決定版、能勢博 著、青春出版社、2020年
・Nose H. et al. : Beyond epidemiology: field studies and the physiology laboratory as the whole world. Journal of Physiology 587:5569-5575, 2009.
・Morikawa M, et al. : Physical fitness and indices of lifestyle-related diseases before and after interval walking training in middle-aged and older males and females. British Journal of Sports Medicine 45: 216-224, 2011.
・Masuki S, et al. : High-Intensity Walking Time Is a Key Determinant to Increase Physical Fitness and Improve Health Outcomes After Interval Walking Training in Middle-Aged and Older People. Mayo Clinic Proceedings 94: 2415-2426, 2019.
・Masuki S, et al. : Internet of Things (IoT) System and Field Sensors for Exercise Intensity Measurements. Comprehensive Physiology 10: 1207-1240,2020.
・ACSM’s Guidelines for Exercise Testing and Prescription, 11th edition,Wolters Kluwer, Philadelphia, PA, pp142-166, 2022.
