※本稿は、安保雅博『歩幅を見れば、寿命がわかる 「死ぬまで歩ける体」のつくり方』(アスコム)の一部を再編集したものです。
転倒が“寝たきり老人”の原因になる
高齢者が要介護や寝たきりになる原因として、見逃せないのが「転倒」です。
「ちょっとつまずいただけ」
「段差でバランスを崩しただけ」
そんな何気ない転倒が骨折などのケガにつながり、そのまま寝たきりになってしまうケースは少なくありません。
そして、転倒は決して偶然起きるものではありません。背景には、加齢とともに進行する“体のヨボヨボ化”があります。若い頃は問題なく歩けていた人でも、年齢を重ねるにつれて足がしっかり上がらなくなり、歩幅の狭い、転びやすい歩き方になっていきます。
高齢者の転倒に深く関係している体の問題は、次の3つです。
①筋力の低下
②柔軟力の低下
③バランス力の低下
①筋力の低下で特に衰えやすいのが、
・肩まわり(肩甲骨周囲筋)
・背中(脊柱起立筋)
・お尻(殿筋)
・太もも(大腿四頭筋)
です。
「不運な事故」ではなく「老化の結果」
とくに、背筋の衰えは、全身に大きな影響を与えます。背筋が弱る→体をまっすぐ保てなくなる→腕の重みが前方にかかる→頭の重さを支えられず、肩も前に倒れていくという流れで、重心が崩れて不安定になり、転びやすい状態になってしまうのです。
②の柔軟力が低下すると、筋肉や腱、靭帯などが少しずつ硬くなり、関節の可動域がどんどん狭くなっていきます。その結果、歩く動作そのものが小さくなる「ちょこちょこ歩き」の人が増えていきます。
③バランス能力は、平衡機能や筋力・姿勢・関節の動く範囲(可動域)・反応の速さ(反射神経)・判断力や注意力などの認知機能という総合的な要素で成り立っています。これらが少しずつ衰えてしまうことにより、若い人ならふらついても踏ん張れるような場面でも、そのまま転倒してしまうのです。
転倒は単なる不運な事故ではなく、筋力低下→柔軟性低下→バランス能力低下という流れで起こる、いわば「老化現象の結果」なのです。
そして転倒による骨折は、その後の人生を大きく変えてしまいます。入院をきっかけに歩かなくなり、筋肉が減り、さらに転びやすくなる。こうして要介護状態へ進むケースは少なくありません。
高齢者の5人に1人が「やせすぎ」
老化による転倒をできるだけ遠ざけるために、忘れてはいけない大切な要素が「食事」です。体の機能や能力が目に見えて低下し始める50代以降は、老いや病気に負けない「体の基盤」をつくることが重要です。
そのために欠かせないのが、食事に対する意識の見直しです。医療や介護の現場において、転倒や骨折で運ばれてくる高齢者の多くは、筋肉量が落ちた「やせすぎ(低栄養傾向)」の状態にあります。
BMI(Body Mass Index)という、全身の体格を表す指標があります。
これは、「体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)」という計算をすることで、自分の体の状態がかんたんにわかるものです。たとえば、身長155cm・体重44kgの人の場合、「44÷1.55÷ 1.55 =18.3」となります。
現在の基準では、以下のように分類されています。
●18.5以上25.0未満:標準体重
●25.0以上:肥満
このBMIを基にした厚生労働省の調査でも、高齢者の約5人に1人(約20%)が低栄養傾向=やせすぎであると警鐘が鳴らされています。筋肉や脂肪が不足し、低栄養が心配される人が多いのが現状なのです。そしてそれは、転倒リスク増加の要因にもなります。
粗食で短命に…たんぱく質の積極的な摂取を
そのため、高齢の方にまず意識していただきたいのは、「しっかり食べること」です。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版および2025年版)」によると、65歳以上の高齢者の目標BMIは、フレイル(加齢に伴い心身が老い、衰えた状態)予防の観点から21.5~24.9とされています。身長が150cmの方なら48~56kg、160cmの方なら55~63kgです。
目標値に足りない方は、目標体重を定めて、体重あたり30~40kcalをしっかり食べるようにしましょう。「粗食は寿命を縮める」と思ってください。
食事をする際に気をつけていただきたいのは、食べて血糖値が上がるのを怖がらないことです。年齢を重ねると、血糖値を下げすぎることのほうが危険です。少し多めに糖分を摂ったとしても、筋肉をつければ血糖値は下がります。低血糖を避けて、元気に動くことを最優先してください。
食事内容で、もうひとつ意識していただきたいのが、たんぱく質を積極的に摂ることです。せっかく運動をしても、食事から必要な栄養を摂取できなければ、筋肉は十分につきません。筋肉量を増やし、筋力を高めるためには、たんぱく質の摂取が欠かせません。
特に、現在やせている方は、たんぱく質が不足すると筋肉がつかないだけでなく、貧血を起こす可能性もあります。意識して、毎日の食事に取り入れるようにしましょう。
おすすめは「鶏のささみ・もも」、豚や牛の「肩ロース」
たんぱく質は、肉類・魚介類・卵・大豆製品・乳製品などに多く含まれています。1日の目安量は、体重1kgあたり1~1.5g。たとえば体重60kgの方なら、1日に60~90gが目安になります。
下記の図表1は主な食品に含まれるたんぱく質量をまとめたものです。まぐろであれば赤身、鶏肉であればささみやももの部位に、たんぱく質が多く含まれているので、食品を選ぶ際には、たんぱく質量を基準に食事に取り入れていけると良いでしょう。
ただし、たんぱく質が多く含まれる食品を食べすぎると、総摂取カロリーが増えてしまうので、1日の食事全体のカロリーを意識しながら、バランスよく取り入れることが大切です。
ここで、私が特におすすめしたい食品は「肉」です。「年を取ってからは、肉より魚を好んで食べている」という方は多いでしょう。しかし実は、年を重ねた今こそ、肉を積極的に食べていただきたいのです。
肉には、筋肉の材料となるたんぱく質だけでなく、鉄分やビタミンB群、脂肪分など、体づくりに欠かせない栄養素がまとめて含まれています。効率よく栄養を摂取できる、非常に優れた食材と言えるでしょう。
先ほども述べましたが、鶏肉のささみやもも、豚肉や牛肉の肩ロースなど、たんぱく質が多く含まれる部位を選んで食べることがおすすめです。
「主食・おかず・副菜=3:1:2」が理想的
実際の食卓では、次のような食材の役割分担を意識すると、バランスのよい食事になります。
・主食(ご飯・パン・麺類など):炭水化物
・メインのおかず(肉・魚介類・大豆製品など):たんぱく質
・副菜(野菜・海藻・果物など):ビタミン・ミネラル
そして、「主食(炭水化物)を3:メインのおかず(たんぱく質)を1:副菜(ビタミン・ミネラル)を2」の割合を目安にできれば、理想的なバランスの取れた食事内容になります。
たんぱく質だけでなく、体のエネルギー源となる炭水化物、体の調子を整えるビタミン・ミネラルも欠かせません。これらの栄養素がそろうことで、筋肉もよりよい状態に保たれていきます。
「食が細くなって、そんなに量が食べられない」という方は、無理に一度の食事量を増やす必要はありません。1日3食にこだわらず、たとえば6食くらいに分けて少しずつ食べるといった工夫をしてもよいでしょう。
「しっかり食べて、しっかり動く」というシンプルな習慣を続けることが、健康長寿の体をつくる第一歩になります。
(参考文献)
・厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版および2025年版)」
・厚生労働省「令和6年 国民健康・栄養調査結果の概要」
・安保雅博、中山恭秀『寝たきり老後がイヤなら 毎日とにかく歩きなさい!』(すばる舎)
・安保雅博、中山恭秀『何歳からでも 丸まった背中が2ヵ月で伸びる!』(すばる舎)
・安保雅博、中山恭秀『家でも外でも転ばない体を2ヵ月でつくる!』(すばる舎)
