健康で長生きするには、どうすればいいのか。東京慈恵会医科大学の松藤千弥学長は「体内のポリアミンという物質が減ると、細胞の老化が進むことがわかっている。進行すると、体の老いに繋がる。ポリアミンを豊富に摂り入れるには、食材や調理法を適切に選ぶことが重要だ」という――。

※本稿は、松藤千弥『あなたの中でいつの間にか進んでいる「老い」に負けない食事術』(アスコム)の一部を再編集したものです。

肉のパックを持つ女性の手
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「ポリアミン不足」で細胞の老化が進む

健康のために、食事に気をつけたり、運動をしたり、生活習慣の改善をしようと努力したりしている方も多いと思います。それらは確かに大切です。しかし、それに加えて体の中で進んでいる「細胞の老化」そのものに目を向けることが「老いに負けない」ための重要な戦略になります。そして、その「細胞の老化」を左右する鍵となる物質こそが「ポリアミン」なのです。

ポリアミンという名前を、聞いたことがないという人も多いことでしょう。でも、ポリアミンは、生まれたときからあなたの体にある、実はとても身近な物質です。

ポリアミンは細胞の中に存在し、細胞が正常にはたらくために不可欠であることが明らかにされてきました。また、人間や動物を対象にした多くの研究で、年齢とともに体内のポリアミン濃度が減少していくことが報告されています。

こうした研究結果から、体内のポリアミンが減ってしまうと細胞が本来のはたらきを保ちにくくなり、そのことが「体の老い」につながる可能性があると考えられています。言い換えると、加齢や生活習慣の乱れによって細胞内のポリアミンが減少すると、細胞は自分の役割を十分に果たせなくなり、老化が進みやすくなる、ということです。

ポリアミンを“多く含む食材”の一覧

ポリアミンの研究に携わる立場から見ると、細胞の中でポリアミンをつくる能力が低下することが、「老いの始まり」のひとつととらえることもできます。体の老化にはさまざまな要因がありますが、ポリアミンの減少はその中でも注目すべき要因なのです。

そして実際には、加齢や生活習慣などで細胞の元気がなくなるとポリアミンが減り、ポリアミンが減ることで、さらに「細胞の老化」が進むという悪循環が起こっていると考えられています。

では、どんな食品にポリアミンが多く含まれているのでしょうか。西村和洋さん、五十嵐一衛さんらが所属していた千葉大学の研究グループは、日本で市販されているさまざまな食品のポリアミン含量を測定し、報告(※1)しています。

ここでは、その結果をもとに、ポリアミンを多く含む主な食材を、食品のカテゴリーごとに示します。

●穀類:小麦胚芽、胚芽米、黒米、トウモロコシ
●野菜:ピーマン、カボチャ、モロヘイヤ、ブロッコリー、ルッコラ、トマト、オクラ、ネギ、ダイコンの葉
●豆類:大豆、黒豆、納豆
●ナッツ類:ピスタチオ、マツの実
●キノコ類:シメジ、エリンギ、マイタケ、シイタケ、ナメコ、マツタケ
●乳製品:ブルーチーズ、ゴルゴンゾーラチーズ
●魚介類:ワカサギ、タラの卵(タラコ)、ウナギの肝、サザエ(内臓含む)、ツブ貝(内臓含む)、シジミ、イクラ、タラの白子
●肉類:レバー(鶏・豚・牛)、牛の腸、鶏の心臓、砂肝
●フルーツ類:オレンジ、グレープフルーツ、ライム、マンゴー、ドリアン
●調味料:魚醤ぎょしょう、オイスターソース、味噌、しょう油
●飲み物:甘酒

「豆類」「キノコ類」が特に豊富

カテゴリー全体として特にポリアミンが豊富なのは、豆類とキノコ類です。

豆類は、豆そのものを食べることが重要です。豆腐や豆乳などの加工食品では、製造過程で含有量が減少することがわかっています。

キノコ類は、私たちが日常的に食べている多くの種類に豊富に含まれているので、好みのキノコをふだんの食事に取り入れるといいでしょう。

野菜や果物については、ポリアミンを多く含むものと、あまり含まないものがあります。そのため、前に示したリストから毎日1種類は意識して食べるというのがおすすめです。

興味深いことに、ピーマンは完熟した赤より、未熟な緑のほうがポリアミンが多いという報告があります。同じ野菜でも、種を実らすためにポリアミンをたくさんつくっている若い実と、熟してポリアミンがあまり必要ではなくなった実とでは、違いがあるのです。

このことから、旬の季節野菜であっても、若い実や葉、つぼみを食べるタイプの野菜のほうが、ポリアミンを多く含んでいる可能性が高いと考えられます。

肉類なら「鶏レバー」が高濃度

野菜の鮮度とポリアミン含量の関係については、いくつかの研究結果が報告されていますが、保存によってポリアミンが増える場合も、減る場合もあって、一概にはいえません。これは、収穫後も野菜の細胞が生きており、温度や保存条件によって代謝の状態が変化するためと考えられています。

たとえばブロッコリーでは、低温で保存するとストレス反応としてプトレッシンが増える一方、常温ではスペルミジンが大きく減りやすいことが報告されています。

このように変化の方向は一定ではないため、野菜の鮮度だけに神経質になる必要はありません。むしろ、日常的に野菜を十分にとることの方が重要だといえるでしょう。

肉類では、臓物系が目立ってポリアミンを多く含みます。牛・豚・鶏の切り身として、広く食される筋肉は、あまりポリアミンが多くありません。これに比べて、肝臓、小腸、大腸などの臓器は、タンパク質合成や、細胞の入れ替わりが活発であるため、ポリアミンを多く含む傾向があるのです。

鶏レバー
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肉類では、臓物系が目立ってポリアミンを多く含む。特にレバー(肝臓)のポリアミン含有量は高く、鶏レバーがもっとも高濃度と報告されている。豚レバー、牛レバーにもたくさん含まれる。(※写真はイメージです)

特にレバー(肝臓)のポリアミン含有量は高く、鶏レバーがもっとも高濃度と報告されていますが、豚レバー、牛レバーにもたくさん含まれます。また、鶏の心臓や砂肝もたくさん含まれているので、それらを手軽に食べられる焼き鳥はポリアミンの摂取に適した食事といえます。

貝類、ちりめんじゃこ、ブルーチーズもおすすめ

魚類は種類により違いはありますが、魚の筋肉である切り身にはポリアミンはあまり多く含まれていません。これも肉類と同じ理由で、筋肉中の含有量があまり多くないためです。 

一方、貝類はおすすめです。シジミやアサリのように、小さくて丸ごと食べるものは、内臓系も一緒に食べるのでポリアミンがたくさんとれます。同じ理由で、ちりめんじゃこのように内臓も丸ごと食べられる小魚は、よい供給源になると考えられます。

発酵食品は少し注意が必要です。全体的な傾向としては発酵微生物が産生するポリアミンにより、ポリアミン濃度が高いものが多いですが、ケース・バイ・ケースです。たとえばチーズでは、カマンベールなどの熟成度が低いものはポリアミン量が比較的少なく、ブルーチーズなどの熟成度が高いものは非常に高濃度と報告されています。

納豆の場合は少し事情が異なります。発酵過程で納豆菌によってポリアミンが消費される可能性があり、発酵後の納豆よりも大豆そのもののほうが多くポリアミンを含んでいるという報告があります。

納豆
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とはいえ、大豆は調理しないと食べにくい食材です。手軽に食べるという点では、納豆は使い勝手がよく、多くのポリアミンをとることができます。ぬか漬けやしば漬けにもポリアミンが多く含まれています。発酵させないタイプの漬物類は野菜由来のものしか含まれておりません。

カップ麺、スナック菓子、清涼飲料は×

反対に、ポリアミンがあまり含まれていない食材も紹介しておきます。インスタント食品や菓子類といった加工食品です。

たとえば、カップラーメンやスナック菓子はほとんど含まれていません。炭酸飲料を含む清涼飲料にも入っていません。

白米や小麦粉(精白小麦粉)にもほとんど含まれていません。ただし、胚芽米や玄米、全粒小麦(全粒粉)にはポリアミンがしっかり含まれています。

これは当然といえば当然です。ポリアミンは細胞が増えるときに必要な物質であるため、生命活動に重要な胚の部分にたくさん含まれます。ところが、精米や製粉によってその部分が取り除かれると、残った白米や小麦粉にはほとんどポリアミンが含まれなくなります。

卵類や牛乳には、残念ながらポリアミンはあまり含まれていません。ですが、これらは良質なタンパク質やビタミン類が豊富な優れた食品です。タンパク質からはポリアミンの原料となるアミノ酸が生じるので、間接的に体内のポリアミン産生を支える食品といえます。

酒にはあまり含まれず、おつまみで工夫を

飲み物でいえば、コーヒー、紅茶、緑茶にもほとんど含まれていません。ただ、緑茶の葉はポリアミンが豊富で、抹茶は高ポリアミン飲料といえます。

酒類は発酵によってつくられますが、あまりポリアミンは含まれていないことがわかっています。ビールには一定レベルのポリアミンが含まれています。しかし、その他のお酒に関してみると、ワインにはわずかにポリアミンが含まれるものの、日本酒や蒸留酒である焼酎やウイスキーなどにはほとんど含まれていません。

お酒からポリアミンをたくさんとることは、期待しないほうがいいですが、日本酒には腸内細菌がポリアミンをつくる原料となるアグマチンはたくさん含まれています。

その代わり、酒の肴で高ポリアミン食材を選ぶ工夫はできます。焼き鳥屋で臓器系の串を選ぶなど、先ほど紹介した高ポリアミン食材を意識することが、いつまでもお酒を楽しめる秘訣といえるでしょう。

なお、日本酒をしぼった残り物である酒粕さけかすにはポリアミンの仲間が多く含まれていることが知られています。

全体を見渡すと、一般的に「体にいい」とされている食材にポリアミンが多く含まれていることがわかります。「ポリケア習慣」を心がけることは、結果として体にいいものをたくさん食べることにつながっていくのです。

注意点「ゆで汁や絞り汁も一緒に食べて」

では、こうした高ポリアミン食材をどのように食べればいいのか、そのコツをお伝えします。

ポリアミンは比較的熱に強い物質です。熱に弱いことで知られているビタミンCやビタミンB群と大きく異なります。そのため、焼く、煮る、炒める、蒸すなど、基本的にはどのような調理法でも大きく減ることはありません。

野菜や果物については、「生のほうが多くとれそう」と感じるかもしれませんが、実際には加熱しても含有量は大きく変わらないと考えられています。

ただし注意したいのは、ポリアミンが水に溶けやすい性質を持っていることです。大量の水で長時間ゆでた後、そのゆで汁を捨ててしまうと、大部分のポリアミンも失われてしまいます。

ポリアミンは細胞内に存在するため、細かく刻んだり、すりおろしたりして細胞の膜を壊すと、流出しやすくなります。日本料理で使われる「下ゆで」や「ゆでこぼし」、すりおろして絞り汁を捨てるような調理法は、ポリアミンを多くとるためには適していません。

ポリアミンをなるべく多くとるには、ゆでるよりも、煮て汁ごと食べること、あるいは蒸す、焼く、炒めるといった調理法が有効です。ゆで汁や絞り汁を料理に利用するのもいい方法です。このように、加熱によって壊れることを過度に心配して調理法を制限する必要はありません。無理なく続けられることこそが「ポリケア習慣」の大切なポイントです。

「日本食」ならポリアミンを摂りやすい

先ほどの「ポリアミンの多い食材」のリストをもう一度見てみましょう。何か特徴に気づかれるでしょうか。

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松藤千弥『あなたの中でいつの間にか進んでいる「老い」に負けない食事術』(アスコム)

大豆や納豆に加え、味噌やしょう油といった日本の食卓に欠かせない大豆発酵食品が多く含まれています。味噌汁の具となるキノコ類や、煮物の主役となるカボチャなども高ポリアミン食材です。つまり、日本食はポリアミンを自然にとりやすい食事だといえるのです。

「ふだんはパンと牛乳」「ステーキが大好き」という方も、ときどき和食を取り入れてみてはいかがでしょうか。日本は長寿国として知られており、その背景として日本食の影響が大きいと考えられています。

私は、日本食でポリアミンを無理なく摂取できることがその一因ではないかと考えています。もしそうだとすれば、とても興味深く、食べ慣れた食事でいいということは、私たちにとって心強いことだと思います。

なお、日本食と同じように健康的な食事として知られる「地中海式食事」も、豆類や魚介類が多く、加工食品や赤身肉が比較的少ないという特徴を持っています。前出の早田邦康さんの報告(※2)によれば、地中海式食事をとる人はポリアミンの摂取量が多く、それが健康長寿に関係している可能性が示されています。

「1日どこかで1品」でいい

食事でとったポリアミンは小腸でほぼ吸収され、全身の細胞で利用されます。体内で消費されるため、食事から日常的に取り入れることが望ましいと考えられます。

とはいえ、高ポリアミン食を完璧に続けようとすると、負担に感じてしまい、かえって続きにくくなることがあります。3食すべてを高ポリアミン食にする必要はないのです。

おすすめなのは、1日のどこかで、1品だけでも高ポリアミンの食材を取り入れるという方法です。

たとえば、

・朝食でオレンジを1個食べる
・昼食のレストランでブロッコリー入りのサラダを選ぶ
・夕食に豆料理のお惣菜を1品加える
・焼肉に行ったらレバーをひと皿頼んでみる

これくらいの気軽さで十分です。

「1日どこかで1品」という目標ならば、無理なく続けられそうだと思いませんか。それこそが、「ポリケア習慣」を長く続けるためのコツなのです。

(参考文献)

(※1)食品のポリアミン含量
Nishimura K et al., Decrease in polyamines with aging and their ingestion from food and drink. Journal of Biochemistry 139: 81–90, 2006

(※2)地中海式食事をとる人はポリアミンの摂取量が多い
Binh PNT et al., Mediterranean diet and polyamine intake: possible contribution of increased polyamine intake to inhibition of age-associated disease. Nutrition and Dietary Supplements 3: 1–7, 2011