集中力を高めるには、どうすればいいのか。サイエンスジャーナリストの鈴木祐さんは「複数の研究論文を読み解くと、やはりカフェインは非常に優れている。ただ、脳への作用が強く、取り扱いには注意が必要だ。最大の効果を得るには、正しい摂り方がある」という――。

※本稿は、鈴木祐『人生を変える科学的な集中術』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

コーヒーカップに触れる男の手
写真=iStock.com/kohei_hara
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カフェイン摂取で“勝率アップ”の事例

本稿では、集中力アップのためのより手軽なテクニックとして、カフェインの効果から見ていきます。世に「脳に効く」と喧伝されるサプリメントは多いものの、現実にはカフェインほど効果が立証された成分はありません。

たとえば、合法的に集中力を上げられる「スマートドラッグ」として流行したピラセタムには思い込み程度の効果しか認められていませんし、日本で人気が高いイチョウ葉エキスも軽度の認知症を除いては意味がなく、一般人が集中力アップのために飲むメリットはゼロです(※1)

が、カフェインだけは違います。そのメリットは複数の研究で確認されており、科学界におけるコンセンサスは次のようなものです(※2)

・150~200mgのカフェインを飲むと約30分で疲労感がやわらぎ、注意力の持続時間が向上する
・カフェインの集中力アップ効果は、ベースラインから5%前後だと思われる

細かい数値に違いはあれど、基本的には缶コーヒー1本分のカフェインを摂るだけでも集中力は上がるようです。

5%前後の集中力アップと聞くと大したことがなさそうですが、そんなことはありません。39人のチェスプレイヤーを対象に行われたドイツの研究では、200mgのカフェインを飲んだプレイヤーは一様に集中力が上がり、プラセボ群より勝率が6~8%もアップしました(※3)

正しい摂り方「缶コーヒーは2缶まで」「ミルクを入れる」

この改善レベルを現実の試合に当てはめると、チェスの世界ランクが5000位から3000位に上がるのに匹敵します。ほんの数%の違いでも、現実的なリターンは計り知れません。

もっとも、カフェインは脳への作用が強いだけに、取り扱いには注意が必要になります。あまりに身近な物質のせいで油断しがちですが、使い方を間違えれば効果が半減してしまいますし、逆に副作用に見舞われるケースも少なくありません。

カフェインを使うときは、以下のポイントに注意してください。

【①一度に缶コーヒー2本(カフェイン400mg)以上を飲まない】

大半の研究では、カフェインのメリットは300mgを超えたあたりから薄れ、400mg以上で副作用が出ています。具体的には不安感や焦燥感の増加、頭痛、短期記憶の低下などです。カフェインの感受性は個人差も大きいので一般化は難しいものの、1回で2本以上の缶コーヒーを飲むのは推奨できません。

【②コーヒーにはミルクかクリームを入れる】

生まれつきカフェインに弱く、少しのコーヒーでもドキドキしてしまう……。

そんな人は、コーヒーにミルクやクリームを入れるのも手です。脂肪分にはカフェインの吸収を穏やかにする働きがあり、マイルドに脳を覚醒させてくれます(※4)。脂肪分と一緒に飲めばなんでもいいので、ほかにもヨーグルトやチーズを合わせてもいいでしょう。

「飲むのは起床90分後」「テアニンと組み合わせて」

【③起床から90分はコーヒーを飲まない】

起き抜けにコーヒーで目を覚ます人は多いでしょうが、これは集中力アップの視点からすれば良くない行為です。

というのも、人間の体は午前6時ごろからコルチゾールという覚醒系のホルモンが分泌され、少しずつ目が覚めるようにできています。いわば天然の目覚まし装置です。

それなのに、起きてすぐコーヒーを飲むと、コルチゾールとの覚醒作用が合わさって脳への刺激が強くなりすぎ、心拍数の上昇、焦燥感、頭痛リスクの増加といった副作用が出やすくなります。

通常、コルチゾールは起床から90分で減り始めるので、コーヒーを飲むならそれ以降のタイミングがベター。コルチゾールの覚醒機能をジャマせずに、カフェインのメリットを活かすことができます。

コーヒー
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人間の体は午前6時ごろからコルチゾールという覚醒系のホルモンが分泌され、少しずつ目が覚めるようにできている。コルチゾールは起床から90分で減り始めるので、コーヒーを飲むならそれ以降のタイミングがベター。(※写真はイメージです)

【④緑茶にふくまれるリラックス成分「テアニン」と一緒に摂る】

テアニンは、緑茶などにふくまれるアミノ酸の一種です。昔からリラックス効果が高いことで有名な成分で、50~200mgを摂取すると40分ほどでアルファ波が増え、気持ちが落ち着き始めます。

実は近年、このテアニンとカフェインの組み合わせが集中力に効くという可能性が浮かび上がってきました。ペラデニヤ大学による実験で、テアニンとカフェインを同時に摂取したグループは、カフェインだけを摂取したグループよりも4%ほど集中力が上がったのです(※5)

この現象は、テアニンが持つリラックス作用が原因だと考えられています。テアニンのおかげでカフェインの副作用が無効化され、うまく覚醒作用だけが残ったのでしょう。小規模な実験につき追試は必要ですが、集中力をブーストさせたければ試す価値はあります。

実験で使われた成分量は、カフェイン200mg、テアニン160mgです。これら2つの成分は緑茶にもふくまれていますが、実験と同じ効果を出そうと思うと、だいたい6~10杯分を一気に飲まねばならない計算です。不可能ではないものの、市販のお茶で集中力アップを狙うのは難しいかもしれません。

そのため、実験を再現したいときはサプリメントの利用がおすすめです。カフェインとテアニンのどちらもカプセルタイプの商品が売られているので、ネットで検索してみてください。

忙しい現代社会は食事が疎かに…

カフェインの摂り方がわかったところで、集中力アップに効く食事の仕方を見ていきましょう。そもそも私たちの脳は適切な栄養がなければまともに働かないため、正しい食事なしでは、せっかくの心理テクニックも存分に活かすことができません。

確かにカフェインには大きな効果があるものの、あくまで集中力のブースターとして使うのが正解。まずは最低でも2週間、これから紹介する食事法を通して、自分の集中力にどのような変化が起きるかを観察してください。それからカフェインを積極的に使用していきましょう。

さて、忙しい現代社会ではついつい食事をなおざりにしがちです。

会社の昼食はできあいの弁当やファストフードで済ませ、仕事中に小腹が空いたと言ってはお菓子をつまみ、家に帰ればインスタント食品を口に放り込む……。

一時的な飢えはおさまるでしょうが、これでは本当に必要な栄養が補給されません。古代ローマの賢人セネカも言うとおり、「自立への大いなる一歩は満足なる胃から始まる」のです。

「地中海食」で脳機能が改善する

近年では「食事と集中力」に関する研究が進み、信頼性の高いレポートが多く出ています。なかでも興味深いのは、ディーキン大学による2016年の系統的レビューです(※6)

このなかで研究チームは「地中海食」に関する18件の研究をまとめ、「食事で集中力は高まるか?」という疑問に精度の高い答えを出しました。

「地中海食」はイタリアやギリシャに古くから伝わる伝統食のことで、野菜、フルーツ、魚介類、オリーブオイルなどをたっぷり食べ、ファストフードやインスタント食品を徹底的に避けるタイプの食事法です。具体的なメニューとしては、全粒粉のラザニアやボイルサーモン、フェタチーズとトマトのサラダなどが定番になります。

カプレーゼサラダ
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いかにも健康に良さそうな食事法ですが、その効果は体調の改善だけにとどまりません。まずは論文の大きな結論を見てみましょう。

・地中海食を徹底するほど脳機能が改善し、ワーキングメモリ、注意の持続力、セルフコントロール能力などが向上する
・その効果は、国籍、性別、年齢を問わずに確認された

「正しい食事」が集中力の土台になる

本書でも紹介しましたが、「集中力」とは、ワーキングメモリや注意力といった各能力の複合体を意味します。すなわちこの研究は、健康的な食事を実践すれば、どんな人でも集中力が上がることを示したわけです。

もちろん、ここで扱われたデータはすべて観察研究であり、必ずしも地中海食が集中力に効くと実証されたわけではありません。その点で注意は必要ですが、脳機能の働きが食事に左右されることはほぼ確実です。

食事で集中力が上がる理由はまだわからない点が多いものの、現時点での科学界は次の栄養素を重視しています(※7)

・鉄分、亜鉛、マグネシウムなどのミネラル
・ビタミンD
・葉酸、ビタミンB12
・オメガ3脂肪酸
・コリン
・必須アミノ酸
・S‐アデノシルメチオニン

いずれも脳の働きに欠かせない成分で、不足すればうつ症状や感情のコントロール不全が起きたりと、メンタルに多大な悪影響をおよぼします。正しい食事こそが集中力の土台になるゆえんです。

もっとも、たんに「脳が喜ぶものを食べよう!」と言ってみたところで実効性は低いでしょう。必要な栄養素で脳を満たすためには、もっと具体的で実践しやすいガイドラインが必要です。

脳の劣化を防ぐ食事法「MIND」

そこで本稿では、「MIND」(マインド)という食事法をご紹介します。これは「Mediterranean-DASH Intervention for Neurodegenerative Delay」の頭文字を取った食事のガイドラインで、日本語に訳せば「神経変性を遅らせるための地中海式&DASH食介入」となります。

仰々しい名前ですが、「脳の劣化を防ぐために開発された食事法」ぐらいに解釈していただいて構いません。先に紹介した「地中海食」を栄養学の観点からブラッシュアップし、脳への作用を最大に高めたのが特徴です。

花とポジターノのビーチ
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認知機能の低下から身を守るテクニックとして一定の評価があり、たとえばラッシュ大学による実験ではうつ病が11%改善し、アルツハイマーの発症率が53%も低下したとの結果が出ています(※8)。科学的に脳のケアを行いたいなら、最初に試すべき手法と言えるでしょう。

「MIND」は、大きく3つのルールでできています。

①脳に良い食品を増やす
②脳に悪い食品を減らす
③カロリー制限はしない

食事の量を減らす必要はなく、お腹いっぱいになるまで食べても問題なし。「脳に悪い食品」も絶対量を減らせばいいだけなので、毎日の食事から完全に排除しなくても構いません。

「脳に良い食品」10のカテゴリー

「MIND」が定める「脳に良い食品」は、次の図表1のような10のフードカテゴリーに分かれます(全粒穀物、葉物野菜、ナッツ類、豆類、ベリー類、鳥肉、その他の野菜、魚介類、ワイン、エキストラバージンオリーブオイル)。

まずはこれらの食品を取り入れた食事を続けるのが基本です。「MIND」がすすめる食材を中心に食べておけば、細かい栄養素のバランスを気にしなくとも、脳の働きに欠かせない成分が摂取できます。

もっとも、このままでは1食分のイメージがつかみにくいので、実践の際は自分の手を使って大まかなサイズ感を確認してください。いわゆる「手ばかり」です。

鈴木祐『人生を変える科学的な集中術』(SBクリエイティブ)
鈴木祐『人生を変える科学的な集中術』(SBクリエイティブ)

「MIND」の1食分の目安は、それぞれ以下のようになります。

・全粒穀物/ベリー類=握りこぶし1個ぐらい
・葉物野菜/その他の野菜(生野菜の場合)=両方の手のひらに載るぐらい
・鳥肉/魚介類/豆類=片方の手のひらに載るぐらい
・ナッツ類/オリーブオイル=親指ぐらい

手ばかりで正確なグラム数を量るのは不可能ですが、だいたい25%ぐらいの誤差に収まります。多くの研究でも、「MIND」の食事量は7割ぐらいまで守れば脳機能の改善が見られると報告されており、実用性は問題ないでしょう。

「脳に悪い食品」7つのカテゴリー

続いて図表2が、「MIND」が定める「脳に悪い食品」です(バターとマーガリン、お菓子・スナック類、赤肉・加工肉、チーズ、揚げ物、ファストフード、外食)。

これらの食品は、できるだけ摂取量を減らしてください。ラーメンやハンバーガーなどを完全に止める必要はないものの、週に1回までにしておきましょう。また、「MIND」では、特に食事の時間は明確に指定していません。もし朝食を抜きたければ抜いても構いませんし、仕事が遅くなったら深夜に食事を取ってもOKです。

毎日決まった時間に食事をするほうが望ましいのは確かなものの、あまり神経質になってもしかたありません。ここでは、脳に良い食品と悪い食品のバランスを改善するほうに意識を使ってください。

臨床テストのデータによれば、「MIND」のガイドラインを4~8週間ほど守ったあたりから脳機能の改善が見られたと報告されています(※9)。食事で脳をケアするためのガイドラインとして活用してください。

(参考文献)
1. Natascia Brondino, Annalisa De Silvestri, Simona Re, Niccolò Lanati, Pia Thiemann, Anna Verna, Enzo Emanuele, and Pierluigi Politi (2013) A Systematic Review and Meta-Analysis of Ginkgo biloba in Neuropsychiatric Disorders: From Ancient Tradition to Modern-Day Medicine
2. Tad T. Brunyé, Caroline R. Mahoney, Harris R. Lieberman, and Holly A. Taylor (2010) Caffeine Modulates Attention Network Function
3. Andreas G. Franke, Patrik Gränsmark, Alexandra Agricola, Kai Schühle, Thilo Rommel, Alexandra Sebastian, Harald E. Balló, Stanislav Gorbulev, Christer Gerdes, Björn Frank, Christian Ruckes, Oliver Tüscher, and Klaus Lieb (2017)
Methylphenidate, Modafinil, and Caffeine for Cognitive Enhancement in Chess: A Double-Blind, Randomised Controlled Trial
4. Haley A. Young David Benton (2013) Caffeine Can Decrease Subjective Energy Depending on the Vehicle with Which It Is Consumed and When It Is Measured
5. Chanaka N. Kahathuduwa, Tharaka L. Dassanayake, A. M. Tissa Amarakoon,and Vajira S. Weerasinghe (2016) Acute Effects of Theanine, Caffeine and Theanine–Caffeine Combination on Attention
6. Roy J. Hardman, Greg Kennedy, Helen Macpherson, Andrew B. Scholey, and Andrew Pipingas (2016) Adherence to a Mediterranean-Style Diet and Effects on Cognition in Adults: A Qualitative Evaluation and Systematic Review of Longitudinal and Prospective Trials
7. Jerome Sarris, Alan C. Logan, Tasnime N. Akbaraly, G. Paul Amminger, Vicent Balanzá-Martínez, Marlene P. Freeman, Joseph Hibbeln, Yutaka Matsuoka, David Mischoulon, Tetsuya Mizoue, Akiko Nanri, Daisuke Nishi, Drew Ramsey, Julia J. Rucklidge, Almudena Sanchez-Villegas, Andrew B. Scholey, Kuan-Pin Su, and Felice N. Jacka (2015) Nutritional Medicine as Mainstream in Psychiatry
8. Martha Clare Morris, Christy C. Tangney, Yamin Wang, Frank M. Sacks, David A. Bennett, and Neelum T. Aggarwal (2015) MIND Diet Associated with Reduced Incidence of Alzheimer’s Disease
9. Martha Clare Morris, Christy C. Tangney, Yamin Wang, Frank M. Sacks, Lisa L. Barnes, David A. Bennett, and Neelum T. Aggarwal (2015) MIND Diet Slows Cognitive Decline with Aging