※本稿は、木村至信『1万人の鼻の悩みを解決した医師が教える 鼻炎のリセット法』(アスコム)の一部を再編集したものです。
「鼻の入り口」は炎症を起こしやすい
本稿では、毎日の生活の中でできる、鼻炎に対応する知恵を記します。習慣を変えるだけで、鼻の症状を抑えることがある程度はできるはずです。
まず、エチケットの話になりますが、人前に出る前には、歯磨きをするのと同じように、ちゃんと鼻をかむことを習慣にしていただければと思います。
とはいえ、花粉症や風邪のとき、慢性的なアレルギー性鼻炎の方は鼻をたびたびかむことになりますよね。鼻をかんでから家を出たとしても、すぐまたかむことになるでしょう。
何度もかんでいると、鼻の入り口が痛むことがあるかもしれません。鼻の入り口は「鼻前庭」と呼ばれています。鼻毛が生えているところと、粘膜との境目あたりです。外から侵入する異物を止めたり、体内から異物を押し出したりする場所なので、荒れやすく、よく炎症を起こします。
炎症が起きると、鼻前庭にかさぶたのようなものができます。「鼻前庭湿疹」というのですが、その炎症が進むと「鼻前庭炎」になります。これが、鼻の脇の痛みの原因です。
鼻をかむときは「片側ずつ、そっと」
いったん鼻前庭炎になると、1カ月以上かさぶたが残り、鼻くそが溜まることもあります。しかも、鼻前庭にできたかさぶたは、取ってもまたできるという悪循環になりがちです。ですが、鼻くそやかさぶたを無理にはがしてはいけません。
鼻前庭炎は、抗生物質の軟膏で治ります。ただし、加湿器やマスクなどを利用して、鼻の中を乾燥させないようにすることが必要です。
鼻前庭炎を予防するためにも、鼻前庭を傷めないように、鼻をかむときには片側ずつ、そっとかみましょう。周囲の人に聞こえる音がするほど、一気に強い圧をかけるのはいけません。思い切りかむのは気持ちがいいのですが、鼻前庭だけでなく、鼻の粘膜にも耳にも悪影響を及ぼします。
特に「アレルギー性鼻炎」では粘膜がもろくなっているので、あまり強いかみ方はしないようにしましょう。
強くかむと、出血しやすくなります。ちなみに、たびたび鼻をかむようなときには、少し高価になりますが、保湿タイプのしっとりしたティッシュペーパーがおすすめです。鼻の表面への刺激を軽減するので、少しでも不快感を減らすことができるでしょう。
「温かいタオル」で鼻づまりが解消する
小さなお子さんの場合、まずは親御さんがお子さんに、イラスト(図表1)にあるように「鼻をちゃんとかむ」習慣をつけさせることが大切です。
乳幼児など、まだ自分でかむことができない年齢であれば、親御さんがご自分の口で、鼻水をスーッと吸ってください。その行為に抵抗のある方は、市販の吸入器を使いましょう。吸っている口の中に鼻水が入らないように、逆流防止弁がついているタイプがおすすめです。
なかには「吸い切るまで息が続きません」という親御さんがいらっしゃいます。そういう方は、無理に吸うことはありません。そういうお子さんには、私は去痰薬を処方します。粘液を外へ出したり、柔らかくしたりすることが目的です。そうなれば、無理なく吸えるようになります。
鼻づまりのあるお子さんには、「鼻ほっとタオル」(第1回参照)をやってください。43度ぐらいに温めたタオルを当てて、鼻から思い切り息を吸います。吐くときにはタオルを外し、またタオルを当てて息を吸います。蒸気を鼻から吸って、鼻粘膜の血流を良くすることで、膿(鼻水)を柔らかくして外に出すのを助けるので、お子さんの症状を緩和します。
「鼻うがい」はやめたほうがいい理由
鼻うがいとは、鼻の奥の粘膜を洗浄して、汚れやアレルゲン(アレルギー反応を引き起こす物質)を取り除くセルフケアです。
鼻の中(鼻腔)と口の中(口腔)をつなぐ上咽頭の鼻水や、粘膜の汚れ(花粉、ハウスダスト、雑菌などの異物)を物理的に洗い流すので、やればスーッとします。また、鼻づまりや鼻水を予防し、症状緩和に役立つともいわれています。
近年は「鼻洗浄器」として専用の器具も市販されています。ですが、鼻うがいには危険がいっぱい潜んでいるので、安易にすることは控えていただきたいと思います。
自宅での鼻うがいは、「正しい方法で行わなければ、難聴、中耳炎、咽頭炎、カビアレルギーによる鼻炎、肺炎などのリスクが高まる」というのが、耳鼻咽喉科学会の統一見解です。なぜなら、鼻うがいには、次のようなリスクがあるからです。
・細菌やウイルスが入った水が逆流して、難聴や中耳炎になる可能性がある。
・器具内に残存した水分からカビが繁殖し、鼻や喉に炎症を起こす可能性がある。カビが蔓延すれば、肺炎になる可能性がある。
・鼻や喉にある免疫力を損なう可能性がある。
・カルキを含んだ水道水が、粘膜を傷める可能性がある。
「どうしても鼻うがいしたい人」に守ってほしい3点
それでも鼻うがいをしたい方は、次のことに気をつけてください。
①専用の器具であっても、何回も使ううちに目に見えないカビが繁殖して、鼻炎を悪化させることがあります。ですから、鼻洗浄器は毎日煮沸消毒して、よく乾燥させてください。
②水道水ではやらないでください。塩素などで粘膜を傷めます。薬局で市販されている生理食塩水(浸透圧が人間の体液に近い、塩化ナトリウムの水溶液)を使ってください。ヨード系の消毒液も、粘膜を傷めることがあります。自分で洗浄液を作るときには、100ミリリットルの水に、小さじ5分の1弱の塩を入れます。
③毎日はやらないでください。
これを守れる方であれば、鼻うがいをしてもいいでしょう。ただし、これを完璧に守るのは難しいので、鼻うがいをしなくてもすむように、ちゃんと鼻をかみ、リセット法をやり、薬を服用することをおすすめします。
「鼻毛の切りすぎ」が病原になりやすくなる
鼻炎は長引きやすく、治りにくく、繰り返し起きるという傾向があります。
その原因の一つは、鼻の粘膜がずっと外気に触れっぱなしだということ。つまり無防備だということです。たとえ鼻の中に傷ができても、絆創膏を貼ることができません。そのまま外気に触れっぱなしです。
さらに、鼻は奥に行くほど狭くなり、突き当たりになっています。私たちは「閉鎖腔」と呼んでいますが、出口があちこちにあるわけではないのです。つまり、換気がしにくく、菌が繁殖しやすい環境だということです。そのせいで、鼻の奥や喉の突き当たりは、入ってきたインフルエンザウイルスやコロナウイルスが繁殖する場所になってしまうのです。
異物が繁殖しやすい場所だから、鼻炎は治りにくいのです。「お薬で治らない! どうしてですか?」と患者さんから怒られることもあるのですが、そもそも鼻とはそういう場所なのです。だからこそ、私は言いたいのです。
鼻の中の粘膜を守ってくれる「鼻毛」を大切にしましょう。鼻毛はフィルターとして、埃や病原菌の侵入を防ぎます。また、鼻の中の湿度を保つ役割も果たしています。
鼻毛を切りすぎないようにしてください。鼻の奥まで切る必要はありません。エチケットとして、見えなければいいという程度にしておきましょう。せっかく門衛の役を務めてくれている鼻毛を切りすぎるのは、門衛を解雇して泥棒に門を開けてやるようなものです。
夏の“エアコン寝落ち”はNG
夏季にはエアコンで喉をやられた方が、喉の痛みや咳を訴えて、たくさんクリニックを訪れます。エアコンで快適な室温になり、そのまま寝落ちして、鼻が詰まって口呼吸になり、喉を傷めてしまったパターンが多いのです。
なぜエアコンの冷房をかけっぱなしにすると鼻が詰まるのでしょうか。
一つには、冷たい空気を吸い続けると、鼻の中の細かい血管が最初は収縮して鼻がスースー通るのですが、その後は反動で血管が拡張して、鼻粘膜が腫れてしまうからです。
また、体が冷えすぎると交感神経と副交感神経のバランスが崩れて、鼻粘膜の血管の調節がうまくいかなくなるからです。それによって、やはり鼻粘膜が腫れて、鼻が詰まりやすくなります。
さらに、冷房の風はとても乾燥しています。乾いた空気を吸うと、鼻の粘膜が乾きます。それに対する防御反応として粘膜が腫れ、分泌物(鼻水)を増やすために、詰まりやすくなるのです。
このようなことが原因で、エアコンのかけっぱなしによって鼻が詰まってしまうことが多いのです。特に夏の夜は気をつけて、大切な鼻を守ってください。
(参考文献)
・一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「鼻の症状」
・学会誌インターナショナル・ジャーナル・オブ・インフェクシャス・ディジーズに掲載された米ワシントン州にあるスウェディッシュ・メディカル・グループのチームの症例報告(2022/12/14)
・『総合診療 33/7 2023年7月号』(医学書院) 上田剛士 洛和会丸太町病院救急・総合診療科「Dr.上田剛士のエビデンス実践レクチャー! 医学と日常の狭間で 患者さんからの素朴な質問にどう答える? 鼻をかむことの弊害」
