■編集部より指令

ワーク・ライフ・バランスが言われて久しいですが、仕事と家庭のベストバランスってあるのでしょうか。

大宮さま、共働き夫婦が円満でいるためのアドバイスをお願いします。佐藤さま、女性が充実した人生を送るためには「バリキャリ」でいくのか「ゆるキャリ」でいくのか、「専業主婦」になるのか、どちらが幸せなのでしょう。

■大宮冬洋さんの回答

夫婦が円満になる仕事と家庭のベストバランス -結婚と仕事・男の言い分
http://president.jp/articles/-/11256

■佐藤留美さんの回答

仕事を割り切ると“労働”になる

今どきの学生は、「幻の赤ちゃん」を抱いて就職活動するといいます。

どういうことかと言うと、優秀な女子学生は、結婚して子どもを産んでも仕事を続けられる会社を模索しているらしい(まだ結婚相手もいないのに)。

自分の「やりたいこと」を仕事にするより、長く継続できる仕事をしたい――。そんな考えから、「あえて」一般職やエリアや職種限定職など旧一般職を志向する女子学生も現実に増えている、とは人事部の方からよく聞く話です。

まさに、編集のヨコタさんが指摘する通り、「バリキャリ(バリバリ働いて私生活に潤いがない生き方)」より「ゆるキャリ(ゆるく適当に働いて私生活を充実させる生き方)」のほうが女性として幸福な人生が送れると考える人が増えているのかもしれません。

ただ、本当のところは、どうなんでしょうね。

「ゆるキャリ」を選んだら選んだで、野心的で実力のある女性は、物足りないかもしれません。

一般職や限定職の仕事は、会社から与えられる目標も、職務範囲も常に「限定的」です。いくら頑張っても、永遠に会社から二級市民扱いされ、役職も職域も広がって行かない仕事を続けるには、ある種の「割り切り」が必要かもしれません。

しかし、仕事は割り切ってすると、ただの“労働”になってしまい、そこから喜びを得るのは、かなり難しくなります。

快適な「働き方」を模索した結果、「働きがい」を失ってしまうのです。

無茶できるかどうかが付加価値

一方、「バリキャリ道」を進むのも楽ではありません。

先日私は、ある商社マンから、こんな話を聞きました。

商社マンの仕事は、クライアントや取引先との交渉がメインであり、その交渉をいかにうまくやれるかが生命線ですが、それには24時間、オンもオフもないと。相手の要求に従い、いつどこにいようが、何時だろうが、お構いなしにすぐレスポンスし、必要な書類は出せるようにしておかなければ、仕事そのものが成り立たない。

ところが、最近の若いのは、「ワーク・ライフ・バランス」とか言って、「時間外」の仕事をやりたがらない。それでは、自身の仕事がお客様からじきに「いらない」と言われても仕方がないと。

ある外資系コンサルタントの方からも、こんな話を聞きました。最近のクライアントはコンサルを使い慣れていて、人遣いが粗いなんてもんじゃない。

夜中の2時に打ち合わせに呼び出され、そこで協議した内容を翌朝までに書類にまとめて送っておけなんて言われるのはザラだと。

要はお2人とも、仕事の付加価値はこうした「無茶がきくかどうかで成り立つ」というのです。

そして、そんな無茶を乗り越えて、何らかの仕事をカタチにした時の喜びは、何事にも代えがたいと。

しかし、こんな過酷な仕事を、子育てや家事をしながら、両立しながらできるはずもなく、多くの自称「バリキャリ」女性は脱落していくのだとか。

そんな話を聞いて、私は「うーん」とうなってしまいました。

「バリキャリ」と「ゆるキャリ」のどちらが幸せなのか――。

行ったり来たり

結論から言うと、私は、「バリキャリ」と「ゆるキャリ」を行ったり来たりする人生が、理想だと思います。

たとえば、仕事を覚える20代のうちは「バリキャリ」人生を歩み、目標を達成する喜びを得る。そして、結婚し、子どもを産み、子育てに注力したい時期は、少し仕事をペースダウンし、「ゆるキャリ」となる。

そして、子どもの手が離れてきたら、また仕事の配分を増やし「バリキャリ」に戻る、といった具合です(バリキャリになって思春期の子どもが荒れたりしたら、またゆるキャリに戻すなど)。

しかし、こうした「バリキャリ」と「ゆるキャリ」を行ったり来たりする人生を、多くの会社は許してはくれません。

たとえば、1度、短時間勤務制度(時短)を取得した女性社員は、ずっと「時短の人」と見なされ、「戦力外」のレッテルを張られ、どうでもいい手加減した仕事しか与えられない。そして、女性は、「私は会社のお荷物だ」といじけ、会社を恨み、こうなったら意地でも辞めてなるものかと意固地になる……。そんなケースが随所で見受けられます。

でも、先進的な会社は、女性のライフイベント(結婚・出産・介護など)に柔軟に対応した、「バリキャリとゆるキャリの行ったり来たりキャリア」を認めつつあります。

たとえばりそな銀行は、子育て中の社員がいったんパート社員となり(しかも同一労働同一賃金だから社員と非正社員とで時給は変わらず)、その後、また仕事量を増やしたければ、社員に戻れるという制度があります。

このように、社員のプライベートにコミットした柔軟な働き方が認められれば、多くの女性はもっと充実したキャリアが歩めるに違いないと思います。

ワーク・ライフ・バランスは古い!

それと、私がもう1つ提唱したいのが、「ファミリー・キャリア」という考え方です。

夫婦が2人とも働いていれば、双方とも「今が、頑張り時」というチャンスの時期が、それぞれにあります。そこをお互い補いあうという考え方です。

たとえば、私の友人には、こんな夫婦がいます。妻は自営業をやっており、ご主人は公務員というカップルです。

彼女たちは、お互い「頑張り時」を1年単位で、譲り合っていると言います。

彼女が仕事に集中したい1年は、ご主人が子育てや家事の主担当となり、子どもが熱を出して休まなければいけない時などはご主人が休む。

一方、ご主人の頑張り時は、彼女が本来やりたい仕事もセーブして、子育てや家事にいそしむというのです。

この方式なら、お互いがどちらの犠牲にもならずに、円満でいられると。なかなか、面白い発想なのではないでしょうか。

いずれにしても、人間は仕事もプライベートもひっくるめて1つの人生しか生きられないのですから、仕事とプライベートを、たとえば半々といった具合に、ぷっつりと分ける「ワーク・ライフ・バランス」という考え方は、現実的ではないと思います。

欧米では既に、「ワーク・ライフ・ブレンド」といい、ワークとライフがいっしょくたになった生き方(働き方)が提唱されつつあるとか。

確かに、私生活は仕事に大きく影響するし、その逆もまたしかりです。両者を真っ二つに分けて考えること自体が時代遅れ。

そんな気がしてなりません。

佐藤留美
1973年東京生まれ。青山学院大学文学部教育学科卒。出版社、人材関連会社勤務を経て、2005年、企画編集事務所「ブックシェルフ」を設立。20代、30代女性のライフスタイルに詳しく、また、同世代のサラリーマンの生活実感も取材テーマとする。著書に『婚活難民』(小学館101新書)、『なぜ、勉強しても出世できないのか? いま求められる「脱スキル」の仕事術』(ソフトバンク新書)がある。東洋経済オンラインにて「ワーキングマザー・サバイバル」連載中。