第一印象はなぜ重要なのか。作家のマティアス・ネルケさんは「現代人の集中力は低下し、ある研究では金魚以下とされている。このような状況では、一瞬で伝わるセルフブランディングが求められ、焦燥感が蔓延する」という――。

※本稿は、マティアス・ネルケ『私を消耗しない賢明な態度』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

金魚
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「第一印象に二度目はない」

キャリアコンサルタントや幸福な人生のためのカウンセラーがしきりに言う。

今日では、熱意、成果、内面的な価値だけでは不十分だ、と。

確かにそうだ。

出世するのは勤勉に働くミツバチではなく、騒ぎたてて、決定的な瞬間に刺すことを恐れない、いくらか攻撃的なスズメバチなのだ。

さらに、重要なことがある。

私たちが人生で成功するかどうかは、「自分を上手に売りこむ」ことができるかどうかにかかっている。しかもスタート地点から。

第一印象に、二度目のチャンスはない。

これはシャンプーのコマーシャルに使われていたキャッチフレーズだ。

そもそも、二度目のチャンスというのはなかなか難しい問題だ。

問題を難しくしているよくある理由は、時間がまったく取れないこと。デジタル化され、ネットワークで結ばれて、物事が必要以上に速く動く世界では、何ごとも迅速に進めなければならない。

速ければ速いほどいい。

相手の話を根気強く聞くゆとりがある人は、ほとんどいない。

私たちは素早く反応し、素早く決断を下し、素早く方針を変更し、素早く方向を転換し、すべてをひっくり返し、再出発しなければならない。

すぐに相手を納得させるか、あるいは、うまくいかないままか。すべてはシンプルに。回り道をせず、細かいことは気にせず、深く考えない。行動の遅い人、慎重な人、面倒なやり方をしようとする人。このような人たちは、もっとも見込みがない人たちなのだ。

人は8秒も待ってくれない

私を60秒で説得してください。

あなたのアイデアを40秒で説明してください。

20秒で自己紹介してください。

10秒ならさらにいい。

相手の注意を引くことは大事だ。

他人の話に注意深く耳を傾けることはめったになくなってきている。それというのも、だれもが相手の注意を引こうと争っているからだ。

相手に気づいてもらえない人は、存在しないも同然。

だから、気づいてもらえるよう、目立つよう、大声をあげるよう、だれもが努力する。

「スマホ、子ども、タブレット、友だち。最近では、競うように、いつも何かしらが、私の注意を引こうとしている」とは、デジタルメディアの影響に関するマイクロソフトの調査結果(※1)である。

その調査によれば、注意が持続する平均的な時間は、この10年間で12秒から8秒に短縮されている。

8秒の間に何かしら新しい動きがないと興味を失い、注意力が散漫になってやめてしまう。

若い被験者たちは、この影響をさらに強く受けている。彼らにとって8秒はじゅうぶんすぎるほど長い。

研究論文の著者たちの記述にあるが、金魚の注意力が持続する時間は9秒。

きっとこの研究論文のタイトルは「人間の注意力の継続時間は金魚のレベルを下回る」だったに違いない。

※1 出典:「Microsoft Attention Spans―Consumer Insights, Microsoft Canada―」(2015年)

セルフブランディングへの焦燥感

こうした状況では、物事に対する責任は自分で取り、自分の価値を探して伝える「セルフマーケティング」や「自己PR」を勧められるのは、理にかなっている。

言うなれば、「自分で褒めなければ、だれも褒めてくれない」原則に従った、自己宣伝だ。

目的は、セルフブランディング。

車やフェイスクリーム、洗剤などでうまくいくのだから、自分の個性を売りこむのにも役に立つはずだ。

そのためには、「ブランドの本質」と「明確な位置づけ」を備えた、「自分というブランド商品」にならなければならない。

ほかの成功したブランドのように、あなたには、あなた自身を「際立たせる」もの、「熱望」されて、好感が持たれる性質が必要だ。

上辺ではなく、あなたを有利に引き立たせる特徴を見せるのだ。

靴とバッグを選ぶ女性
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あなたは、自分の強みを明確に理解し、効果を発揮させるためにひたすら高い目標を目指す。

あなたの外見、服装、言葉選び。

これらすべてが、あなたの「まぎれもないブランドの本質」と調和していなければならない。

バランスがとれていなければ、相手は混乱する。

人間は複雑なので、理解してもらえるようにできるだけシンプルなほうがいい。

ブランドを避ける賢い消費者もいる

ブランドははっきりとわかりやすく、ほかのものとは区別できるようにしなければならない。

矛盾があるものは人を不安にする。個性的すぎて予測不可能なものが入りこんではならない。

自分という人物を、人の心を惹きつける、「魅力的なブランドを約束する商品」にするのだ。

私たちは、人気のチョコレートのように評価されなければならない。それには、評判の手作り冷凍ピザのように、誠実さと確かさが大いに関係する。

ブランドは人工的に作られたアイデンティティだ。特に、ある商品と別の商品とを区別してもらうのが難しいところで必要とされる。

例えば、商品BではなくAを手に取ったが、どんな商品なのかよくわからないとき。ブランドは、一定の、そしてとりわけ安定した質を保証する。

しかし、1つ忘れてはならないことがある。ブランド商品を避けて、ノーネーム製品を好んで手に入れる賢い消費者も少なからずいるということだ。

彼らはブランドのあるなしで「中身の価値」が変わるわけじゃないと考えている。

自信のなさ、不安感は操られやすい

こうしたブランディングというわざとらしい振る舞いの裏に隠されているのは、ただの不安だ。

自分は脇に追いやられてしまうかもしれない不安、ほかのものに置き換えられて、不必要になってしまうかもしれない不安である。

このような不安は操られやすい。

ある講演にて。

一流の「ブランド専門家」が聴衆をその場に立たせた。その中の半数を超える人たちは、再び着席するよう指示される。

そして聴衆たちに伝える。

「まだ立っている人たちを見てください。オックスフォード大学のある研究によれば、今立っているおよそ47%の人たちの仕事は、今後、機械に置き換えられます」

しかし、座っている人たちも「自信がない」と感じていただろう。なぜなら、明日にでも自分も席を立たなければならなくなるかもしれないからだ。

機械、あるいは、「この部屋の中にいる、自分よりもできる人」に置き換えられるかもしれない。

このとき、「一流のブランド専門家」は自分自身も同じ立場にあることを自覚していなかったらしい。

それどころか、彼女の地位はいとも簡単に機械に置き換えられてしまうかもしれない。

彼女がしていることは、同じメッセージをくり返し、動揺している聴衆に向けて発砲することだけだ。

私たちはなぜ走りつづけるのか

私たちは常に聞かされている。

すべてが変化している。転落しないよう、動きつづけなければならない、と。

『鏡の国のアリス』に登場する気性の激しい赤の女王が言うように、その場にとどまるためには全力で走りつづけなければならない。

マティアス・ネルケ『私を消耗しない賢明な態度』(サンマーク出版)
マティアス・ネルケ『私を消耗しない賢明な態度』(サンマーク出版)

私たちは常に、転落の危険にさらされている。

転落すると元いた場所には所属できなくなる。それだけでなく、増えつづける敗者の群れに加えられる。

走りつづけるのをやめてしまった人々は、だれからも求められず、採用もされず、同情もされない。

いくらかの人々に関しては「統計には表れない」危険をはらんでいる。あまりにも些細な存在で、数字にも表れない。

そうなるとどうなってしまうのか?

幽霊か、影か?

そのようなことは、決して起きてはならない。

だから、私たち人間は、利益を得られるのであれば、無意味とわかっていても進んでやる。

それは単に生き残るためかもしれない。

あるいは、成功を望んでいるからかもしれない。