部下が失敗したとき、上司はどう声をかけるといいのか。『できるリーダーはどこを「ほめる」のか? チームが自然と動き出す「戦略的ほめ方」』(朝日新聞出版)を出した山本渉さんは「大切なのは、まず一度受け止めること。相手を安心させてから改善ポイントを伝えることで、部下の背中を押すことができる」という――。
社内の書類を見ながら相談する2人のビジネスマン
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照れ屋もできる褒めずに褒めるテクニック

「褒めたい気持ちはあるけど、照れくさくて口に出せない」という人も少なくないと思います。

その気持ち、よくわかります。わたし自身ももともと照れ屋で、「言葉にしなくても伝わるでしょ……」と思っていた時期がありました。

でも、褒めることは必ずしも直接的な褒め言葉を使うことだけではありません。相手に「認めています」「信頼しています」と伝えて承認する方法はたくさんあります。

ここでは、そんな「褒めずに褒める技術」をご紹介します。もしあなたが、「照れくさくて褒められない派」なら、まずはここから始めてみてください。

①聞く・教えてもらう(=あなたを認めています)

最近、別の部署の後輩が「提案前の企画書を見てください」とアドバイスを求めてきました。自分のチームメンバーならわかりますが、わざわざ頼ってくれた。その行動にリスペクトを感じて、喜んでアドバイスをしました。

「意見を聞かせてほしい」=「君の考えを価値あるものとして見ている」

まさに、褒めずに相手を褒める方法です。同様に、「教えてもらう」のも強力な承認行動です。「こんな契約数、どうやって達成できたか教えて」なんて聞かれたら、人は自然と誇らしくなります。

「聞く」「教えてもらう」という行為は、部下が上司にするだけのものではありません。わたし自身、先輩から学んだことと同じ量のことを後輩から教えてもらっています。時代にマッチした考え方や、最新のテクノロジーなど、教えを請うてよかったと感じることが多いです。後輩に教えてもらうことは、相手を承認しつつ、たくさんの学びも得られて一石二鳥です。

子どもに対しても同じです。「これを勉強しなさい」より、「これ教えて」と聞いてみると、勉強したことをもっと知ろうと、喜んで自ら学び始めます。

②真似る(=あなたをリスペクトしています)

わたしは組織で育成担当もしていて、新人が入ってくると教育係となるトレーナー・メンターを人選します。しばらく経つと、そのペアがうまくいっているかどうかが見えてきます。どこでわかるかというと、だんだんと似てくるんです。仕事の進め方、企画書の作り方だけでなく、口調や仕草までも。

人は、リスペクトしている相手を自然と模倣するものです。尊敬や承認の気持ちを伝えたいなら、相手の優れているところをあえて真似ようとしてみる。これも無言の褒めの一つです。

無言の“褒めテク”の裏にあるもの

③呼び名で褒める(=あなたは特別な存在です)

次はちょっと特殊な承認の方法です。呼び名もまた、大きなメッセージを持ちます。

Appleの創業者スティーブ・ジョブズ氏がスタッフのことをなんと呼んでいたかご存じでしょうか? SEやエンジニアではなく、「アーティスト」です。ディズニーランドではアルバイトを「キャスト」と呼びます。スターバックスでは従業員のことを「パートナー」と呼ぶそうです。

ただの職名ではなく、その人の役割や価値を認める「敬意あるネーミング」が、相手にモチベーションとプライドを与えます。

このように、口に出して「すごいね」と言わなくても、さまざまな方法で「あなたを認めています」と伝えることができます。図表1のような行動も、すべて無言の褒め言葉です。

口に出して褒めるのが苦手な人にとって、「褒めずに褒める技術」は、承認の癖づけをしていくファーストステップとして、とても有効な手段です。

ここで挙げた手法の裏にはどれも、しっかりとした「興味」「承認」「尊敬」の気持ちがあります。これらが伝わることで、自然と信頼関係も育まれ、チームの空気も変わっていきます。

ポイント➡「聞く」「教えてもらう」「真似る」など、言葉で褒める以外にも、たくさんの承認方法がある。

失敗を次につなげる「励まし承認」スキル

ビジネスでもプライベートでも、失敗は避けて通れないものです。順調に成果を出している人を褒めるのは比較的簡単ですが、問題は、失敗して落ち込んでいる人にどのような声をかけるかです。そんなときこそ、リーダーとしての「褒め力」が問われます。

慰めるだけでなく、次へ進む勇気も渡すこと。それが「励まし承認」です。これはとても重要なマネジメントスキルなので、少し長くなりますが具体的に解説していきます。

失敗を肯定する言葉の力

わたしが身を置く広告業界のコピーから、印象的な言葉をご紹介します。

“まっすぐの人間だから、よくぶつかる。”(西武百貨店)

このコピーは、相手の短所や困難を「その人らしさ」や「美点」として再解釈して、一度肯定しているのが特徴です。

言われた人からすると、否定せずに励まされたと感じます。あらためて一歩前へと進む原動力となる、背中を押す「褒め」なのです。

後輩や部下がうまくいかなかったとき、いきなり「何やってんだ! 次は絶対に結果出せよ!」と圧をかけて、うまくいくでしょうか? 萎縮させるだけで逆効果になってしまいます。

すべては相手への肯定から始まる

大切なのは、まず一度受け止めること。

“つまづいたって いいじゃないか にんげんだもの”

こちらは相田みつをさんの名言ですが、このように一度肯定し、安心感を与えることからすべてが始まります。

・議論が白熱して、後輩がクライアントを怒らせてしまった
→「そこまで腹を割って話せる関係を築けたのはすごいよ。次は……」
(積極的な姿勢を褒めて、次につなげる)

・パートナーが慣れない皿洗いで皿を割ってしまった
→「洗ってくれてありがとう! 油ものにはコツがあって……」
(挑戦を褒めて、次につなげる)

ポイントは、うまくいかなかった中にも、よかった点やその人なりの特長、小さな成長を見逃さないことです。

自分の中に「相田みつを」を登場させるイメージで、一度失敗も受け止めてから改善ポイントを伝えることで、背中を押すことができます。

挑戦した勇気を讃える
“PKを外すことができるのは、PKを蹴る勇気を持った者だけだ”

これはサッカー元イタリア代表ロベルト・バッジョの名言で、チャレンジを認める言葉の典型です。失敗を非難するのではなく、挑戦そのものに敬意を表す。このスタンスが、次の挑戦を生みます。

イップスという言葉をご存じでしょうか? 過去の失敗による極度の緊張や自信喪失のことです。ミスがトラウマとなって、挑戦することをやめてしまう。そうならないためにも、失敗を非難するのではなく、挑戦を褒める姿勢がマネージャーには求められます。

時間軸をずらして褒める

失敗直後はどうしても落ち込み、ネガティブに傾いてしまうものです。そんなときは、「これまでこんな成果を出してきた(=だから次はできる)」と過去の実績を褒めて勇気づけることも有効な手段です。

また逆に、過去ではなく未来を褒めるという手法もあります。「今はまだ結果は出てないけど、この努力を続けていたら必ず大きな成果につながる」と、未来の可能性や根本的な強みに目を向けるのも有効です。

今回だけはうまくいかなかった、でも次はできる。これが失敗にめげない褒め方です。

部下が失敗したときに上司がすべき2つのこと

最後に、チームメンバーの失敗に直面したときに、マネジメントとしてすべきことを2つお伝えします。

山本渉『できるリーダーはどこを「ほめる」のか? チームが自然と動き出す「戦略的ほめ方」』(朝日新聞出版)
山本渉『できるリーダーはどこを「ほめる」のか? チームが自然と動き出す「戦略的ほめ方」』(朝日新聞出版)

一つは「また挑戦の機会を与える」こと。褒めるだけでなく、「次も任せるよ」という言葉が、相手にとって最大の励みになり、信頼の証となります。

もう一つ重要なのは、この失敗をしっかり記憶しておくことです。そして失敗を乗り越えて成果を出したときこそ、最大限の称賛を送るタイミングです。「あのときの苦労がここにつながったね」と言えること。これが、本書『できるリーダーはどこを「ほめる」のか?』の10節でお伝えした「垂直承認」です。

人は、自分の歴史を覚えてくれている人を信頼します。共に悔しがり、共に喜んでくれるリーダーこそ、メンバーがついていきたくなる存在です。

失敗を失敗で終わらせないのも、マネジメントの重要な仕事です。それは甘やかすことでも、詰めて脅して改善させることでもありません。次はうまくいくようにガイドする「励まし承認」を、ぜひ実践してみてください。

ポイント➡メンバーが失敗したときこそ、「褒め」の発揮しどき。