体から疲れを追い出す方法はないか。トレーナーの木谷将志さんは「股関節が身体のエンジン、肩甲骨が身体のハンドル。その連携によってどれだけ働いても疲れにくい身体に整えることができる」という――。

※本稿は、木谷 将志『世界が認めた神リカバリー』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

肩の痛みに思わず手を添えている女性
写真=iStock.com/PonyWang
※写真はイメージです

スピードスターと並んで「ヨシダマヤ」が世界8位に

2016年のある日。

信じられないニュースが飛び込んできた。

イギリスの日刊タブロイド紙『デイリー・ミラー』(同年10月6日付け)によると、プレミアリーガーの足の速さのランキングで、吉田麻也選手がなんと全体の8位にランクインしたというのだ!

プレミアリーグは8月に開幕しており、そのデータは第1節から第7節まで経過した時点での集計だという。

発表された最高時速ランキングは次の通りだ。

1位……シェーン・ロング(サウサンプトン)35.31km
2位……リンデン・グーチ(サンダーランド)35.19km
3位……カイル・ウォーカー(トッテナム)35.18km
4位……ジェイミー・ヴァーディ(レスター)35.10km
5位……アンドレ・グレイ(バーンリー)34.87km
6位……エリック・バイリー(マンチェスター.ユナイテッド)34.84km
7位……ウィルフレッド・ザハ(クリスタル・パレス)34.79km
8位……吉田麻也(サウサンプトン)34.78km
8位……セオ・ウォルコット(アーセナル)34.78km
10位……エクトル・ベジェリン(アーセナル)34.77km

【出典】サッカー総合情報サイト サッカーキング(2016.10.07)

地元フリーペーパーも震撼

吉田選手のランクインには、全英が驚いた。

というのも、吉田選手と同8位のセオ・ウォルコット選手は、名門「アーセナル」が誇る当時の世界的人気のスピードスター。また10位のベジェリン選手も爆発的なスピードを備えており、40mを4.42秒で走り、ウォルコット選手が持っていたクラブ記録を0.01秒塗り変えた猛者なのだ。

ちなみに、“人類最速男”ウサイン・ボルトですら100mの世界記録9秒58を出した際の40mは4.64秒だった。

そもそもプレミアリーグには世界最速のFWフォワードが集まっている。だから、MFミッドフィルダーDFディフェンダーも、足は速くて当たり前。

そんな中で、それほど足が速いとは思われていなかった吉田選手のランクインが周囲に驚かれるのは当然だった。

フリーペーパーの『メトロ』などは「サウサンプトンDFヨシダマヤが(ランクインして)いるのが最大のショック」と伝えたほど。

捉え方によっては失礼に聞こえなくもないのだが、ともあれ“吉田麻也”の名前がイギリスというサッカー発祥国に浸透していくのは嬉しかった。

吉田選手との秘密の取り組み

そしてこの快挙には、知られざる裏話がある。

じつはこの2016―2017シーズンでは、それまで以上に重点的に取り入れ始めたトリートメントがあったのだ。

それこそが、肩甲骨へのアプローチだった。

サッカー選手にとっては、股関節まわりや下半身のケアが大切だ。

そして、それと同様に、いやそれ以上に、「肩甲骨」のケアに重点的に取り組んだのである。

目的はもちろん、「肩甲骨の可動域を広げて、スムーズに動かせること」に尽きる。

だから、前シーズンとの大きな違いと言ったら、「肩甲骨」への取り組みだったのだが……。

そのように意識的に「肩甲骨トリートメント」を導入した途端に、プリミアリーグ全体で8位にランクインするスピード記録を叩き出すなんて、さすがに予想していなかった。

もちろん、この「足の速さランキング」には、運もあると思う。

だが、私たちが向かっている「身体づくり」の方向性が間違っていないと確信を得られた“事件”だったのだ。

エネルギー出力を高める股関節と肩甲骨の連携

股関節が身体の「エンジン」だとすると、肩甲骨は身体の「ハンドル」だ。

そして、股関節と肩甲骨は、背骨という身体の軸でつながっている。

完璧に連動していて、とても密接な関係にある。

イメージしてほしい。

たとえば歩く際に、左足を前に動かすとしよう。

そのとき同時に、両肩も動くはず。

右肩は前へ動き、左肩は後ろへと動くだろう。

そのように股関節と肩甲骨は、365日24時間、密接に連動している。

だから、この「エンジン」と「ハンドル」をスムーズに連動させることができれば、吉田選手のように、それまで以上に身体にキレが出る。

思ったとおりに動きやすくなる。

それは、「疲労をためない」身体づくりにも直結する。

エンジンとハンドルの連携がスムーズになれば、無駄なエネルギーを使わなくなるし、そもそもエネルギーの出力も高まる。

簡単に言えば、どれだけ働いても疲れにくい身体に変わるのだ。

肩甲骨がスムーズであることは、決してアスリートだけに大切な話ではなく、「肩こりがツラい」「疲労が抜けない」と悩む私たち現代人においても同じことが言える。

激痛…超ハードな「肩甲骨はがし」とは

では私がいったいどのようなケアを吉田選手に施術していたのかというと、要は「肩甲骨はがし」の超ハード版と思ってもらえるとよい。

かなり複雑になるので本書での説明は省くが、ひとつだけお話しすると、脇の下にある

前鋸筋ぜんきょきん」の停止部を押しほぐしていた。

この前鋸筋は肩甲骨を肋骨ろっこつに安定させており、ここが硬くなると肩甲骨の動きが悪くなり、肩関節の可動域まで小さくなってしまう。

だから前鋸筋が硬くならないように、グッグッと圧を加える。

彼に仰向けになったまま「バンザイの姿勢」をしてもらい、私の手や足先を使って、肩甲骨の内側にある筋肉に刺激を入れる施術を毎回していた。

前もって断っておくが、この前鋸筋のケアには激痛がともなうことが多い。

それは中臀筋などと同じで、“これまでおそらく触られたことがない場所”だからだ。

吉田選手も最初の頃はかなりツラかったはずだが、持ち前の我慢強さを発揮して耐えてくれた。

【図表】前鋸筋
出典=『世界が認めた神リカバリー』(サンマーク出版)

肩をまわすときの動きが劇的に変わる

私が不在のときには、当時まだ体格の小さかった彼のお子さんに、仰向けになった状態で脇の前鋸筋に「足で乗ってもらって」まで、肩甲骨のセルフケアを習慣化していた。

それでは次のページで、吉田選手などに行っているケアの簡易版をお伝えする。これは前鋸筋よりも広背筋こうはいきん大円筋だいえんきんといった肩甲骨まわりの筋肉や、大胸筋だいきょうきんなどの鎖骨さこつにくっついている筋肉にアプローチして、ほぐしていくトリートメントになる。

もしかしたら、最初は悶絶するほど痛いかもしれない。

ただし実際にやってみるとわかるが、ケアする前と後で、肩をまわすときの動きがまったく別物に変わる人もいるだろう。

触られたことがないカチカチの筋肉をほぐすだけでも、肩をまわすのが段違いにスムーズで、楽になるのだ。

【図表】肩甲骨トリートメント①
出典=『世界が認めた神リカバリー』(サンマーク出版)
【図表】肩甲骨トリートメント②
出典=『世界が認めた神リカバリー』(サンマーク出版)

「肩こり」に当てはまる英単語はない

そもそも日本でなぜ「肩甲骨はがし」のような健康法が流行したのか。

それは、「肩こり」が国民病のような慢性的な疾患だからだろう。

厚生労働省の統計データによると、「病気やけが等で自覚症状のある人」が抱える症状の順位で、肩こりは男女とも2位。

日本人は人口1000人中、男性は53.3人、女性は105.4人が肩こりに悩んでいる。

【図表】日本人の不調トップ5で「肩こりが2位」
出典=『世界が認めた神リカバリー』(サンマーク出版)

欧米諸国の「肩こり人口」のデータはあいにく見当たらない。

肩こりにピッタリ当てはまる英単語がない、ともよく言われる。

実際、私はヨーロッパに数年住んでいて、肩こりに悩んでいる人に出会ったことはそれほど多くない。

それもそのはずで、彼らは肩ではなく、首や背中がこると認識しているのだ。

気になる「日本人の身体構造」

ただそれでもなお、「肩こり」の原因に関して、ひとつ気になる点がある。

欧米人と比べると、「日本人の多くは肩甲骨まわりがとても硬い」のである。

木谷将志『世界が認めた神リカバリー』(サンマーク出版)
木谷将志『世界が認めた神リカバリー』(サンマーク出版)

欧州系選手の奥さんを施術した際に、彼女はトレーニングをしているわけではないのに、日本人の女性よりも肩甲骨が浮き出ていて驚いたこともある。

推測に過ぎないが、日本人に肩こりが多いのは「体型由来」でもあるのではないか、と感じている。

日本人、つまり黄色人種の特徴は、頭が大きくて、肩幅が狭い。“農耕民族”由来の体型だ。

しかし欧米人は真逆で、頭が小さくて、肩幅が広い。“狩猟民族”由来の体型である。

前者の黄色人種は肩こりになっても当たり前、と言いたくなる身体構造が見てとれるのだ。