トレーナーの木谷将志さんが契約を結ぶサッカー選手たちは、1試合に約10キロを走る。木谷さんは「だからこそ、わずかなエネルギー効率が選手生命を左右する。市井の人も、エネルギー効率がよくなれば生活が豊かになる。そこに関わる最も大切なものが『股関節』だ」という――。

※本稿は、木谷 将志『世界が認めた神リカバリー』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

オフィスの会議室の机の下のショット
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股関節は「身体のエンジン」である

まず最初にはっきりと、結論からお伝えしておこう。

股関節こそ、身体のエンジンである。

私はそう思っている。

エンジンである股関節がうまく動かないと、全身のどこもうまく動かない。

早く疲労回復をしたい、痛みや不調をなくしたい。

そう思うのならば、まず初めにアプローチすべきは、エンジンである股関節だ。

股関節がスムーズに動かせるようにメンテナンスすれば、疲労がたまらない身体へと近づいていくはず。逆に言えば、股関節がつまっていると、「なんだか疲れが抜けない」という状態が続くことになる。

放置すると不定愁訴の原因になることもある。

身体の疲労を取って、前よりも元気な状態にリカバリーするためには、股関節まわりのトリートメントが絶対に欠かせないのだ。

その状態は、「自転車のペダル」をイメージするとよくわかる。

正常で健康な股関節は、油を差したばかりの自転車のペダル。

乗り手はラクラク漕げるし、まったく疲れない。

スピードも面白いように出るものだ。

反対に、錆びついたペダルは漕いでも重たく、なかなか前に進まない。乗り手は不快で疲れるばかり。

そんな錆びて重たい自転車の究極形が「腰痛」や「肩こり」だ。

つまっているのは股関節なのに、影響はほかの場所へと波及する。

そこまで深刻化する前に食い止めたい。

ちなみにあなたは、左記のような行動に思い当たる節はないだろうか?

股関節がつまりやすい人の特徴を挙げておこう。

股関節は人体で「最大の関節」

股関節がつまりやすい人の特徴

□ 運動不足気味である
□ 歩幅が狭い
□ デスクワークなど座る姿勢が多い
□ ずっと座っていると下半身に疲れが出る
□ 足をよく組む
□ 反り腰の姿勢になりやすい
□ 猫背の姿勢になりやすい
□ 筋トレが好き

そもそも「股関節」とは何か。

その特徴について説明しておきたい。

股関節とは、両足の付け根に位置する「人体最大の関節」。

ほかの関節よりも大きい理由は、人間が立ったり歩いたりする際に身体を支える、という重要な役割を担っているからだ。

股関節はあらゆる動作の起点となり、まるで人体の「司令塔」のような存在である。

人が動くときにはまず股関節が動き出し、その動きが連鎖的に末端の関節へと伝わっていく。

つまり、股関節は単にエネルギーを生み出すだけではない。それを全身へと伝達する力をも備えているということだ。

まさに、私が股関節を「エンジン」と呼ぶ理由がここにある。

体重の10倍近い負荷が集中することも

試してみてほしい。

椅子に座った状態から、立ち上がってほしい。

ただし、「上半身をまったく動かさない」という条件で。

少しでも前に傾いたり、後ろに傾いたりしてもダメだ。

さて、答えはおわかりだと思う。

おそらく、椅子から立ち上がれる人はいないだろう。

上半身を動かさないことで、股関節が動かないようにロックされた状態になっているからだ。

私たちの身体が大きく動くとき、まず初めに動くのが股関節なのだ。

それだけ常に動き、酷使されているので、当然ながら股関節には非常に大きな負担がかかっている。

たとえば片足で立つだけでも通常の約3〜4倍の負荷がかかる。

走ると体重の4〜5倍、早足で歩けばなんと体重の10倍近い負荷が股関節に集中する。

さらに、階段の上り下りや、椅子から立ち上がる際には、体重の6.2〜8.7倍もの力が加わることもある。

これらの負荷の話は、「ひざの関節」への負担の例としてよく使われてきた。

しかし、誰も「股関節」にまで負荷がかかっているとは思わなかっただろう。

人体に2つしかない特殊構造の関節

人体最大の関節である股関節にも当然常に大きな負荷が襲ってくるので、関節を守るために安定した構造が不可欠なのである。

だから股関節は、ほかの関節とは異なり、「球関節きゅうかんせつ」というボールのような構造になっている。「球関節」とは、球(ボール)と受け皿のような組み合わせから構成される、自由度の高い関節だ。

人体には約260の関節があると言われるが、このうち「球関節」という特殊な構造になっているのは、股関節を含めてわずか2つしかない(もうひとつは、肩と腕の付け根にある「肩関節」)。

ある意味、それだけ特別扱いされている関節とも言える。

少しだけ専門的な言葉を使うことをお許しいただきたい。

股関節とは、大腿骨だいたいこつ(太ももの骨)の上端にある球状の「大腿骨頭だいたいこっとう」と、大腿骨頭の約5分の4を包み込む受け皿状の「寛骨臼かんこつきゅう臼蓋きゅうがい)」から構成されている。

大腿骨頭と寛骨臼が接する面にはクッション的な「関節軟骨」があり、股関節のまわりにはさまざまな筋肉や腱がついている。

【図表】股関節の構造
出典=『世界が認めた神リカバリー』(サンマーク出版)

股関節まわりについている筋肉の数は23~24もあり、おそらく人体で最も頑丈に守られている。

だからこそ、私たちは足を前後左右、自由に動かせるし、動いたときの衝撃や負荷にも耐えられる安定した構造になっている。

便利なオンライン仕事が「腰痛」を呼ぶ

だが近年、そんな股関節の利点を最大限に活かすことができず、足を自由に動かせない人が急激に増えている。

オンラインで仕事や雑用ができるようになり、ネットショッピングや宅配サービスも充実したために、座りっぱなしの日本人がさらに増えた。

デスクワークで長時間同じ姿勢で座っていたり、歩行量が減ったりすると、股関節まわりの筋肉を動かす機会が激減。

それに伴い、股関節周辺の筋肉は硬くなり、「伸ばす」「縮める」がうまくできなくなってしまう。

結果として、股関節まわりに違和感や痛みが生じることになる。

長時間同じ姿勢のまま過ごすことは、血管を固定され続けるようなものなので、流れが悪くなるのも筋肉が縮むのも、当たり前と言える。

股関節の可動域も、当然、狭まってしまう。

腰痛とは、そんな股関節のつまりによるダメージが顕在化した症状だ。

たとえ腰痛などの自覚症状がなくても、ハイブリッド勤務のせいで股関節がつまっている人は多いので要注意だ。

そんな状態は「股関節疲労の予備軍」と捉えて、自分なりに警戒すべきだ。現代においてはむしろ、股関節がつまっていない人のほうが珍しいのかもしれない。

股関節が「肩こり」さえも引き起こす

股関節がつまり気味の人は、腰痛だけを起こしやすいわけではない。

木谷将志『世界が認めた神リカバリー』(サンマーク出版)
木谷将志『世界が認めた神リカバリー』(サンマーク出版)

歩行や姿勢の維持に支障をきたし、さまざまなトラブルに見舞われやすくなる。

意外に思われるかもしれないが、「肩こり」の原因となることもある。

股関節がつまって可動域が狭くなる。

座っているときに上半身が前後へ引っ張られる。

背中が張る。

肩や首がこる。

これは、非常によく見られる負のスパイラルである。

オフィスの自席で肩の張りを感じて、手を当てている女性
写真=iStock.com/PrathanChorruangsak
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「股関節がつまる=周辺に痛みが出る」だけでは終わらない。

「自分はよく運動をしているから股関節は柔らかいはずだ」

そうおっしゃる方も多いのだが、油断は禁物である。

運動を習慣化している人でも、現役アスリートでも、股関節がつまっていることがほとんどなのだから。世の中の99%の人が「股関節つまり」、あるいは「かくれ股関節つまり」と言ってもいい。中臀筋を筆頭に「股関節」まわりの筋肉の機能が下がると、エネルギー消費が無駄に大きくなるし、腰痛やひざ痛、前十字靱帯の障害、アキレス腱炎、仙腸関節障害などの問題が起こりやすくなる。