※本稿は、木谷 将志『世界が認めた神リカバリー』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
なぜバレリーナでさえ腰痛になるのか
多くの人が、腰痛を抱えている。
軽度な人から、深刻な人まで。
厚生労働省によると、腰痛の患者数は2800万人。日本人の8割以上が、生涯で一度は腰痛を経験するという。
読者の皆さんもご経験があるのではないだろうか。
「腰痛になったのは、運動不足で身体がガチガチになっているからに違いない。明日から、お風呂上りのストレッチを日課にしよう」
腰痛に見舞われた人の多くは、これまでの生活習慣をガラリと変えて、こんなツラい腰痛はもう卒業したいと改善策を試みる。
では、ストレッチすれば腰痛のような不調がすべて改善するのだろうか?
答えはノーだ。
私はたくさんのアスリートを診てきた。
だからこそ知っている。
最も身体が柔らかいと思われる「バレリーナたち」の多くでさえ、「腰痛」に悩まされていることを。
あるいは身近なところでも、ヨガやピラティスで先生と呼ばれる講師たちの多くが、腰痛に苦しんでいることを。
「筋肉の鎧」だけでも腰は守れない
もし十分に身体を動かしていて、身体がほぐれることで腰痛がなくなるのならば、バレリーナたちが腰痛になるはずはない。
一般人よりもはるかに身体が柔らかいヨガの先生たちにも、同じことは言える。
しかし現実には、彼ら彼女らの多くが腰痛を抱えている。
「それならば、筋トレで筋肉の鎧をつけて、腰を守ればいい」
そのような考え方もある。それで改善することは大いに有りうる。
だが一方で、筋肉の鎧をまとった「ボディビルダーたち」の多くも腰痛に悩まされているのは、なぜだろうか。
結局のところ、バレリーナは筋肉を「伸ばす」が得意で、ボディビルダーは「縮める」のが得意という“偏り”が関節をつまらせ、腰痛を招いている。
だから、読者の皆さんが身体の不調に悩んでいるならば、「どこの関節がつまっていそうか」、おおまかでよいので、まずは探し出すことから始めよう。
筋肉には3つのスイッチがある
それでは、関節がつまることなく、スムーズに動くためには、どうすればいいか。
それは関節まわりの「筋肉」にスイッチを入れることだ。
スイッチを入れる方法には3種類ある。
ひとつめは「伸ばす」。
これは主に、ストレッチで行われる。
ふたつめは「縮める」。
これは主に、エクササイズで行われる。
最後は、「ほぐす(緩める)」。
これは主に、指先を使って患部を押し込んだり、強めに圧力をかけたりして行われる。カチカチに硬くなっている筋肉に圧をかけて刺激を入れることで、筋線維をほぐして、緩めることができる。
本書で紹介するトリートメントの7割ほどが、この「ほぐす」タイプだ。
親指などで、グッグッグッとリズミカルに押したり、グーーーーーッと強めに押し込み続けながら手足を動かすことで、硬くなった筋肉を緩めてあげる。
重い荷物で腕がパンパンに。さあ、どう揉む?
たとえ話に少しお付き合いいただきたい。
スーパーマーケットで、たくさん買い物をした日を想像してほしい。
スーパーからの帰り道で、あなたは重い荷物を両手に抱えて、10分以上も歩いてきた。
あるいは、駄々をこねるお子さんを胸に抱っこしながら、
「重たい……腕がしびれる……」
と感じながら、なんとか買い物を終えて家に帰ってきた。
自宅に戻って買い物袋を床に置いた瞬間、腕がマックスまでパンパンに張って、疲れやしびれが……。
なんとかしたいあなたは、とっさにパンパンに張っている腕をほぐしたいと思っている。
さて、そのとき、腕のどのあたりを揉んでほぐすだろうか?
知人のなかに“腕をブンブン振って血流をよくする”という回答者もいたが、できればここは「どこを揉むか」で考えてほしい。
おそらく多くの人は、疲れた腕の「真ん中あたり」、または「一番太くなっているあたり」を無意識に揉みほぐすのではないだろうか。
親指に力を込めて圧力をかける人がいたり、場所を変えながら左右から揉みほぐす人がいたり、揉み方についてはさまざまなパターンがあるはずだ。
しかし、「真ん中」や「太い部分」を揉むというこのアプローチは、じつは効率的な疲労回復にはならない。
本当に揉むべき場所は、筋肉の真ん中ではなく、筋肉の「端っこの部分」なのだ。
筋肉のなかでも「関節にかなり近い部分」と言えばわかっていただけるだろうか。
疲れを取るには筋肉の「起始」と「停止」を揉む
「筋肉」には、大きく分けると2つのエリアがある。
ひとつが「筋腹」と呼ばれるエリアで、筋肉の真ん中あたりのこと。
もうひとつが「起始・停止」と呼ばれるエリアで、関節に近い場所のこと。もっと言えば、筋肉が骨にくっついている部分だ。
私たち人間の身体には、約400もの筋肉がある。
そのうち主な骨格筋(骨に付着している筋肉)については、筋肉ごとに「起始」と「停止」の名称が付いている。
筋腹や起始・停止なんて聞いたことがない、という人がほとんどだと思うが心配は無用だ。医療や治療の関係者でも、相当マニアックな人間でない限り、普段から意識することはあまりない。
「起始」とは、筋肉の両端のうち、身体の中心に近いほうを指す。
「停止」とは、筋肉の両端のうち、身体の中心から遠く、手先足先に近いほうを指す。
そして最も大切なことだ。
痛覚の受容体は「起始・停止」に集中している。
痛覚というのは痛みのこと。
受容体というのは、刺激をキャッチするアンテナのようなものと思ってもらえばいい。
「痛覚が集中している」というのを言い換えれば、「ほとんどの痛みや疲れはココで感じている」とも言える。
経験上、筋肉の端っこにあたる「起始・停止」あたりには、少しさわっただけでビーンと電気が走るような痛点が密集している。この「痛み」はグッグッと揉んであげたり、圧をかけながら筋肉を何度か動かしたりすることで、少しずつ痛みが和らいでいく。
だから、身体のどこかに不調があるなら、まずはそこにある筋肉の「起始・停止」部分を揉みほぐすことが、最も効果的なアプローチとなる。
「数秒」の刺激で十分な効果が
疲労回復において重要な役割を果たすのは、この「起始・停止」だと断言できる。
ためしに、あなたの前腕(上腕二頭筋)をほぐしてみてほしい。
人によっては肩こりの軽減にも役立つはずだ。
まずは利き腕をグルグルと回してみて、「どれくらい動かしにくいか」覚えておこう。
図表1を見ながら、上腕二頭筋の「停止部」のあたりを確認する。
そして、力を入れやすい親指で、圧力をかけて押し込む。
少しだけ「痛みを感じる」程度に。
そうして、そのまま刺激を入れている状態で、腕を曲げ伸ばししてみよう。「あててて……」と痛みや刺激を感じるようなら、きちんとトリートメントできているから安心して続けてほしい。
逆に、「別にそれほど刺激はない」と感じるならば、「停止部」にピンポイントで親指を押し込めていないかもしれない。
もう少し刺激を強く感じる場所を探してみよう。
ただし、腕の曲げ伸ばしが続けられないくらいに痛いようなら、指の圧力を少し弱めること。
本書でお伝えしていく私のトリートメントは、決して「やればやるほど良い」というわけではない。
むしろ「数秒」でも刺激を入れるだけで十分な場合もある。
また、痛い動作を続けすぎるとかえって筋肉が収縮して硬くなるので、数回やったら終えて、また次の日にやるくらいでいい。
大切なことは「どうほぐすか」以上に、「どこをほぐすか」がリカバリーの質を劇的に変える、ということだ。
