仕事がデキる人は、何が違うのか。『「過集中」メソッド やる気ゼロからでもゾーンに入れる脳の使い方』(主婦と生活社)を書いた新井琴香さんは「“キリが悪いから”と作業を続けるのはやめたほうがいい。集中力を持続させるには入れ方と同じくらい切り方も重要だ。すぐに試せるおすすめのリセット法がある」という――。(第2回)

※本稿は、新井琴香『「過集中」メソッド やる気ゼロからでもゾーンに入れる脳の使い方』(主婦と生活社)の一部を再編集したものです。

行きかう人々
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集中力を「オフにする技術」も絶対に必要

「もう少しだけ……」
「あとちょっとだけやったら、切りがいいから」
「ここで止めたら、もったいない気がする」

そんな気持ちのまま、つい時間を延ばしてしまう。気づけば深夜に。頭は重く、目は乾き、身体もヘロヘロ。翌朝は疲れが残ったままで、回復にも時間がかかる――。これは、過集中体質の人には「あるある」の現象です。

問題なのは、集中力が切れないことではなく、集中し続けてしまって、逆に疲弊してしまうこと。そして皮肉なことに、そのせいでせっかく手に入れた集中力そのものが、日常を壊してしまう原因になってしまうことすらあります。

だからこそ、過集中体質を手に入れた人にとって必須なのが、「スイッチオフの設計図」。集中力は、「入れる技術」だけでは不十分です。同じくらい、「抜く技術」を持っていなければ、脳は長期的に持ちません。ここからは、実際に私が行っている「過集中からの切り替えルーティン」をご紹介します。あなた自身の脳にも合う「オフスイッチ」を見つけてみてください。

【STEP①時間を「決めてから」始める】

まず最もシンプルで、最も効果が高いのが、「作業を始める前に、終わる時間を決めておく」ことです。

・「このタスクは、45分だけやろう」
・「このページまで読んだら終わり」
・「19時になったら強制終了」

こうして「終わりの目印」をあらかじめ設定しておくと、脳は「終わりのイメージ」を持ったまま集中に入れます。この設計をせずに作業を始めると、脳は「無限タスク」として認識してしまうため、切るタイミングを失いやすくなってしまうのです。人間の脳は「区切り」があることで安心します。終わりがあるから、全力で走れるのです。

五感を使って、脳をリセットする

【STEP②「抜くスイッチ」を持つ】

集中を切るためには、明確な「合図」が必要です。この合図のことを、私は「抜くスイッチ」と呼んでいます。それは、あなたの脳に「ここで集中は終わりだよ」と伝える、ちょっとした動作や習慣のことです。私の場合、次のような「抜くスイッチ」をいくつか持っています。

・コーヒーを飲む(味覚で脳を切り替える)
・顔を洗う(冷水の刺激で感覚をリセット)
・部屋を出る(視界と空気を変える)
・イヤホンを外す(音の入力を止める)
・机の上を片づける(区切りの儀式)

屋上でコーヒーを飲んでいる女性
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こうした小さな動作を「合図」にすることで、過集中状態に入っている脳から、スッと抜け出すことができるのです。このとき特に効果的なのが、「五感」を使うこと。味覚・嗅覚・触覚・視覚・聴覚――どれかひとつでも「それまでと違う刺激」を与えると、脳は「モードが切り替わった」と認識しやすくなります。たとえば、

・アロマの香りを嗅ぐ
・窓を開けて風を入れる
・ストレッチをして身体感覚を変える

こうした「五感ベースのリセット」は、思考で切り替えようとするよりもはるかにスムーズです。

作業は“やりきらない”ほうがいい

【STEP③「途中でやめる」ことの価値を知る】

多くの人が持っている「やりきり信仰」。つまり、「最後まで終わらせないと気持ち悪い」という思考のクセです。たしかに、仕事や勉強は「完了」させることも大事です。けれど、「脳の性質」においては、必ずしもそうではありません。実は、途中でやめたほうが記憶に残りやすいという現象が知られています。「ツァイガルニク効果」と呼ばれています。中断された作業は、脳の中で「未完了のまま浮かび続ける」ため、再開時の集中力が高まりやすいのです。

また、「途中でやめる」と、次回へのハードルが下がります。「よし、また一から始めよう!」ではなく、「昨日の続きをちょっとやるだけ」と思えるので、行動の初速がぐんと上がるのです。これは習慣化にもつながる、大きな力です。

【STEP④「行ったり来たり」できる脳を育てる】

集中というのは、持続だけがすべてではありません。

・集中したら、いったん抜く
・抜いたら、また集中する

この“往復運動”ができることこそ、脳を疲弊させずに、成果を最大化させる秘訣です。

現代は、SNS・通知・タスク……私たちの脳を「オンにしっぱなし」にする要素があふれています。だからこそ、意図的に「切る」設計が必要なのです。自分の中に「オフスイッチ」がない人は、必ずどこかで壊れてしまいます。

私はこの状態を、「ブレーキの壊れた車」と考えています。どんなに良いエンジンがついていても、止まれなければ、それは危険な暴走車です。集中力を本当の意味で使いこなすためには、「止まれること」こそが、安全でパワフルな武器になるのです。

“脳を冷やす”ことも不可欠

ここまで読んで、「途中でやめるなんて、甘えじゃないの?」と、そんな不安がよぎった人もいるかもしれません。でも、安心してください。「切り替え」は、決して「逃げ」ではありません。それは、「また集中するための準備」です。抜いていい。中断していい。そのほうが、むしろ効率も成果も、何倍にもなります。だから今日から、「切る練習」を始めてみてください。

ほんの1分、机を離れてみるだけでもいい。飲み物を取りに行くだけでもいい。その一歩が、あなたの脳を「休ませながら、最大限に活かす」モードへと導いてくれます。集中を極めたければ、「抜く」構造を持つこと。そして、抜いたあとに「どう戻るか」まで設計してこそ、本当の意味で「集中を自在に操る人」になれるのです。

一方で、以下は、「脳が冷却を求めているサイン」かもしれません。

「集中していたはずなのに、急に頭がまわらなくなった」
「やる気はあるのに、何も浮かばない」
「SNSをぼーっと見ていたら、1時間経っていた……」

集中は、「脳の前頭葉」をフル稼働させる状態。かなりのエネルギーを要する作業なのです。その状態が長く続くと、脳はどんどん熱を持ちます。そして、一定のラインを超えると、一気にパフォーマンスが落ち始めるのです。

これは、スマホやPCが熱を持って処理速度が落ちるのと、ほとんど同じ現象。だからこそ、集中を持続させたいなら、その前に「冷やす」こと。つまり、回復の設計が不可欠になります。ここでは、私が実践している「脳の冷却テクニック」を3つの切り口からご紹介します。

オフィスの机の上で突っ伏している女性
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「90分の仮眠」で頭がクリアになる

仮眠は、最も確実で、かつ即効性のある「脳の冷却法」です。中でも私が特に推奨しているのが、「90分仮眠法」です。

【①90分仮眠法:脳を「再起動」できる究極の回復法】

90分という時間は、ちょうど「睡眠1サイクル」。レム睡眠とノンレム睡眠がひととおり巡るこの時間は、脳の記憶整理・情報定着・ストレス回復にとって最適な長さです。

私自身、仕事や育児で心身ともに限界を迎えたとき、この「90分仮眠」に何度も救われてきました。横になれる環境があるときは、なるべく光と音を遮断して休む。アイマスク・耳栓・アロマなどを併用すれば、睡眠の質はぐんと上がります。起きたあとは、まるで頭の中を誰かが整理してくれたかのように、すっきりクリアになっている感覚が得られるはずです。

これは「気のせい」ではありません。実際に脳の中では、記憶の定着や感情の整理、脳の老廃物の除去が行われていると言われています。ただし、「90分も仮眠する時間なんてとれない」という方もいるかもしれません。実際、仕事や育児、学業などで1日がびっしり埋まっていると、「90分も寝るなんてムリ」と感じるのは当然のことです。

「10分椅子にもたれる」だけでも効果がある

そんな方には、まずは休日や余裕のある日だけでも試してみることをおすすめします。一度、実際に90分しっかり仮眠をとってみると、その後の思考のクリアさ・疲労感の軽減・再集中のスムーズさに驚くはずです。

脳が「こういう休み方がほしかったんだ!」と教えてくれる感覚。まずは、その「違い」を一度、体感してみてください。とはいえ、それでもなかなか時間がとれない……という方には、短時間でもしっかり効果が出る仮眠法があります。

椅子にもたれかかって寝る男性
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【②10〜20分のパワーナップ:忙しい人のための「脳の充電」】

実は、仮眠は10〜20分でも十分に効果があります。この「パワーナップ(短時間仮眠)」は、NASAが宇宙飛行士の集中力維持のために研究し、認知機能が最大34%向上したという報告があるほど。おすすめは、午後の早い時間(13〜15時)に15〜20分程度の仮眠をとること。

・椅子にもたれて目を閉じるだけでもOK
・机に伏せるような姿勢でも可
・「寝なきゃ」と思わず、ぼんやりするだけでも効果あり

このくらいの時間なら、仕事の合間や育児のスキマにも取り入れやすいでしょう。仮に眠れなかったとしても、「脳を休ませよう」と意識するだけで回復効果があります。

時間が無ければ「1分、目を閉じる」

【③1分仮眠法:すぐできる「緊急リセットボタン」】

「もう何もしたくない」「集中力がゼロ」というときに有効なのが、「1分だけ目を閉じる」という、超短時間の仮眠法です。やり方は簡単。

①姿勢を整える(椅子にもたれても、机に伏せてもOK)
②深呼吸しながら、目を閉じる(タイマーをかけても◎)
③1分だけ、何も考えず「無」になる

この「目を閉じる」という行為には、視覚からの刺激をシャットアウトし、脳の負荷を軽減する効果があります。たった1分でも、「もう1ターンがんばれる」だけの回復が得られるはずです。

集中モードから抜けられないとき、私はよく「環境を変える」ことを意識的に取り入れています。たとえば、

・ベランダに出て3分間、空を見上げる
・キッチンや玄関など、別の場所でお茶を飲む
・カーテンを開けて、日光を浴びる
・洗面所へ行って冷たい水で顔を洗う
・トイレに立って、ゆっくり深呼吸する

こうした「ちょっとした行動」で得られるのは、外界からの刺激の変化=五感のリセットです。脳は、光・温度・音・空気の質などに非常に敏感なのです。その環境が少しでも変わると、「集中モード」から自動的に一歩引くことができます。特に光(自然光)には、「脳を再起動するスイッチ」があると言われています。可能であれば、昼間に1分だけでも、日差しを浴びる時間をつくってみてください。

タクシーや電車では意図的に“ぼーっとする”

集中しているとき、私たちの脳は「タスクモード」で動いています。でも、ひらめきや創造、情報の整理が行われるのは、実は「ぼーっとしているとき」だと、心理学では言われています。この状態を「インキュベーション(孵化ふか)」と呼びます。

新井琴香『「過集中」メソッド やる気ゼロからでもゾーンに入れる脳の使い方』(主婦と生活社)
新井琴香『「過集中」メソッド やる気ゼロからでもゾーンに入れる脳の使い方』(主婦と生活社)

やり方はとてもシンプル。スマホも触らず、音楽も流さず、ただ「ぼーっとする」。私は1日のどこかで、意図的にその時間を取っています。

・窓から雲を眺める
・手を止めて、湯気の立つコップを眺める
・タクシーや電車の中で目を閉じる

これは「脳のゴミ取り」みたいな時間です。余白ができることで、思考は自然と整い、やる気も回復していくのです。「集中したら、抜く」→「抜いたら、冷やす」→「冷やしたら、また集中する」。この「往復運動」を意識するだけで、あなたの脳のパフォーマンスは大きく変わります。

とくに、過集中体質の人ほど、「入りっぱなし」になりがち。だからこそ、自分の脳にとっての「冷却習慣」を、今すぐ設計しておく必要があります。集中は、努力ではなく設計。そして、設計の中心にあるのは「休み方」なのです。

(主な参考文献)
青砥瑞人『4 Focus 脳が冴えわたる4つの集中』(KADOKAWA)
辻秀一『ゾーンに入る技術』(フォレスト出版)
デボラ・ザック、栗木さつき 訳『SINGLE TASK 一点集中術 「シングルタスクの原則」ですべての成果が最大になる』(ダイヤモンド社)