新たな農業ビジネスが創出される

具体的な面積でいうとどうか。2022年に指定から30年経過する生産緑地の面積は1万500ha。これは東京ドーム2244個分だ。その3~5%はおおよそ300~500ha。そこに平均的な広さの住宅が建つとすると、2万7300~5万戸の住宅が新たに供給される計算になる。これは単年の着工戸数の約5~10%にあたるが……。

「試算された面積のすべてが2022年に一斉に宅地になるわけではありません。住宅の供給には、転用の届け出、開発許可、建築確認といった各種手続きから着工、販売まで一定の期間がかかります。開発規模によってその期間が異なることを考えると、生産緑地から転用された宅地に建つ住宅も、複数年に分けて供給されます。単年における影響はほとんど無視していいレベルでしょう。

また、試算に用いたアンケート調査結果は、一連の制度改正前のもので、制度周知が進めば、宅地転用される割合はもっと小さくなるでしょう」

シミュレーションの結果は、2022年に大量の農地が一斉に宅地転用されるというイメージとかけ離れたものになった。どうやら2022年問題を理由に、慌てていまのうちに土地を処分したり、2022年まで住宅を買い控える必要はなさそうだ。

注目したいのは、むしろ2022年以降も宅地化されない農地が都市部に大量に残り、その用途が規制緩和されたという点だろう。先述の通り、生産緑地の宅地転用を防ぐための法改正・法整備で、直売所や農業レストランなどの設置が可能になり、市民農園業者への貸付けも容易になった。これが意味するところは大きい。

「今後は外食産業が農地にレストランを開いたり、農業法人が食品加工所をつくるケースが増えてくるでしょう。また、ビジネス的な展開だけではなく、コミュニティレベルで地域の賑わいを創出する動きも期待されます。たとえばすでに、『農家の納屋を改装したシェアキッチンを地域に開放し、近所の主婦などがそこを利用して、農家が栽培した野菜をピクルスなどに加工、販売する』というコミュニティビジネスにつながる取り組みを準備している農家もいます。いずれにしても、都市農業は今以上に地域住民に身近なものになるでしょう」

人口が増え続けた時代、都市部の農地は宅地化の足を引っ張る存在だった。しかし、人口減少期に入って空き家が目立つようになったいま、都市部の農地の価値は変わった。自然環境の保全や良好な景観の形成、防災空間としての活用など、むしろ地域の価値を高めることに貢献している。今回の2022年問題対策で、農地が地域コミュニティ活性化に一役買う動きが広がれば、農地がある地域の価値はさらに高まるかもしれない。

(文=村上敬 写真=学研/アフロ)

塩澤誠一郎(しおざわ・せいいちろう)
ニッセイ基礎研究所・社会研究部・都市政策シニアリサーチャー。専門分野は、都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発。共著に『未来がみえた! 10人のメンバーがみた地域発「チーム力」』。