宅地に転用するメリットは少ない

優遇措置の効果が大きいとすると、やはり気になるのはその反動だ。行為制限の解除とともに税制面の優遇を受けられなくなれば、生産緑地の多くが宅地に転用されると考えるのが自然である。

しかし、塩澤氏は「宅地転用は非常に限定的で、不動産市場への影響は軽微」と予測する。

「たしかに2022年問題が囁かれ始めた時点では、多くの生産緑地が宅地に転用される可能性がありました。しかし、政府がこの問題に対し2017~2018年にいくつかの法改正を行った。これにより、現状の生産緑地の多くはそのまま農地として保全される可能性が高まりました」

具体的に政府はどのような対策をしたのか。大きいのは、2017年に生産緑地法を改正して、「特定生産緑地指定制度」を創設したことだろう。ひとことでいえば、これは従来の優遇措置を10年間延長する制度。生産緑地に指定されている農地を新たに「特定生産緑地」に指定すると、固定資産税は引き続き農地としての評価が継続される(宅地に転用できない行為制限も10年間続く)。10年経過後に再度指定すれば、さらに10年間、優遇措置が延長される。また、相続税納税猶予制度の適用も継続される。

生産緑地を特定生産緑地に指定しなければ、どうなるのか。生産緑地としての指定はそのままだが、課税は宅地並みに(ただし、急激な課税増額への緩和措置として、5年間で20%ずつ段階的に宅地並みに引き上げる)。また、2022年以降に新たに相続が発生しても、納税は猶予されない。

その他、生産緑地の指定要件だった面積500平方メートル以上を300平方メートル以上に緩和することも改正法に盛り込まれた。条件が緩和されたことで、これまで宅地化農地にせざるを得なかった小さな農地も、生産緑地に追加指定しやすくなる。

さらに、行為制限の中身も緩和された。従来は農業に必要な施設しか建てることができなかったが、直売所や農家レストランなども設置可能に。また、2018年には都市農地貸借法が成立。農地を他の農家に貸し付けたり、市民農園を経営する事業者に直接貸し付けることが可能になった。自分で営農すること以外の選択肢が広がったことで、高齢化や後継者不足に悩む農家も、農地のまま保有しやすくなる。

では、2022年に宅地転用される生産緑地の面積は具体的にどのくらいなのか。塩澤氏にシミュレーションしてもらった。

考慮しなければいけないのは、次の4つだ。

(1)相続税納税猶予制度を適用しているか
(2)営農を継続する意向があるか
(3)後継者はいるか
(4)貸し付けの意向はあるか

まず、(1)の「相続税納税猶予」について。すでに適用を受けている人が営農を辞めると、猶予されていた相続税を相続時に遡って納税しなくてはいけなくなる。これは宅地転用を思い留まる大きな理由になる。

「東京都や兵庫県が行った調査を見ると、生産緑地の5~6割が納税猶予の対象。宅地転用の可能性があるのは、残りの4~5割です」

次に、(2)「営農継続の意向」についても、アンケート調査の結果が出ている。結果を分析すると、3割は営農継続意向あり。5~6割が未定。1割が継続意向なし。また、継続意向がない農家も、すべての生産緑地を宅地転用するとは限らない。東京都のアンケートでは、営農継続意向がない農家のうち、宅地転用は一部と答えた農家は約半数だった。

さらに、(3)の「後継者」は、後継者がいるのが4割弱、未定が3~4割、なしが3割。(4)の「貸付け意向」は、貸付け意向ありが48%で、意向なしで52%、という結果だった。

「これらの結果から試算すると、生産緑地を継続する農家は約81%。宅地転用が4~6%。どちらの可能性もあるのが13~15%。生産緑地を継続しない農家もすべて宅地転用するわけではないことを考慮すると、宅地転用される可能性があるのは3~5%でしょう」