ますますグローバル化が進む社会では、多様な価値観を持つ世界中の人たちと協働する力が求められています。このような時代を生き抜くために必要な「視点」とは何でしょう? 高校生を中心に、若者たちが「視座を高めて」未来を考えるユニークな取り組みを取材しました。

グローバルリーダーの講演とワークショップで、多角的な視点を身に付ける

さわやかな快晴となった祝日のお昼どき。東京都・千代田区の中高一貫校、千代田中学校・高等学校に、一人、また一人と高校生が集まってきた。同校の生徒だけでなく、他校の生徒や大学生らしき姿も交じる。生徒たちの目的は、同校で開催される「CHIYODA-SUMMIT」。国際会議でもおなじみのサミット(頂上)を名称に冠したこのイベントを企画したのは、同校校長の木村健太先生だ。

「変化が激しく課題も複雑ないまの時代に、中高生こそが未来をつくる担い手だと捉え、そのために必要な環境を提供する。それが我々教員のテーマです。生徒一人ひとりに、自分自身はもちろん、みんなも幸せになる未来をつくろうと本気で考えてほしい。そんな思いを持ってすでに高い視座で活躍している人たちと、生徒たちが出会う場をつくれないかと考えました。そうした経緯で立ち上げたのが、総長や学長、院長、理事長、会長、代表取締役社長といったトップマネジメント層の講演とワークショップによって、多角的な視点を身に付けるCHIYODA-SUMMITです」(千代田中学校・高等学校/木村健太校長)

木村先生が大事なキーワードとして挙げているのが、“視座を高める”だ。「視座」とは、物事を見たり考えたりするときの、立場や姿勢のこと。同じ物事でも、立場が異なれば見方や考え方は変わるもの。たとえば企業において、与えられた業務を遂行する一般社員と、事業全般について長期的かつ多角的な判断を行う経営者の視座は違うだろう。

「自分もみんなも幸せな未来をつくるためには、視座を高めることが必要です。そのためには、世界の第一線で活躍するグローバルリーダーたちが、どのような視点で物事を捉え、どのように行動しているのかを知るのも一つの方法だと考えました。グローバルな視野に触れ、多角的な思考を身に付けることで、生徒自身の考えが深まり、広い世界の中で活かせる力が育まれるのではと期待しています」(木村先生)

価値観の異なる人たちと交流すれば、それだけ視野も広がる

この日の講演の登壇者として招かれたのは、東京大学医学部附属病院の病院長を務める田中栄先生だ。会場に集まったのは千代田高校の生徒をはじめ、都立戸山、麻布、雙葉などの他校生、東大の大学院生、それに若手研修医ら約100人。そんな若者たちの大きな拍手に迎えられ、田中先生がマイクを握る。ロボット支援下手術に代表される先端医療、臓器移植、高齢者人口の増加や医師偏在問題といった現在の医療が置かれている状況、医師を目指す人たちに向けたキャリアパスの紹介、基礎研究や臨床研究の重要性など、講演の内容は多岐にわたった。

「看護師、薬剤師、検査技師をはじめ、多くのスタッフに支えられて医療は成り立っています。たとえスーパードクターだとしても、一人だけでは何もできません。そうした中で医師に求められるのは、知識、スキル、共感力、コミュニケーション力、そして責任感とリーダーシップです」(田中先生)。国内最高峰の医学部附属病院でトップに立つ医師の言葉に、生徒たちが真剣な表情で耳を傾ける。ノートやPCにメモをとる姿も多く見られた。

田中 栄先生
田中 栄先生
国立大学法人 東京大学医学部附属病院 病院長
東京大学大学院 医学系研究科 外科学専攻整形外科学教授
1987年、東京大学医学部卒。米国イエール大学医学部への留学を経て、整形外科医としての研鑽を積む。2023年より現職。高度な医療の提供と、患者中心の医療の実践を目指している。

質疑応答の時間がとられると、次々に手が上がる。せっかくのチャンスを逃してなるものか、という熱意がそれぞれから感じられた。その中から一つ、医学部を目指す高校生からの「勉強以外でいまやっておくべきことは何ですか?」という質問に対する答えを紹介しよう。

「医学部志望だからといって医学のことばかりに興味や関心を向けるのは、医師になったときの広がりに欠けるような気がします。たとえば、音楽やファッション。何でもいいから自分の好きなことを見つけて、そこにも一生懸命に向き合ってみてはいかがでしょう。何事も中途半端にせず、熱心に突き詰めることが大事です。そしてもう一つは、いろいろな人と知り合うこと。医学部に進学すると周りが医学部生ばかりになります。だから他の大学に進学した人や、高校の先輩後輩、アルバイト先でのつながりを大切にし、また機会があれば海外留学もしてみましょう。国内外のさまざまな世代、価値観の異なる人たちと交流すれば、それだけ医師としての視野も広がります」(田中先生)

グループで意見を出し合うことの面白さや重要性に気付く仕掛けとは?

講演の後は、研修医、大学院生、学部生、高校生が参加する「未来づくりワークショップ」が行われた。5〜6人ずつ、計14チームに分かれて、まずはアイスブレイク。お互いに自己紹介を終えて緊張もほぐれたら、課題1「『大切だと思うこと』の“変化”を知るワーク」に取り組む。田中先生の講演を聞く前と聞いた後で、大切だと思うことにどのような変化が生じたか。それぞれが思いつくままに意見を挙げていく。田中先生も生徒たちの輪に交ざり、楽しそうに課題に取り組んだ。

ワークショップで活用したのが、抱えるほどの大きさの丸い段ボールだ。輪になったチームメンバーがそれを膝にのせると、円卓を囲っているような状態となる。そこにふせんを貼ったり、直接メモを記したりすることで、ディスカッションが可視化されるのだ。ホワイトボードを使うよりも、みんなで一つの議論をしている気持ちが高まるという。誰のどんな意見も共有されるため、グループで意見を出し合うことの面白さや重要性に生徒たちは気付いたようだ。

課題2は「未来構想ワーク+紙芝居」。講演や課題1を踏まえて「どんな未来をつくりたいか」を話し合い、そのアイデアを紙芝居としてまとめる。そして完成した紙芝居を、ほかのチームに向けて発表するという取り組みだ。紙芝居というよりは、プレゼンテーション資料を限られた時間内に即興で制作するワーク、といった趣である。

「みんなが視座を高めてディスカッションすることで、これからどういう未来をつくっていくべきか、そのために何をすればいいのか、素晴らしいアイデアがどんどん出てくる。このサミットに参加したことをきっかけに、明日からの行動が少しでも変わってくれたらうれしいなという思いがあります」(木村先生)

各チームが発表を終え、サミットは終了した。長時間のプログラムだったものの、どの顔もとても晴れやかだ。千代田中学校・高等学校では、今後も不定期に開催を予定している。今回同様、サミットの思いに賛同する近隣の高校や大学からも参加者を募るという。

千代田中学校・高等学校 校長/木村健太先生
千代田中学校・高等学校 校長/木村健太先生

 

参加した高校生の声

グループで意見の出し合いをして、いろんな見方を学べた。私たちはお客さんではなく、これからの未来をつくるためにここに来ていることを実感しました。

今の医療の実態というものを現場の立場から聞くことができ、とてもためになった。また、今のうちからすべきこともたくさん教えていただき、これからの過ごし方の意識が変わりました。

目標を共有できる仲間を持つことが大切というお話を聞いて、「医者になりたい」という自分の目標を応援してくれる友人がいることの重要さをあらためて感じ、感謝したいと思いました。

このイベントに参加して「自分」の質が上がった気がします。東大病院長というすごい肩書をお持ちの先生でも、可愛い笑顔やユーモアを持っているんだなーと思いました。

たくさんの方が積極的に参加していて、自分では考えもつかない意見が出てきてとても楽しかったです。高校生の今からできることはたくさんあるなと感じました。

この熱い思いを自分だけにとどめない。誰かに伝えてこそ世界を変えられる。

休憩タイムには、あえて違うチームの人たちと会話するよう促すことで、よりコミュニケーションの輪を広げる工夫も。

千代田中学校・高等学校の説明会

3月21日(土)千代田中学校の授業体験会が開催される。小学生は先生方の特別授業を体験でき、その間、保護者の方は木村校長から学校のビジョンを聞くチャンスも。なお、千代田中学校・高等学校の来年度説明会スケジュールはHPに後日発表されるとのこと。