2001年、日本においてUBSグローバル・アセット・マネジメント株式会社代表取締役。その後アジア太平洋地域、米州地域最高責任者など歴任後、2012年9月より現職。アジア・パシフィック地域におけるビジネス推進、戦略策定を担当。
福島 ソトープさんは、以前UBSグローバル・アセット・マネジメントの社長を務められていたこともあり、日本の経済や金融事情などに精通されています。当時との比較において、現在の日本経済、および日本の金融機関をどう見ますか。
ソトープ 私が駐在していた2000年代初頭の日本は、まだ不良債権問題の処理に追われていました。当時と比べると世界における日本の優位性は高まっていると感じています。経済面で言えば、中国をはじめとするアジアの新興国の目覚ましい経済成長の恩恵を受ける構造が確立されました。リーマン・ショックや欧州債務危機の影響も欧米に比べると限定的です。
金融機関の財務体質も、当時と比べると見違えるほど改善しています。欧米の金融機関ほど高いリスクをとらず、バランスシートの質を注意深く管理してきたことが奏功し、日本の金融機関は海外の金融機関に比べて相対的に優位な立場にあります。
商品やサービスの面でも多様化が進みました。例えば、個人向けの投資信託の本数は当時の4倍以上に増えています。海外の金融機関は、日本の金融機関の実績から多くのことを学んでいる状況といえます。
NHK、TBSなどで報道番組を担当。テレビ東京の経済番組や『サンデー毎日』での連載対談など500人を超える経営者を取材。企業の社外取締役、経営アドバイザーも務める。
福島 では、日本の投資家の動向に変化はありますか。日本は依然として超低金利が続いており、最近の日本株の上昇はあるものの、運用の機会を海外に求めざるを得ない状況が続いています。
ソトープ おっしゃる通り、この10年間、日本の投資家は国内の超低金利を背景に、高い利回りを求めて海外資産への投資を加速させてきました。特に個人投資家はいち早く新興国市場へ投資したり、リーマン・ショック後には投資対象を株式からハイ・イールド債券ファンドにシフトしたりするなど積極的に行動しました。
国内にも全く投資先がないわけではありません。例えば、私が日本に駐在していた2001年に新しいマーケットとして誕生した日本の不動産投資信託(REIT)市場は、ファンド数、残高ともに順調に拡大し、個人の資産運用の手段として定着した感があります。
このような個人投資家の後を追う形で、ハイ・イールド債券、新興国の株式や債券、不動産などへの投資に興味を示す機関投資家が増えています。今後は機関投資家の間でも、許容範囲の追加的なリスクをとることでより高い利回りの獲得を目指すタイプの商品への需要が一段と高まるのではないかと考えています。
福島 海外の投資マネーの流れについては、どのようにご覧になっていますか。日本の投資家とは異なる特徴などはありますか。
ソトープ 総じて世界経済の低成長は当面継続すると予想され、先進国はいずれも超低金利の状況にあります。こうした環境下、少しでも高い利回りを求めるニーズは、どの国の投資家にも共通しています。さらに言えば、海外の投資家の志向は日本の投資家の志向に追随しているように思います。
また、世界の投資家が利回りの高い投資対象を追求する点は共通していますが、特定の資産クラスが選好されるというわけではありません。2008年以降の多くのイベントが起きる中、投資家の心理は楽観と悲観を繰り返し、その投資スタンスも「リスクオン」と「リスクオフ」の間で揺れ動いてきました。足元での市場心理の好転はあるものの、基調としてのリスク回避的な投資スタンスが終了したとまでは言えないと考えます。
福島 特に注目している資産クラスなどはありますか?
ソトープ 例えば、社債は注目する資産クラスの1つです。社債は株式に比べて価格変動が小さい一方で、国債を上回る利回りを得ることができます。発行企業の財務内容を詳細に分析することで、信用リスクが限定的である魅力的な個別銘柄を探すことができます。
株式と債券の中間的な性格を持つ転換社債のほか、ヘッジファンド、不動産なども、リスク回避的な投資スタンスの投資家が相対的に高いリターンを目指す際の投資対象となる資産クラスであると考えます。