■編集部より指令

男社会の暗黙のルール。誰かに教えてもらえるものじゃないだけに、知らずに地雷を踏んだり、仕事が空回りしたり、主張が通らなかったりと悩んでいる女性も多いと思います。女性が知っておいた方が良いルールにはどんなものがあるのでしょうか。

■佐藤留美さんの回答

働く女性がマスターすべき「男語」とは -男社会のトリセツIV・女の言い分
http://president.jp/articles/-/12780

■大宮冬洋さんの回答

懇親会のはずが……

僕が新入社員としてユニクロ店舗で働いていた頃のことです。近隣の2店舗との懇親飲み会がありました。参加するのはなぜか店長と社員のみ。パートやアルバイトの人たちは呼ばれませんでした。

僕は何も考えずに指定の店にのこのこ出かけていきました。座席待ち合わせなので時間厳守でなくていいだろうと、5分ほど遅れて行った記憶があります。

到着したら、10名ほどの参加者全員がすでに着席しており、なぜか冷ややかな雰囲気。僕の挨拶を黙殺して渋い顔をする他の2店長。僕の店長と先輩社員(女性)は小さくなっています。あれ? どうしたの?

「大宮さん、ダメだよ。10分ぐらい早く来なくちゃ」

席に着くとすぐに先輩社員から小声で叱咤されましたが、僕はなぜ叱られるのかが分かりませんでした。いま振り返ると、懇親会といっても無礼講の飲み会ではなく、絶対的な上下関係を念頭に置きながら飲まなくてはいけなかったのですね。そんな堅苦しい場ならばせっかくの休日に参加しなかったのに……。

でも、遅刻したのに早退するわけにもいきません。僕は仕方なく、目の前にいる他の店の店長(男性)に話しかけました。

「ハヤシさん、一杯いかがですか?」

すると、ハヤシさんは目をむいて怒り始めたのです。

「ハヤシさんだと!? ハヤシ店長、だろうがぁ~!! キウチ店長、おたくの店では社員にどういう教育をしているんですかー!?」

子分の粗相は大きな痛手

ああ、この会社は役職で相手を呼ぶことで敬意を示さなければならなかったのですね……。僕はようやく理解しました。この場は、3人の店長たちの力関係を再構成するために設けられたのでした。

近隣の店舗とは、SV(スーパーバイザー)の管轄下で商品や人員を融通し合う仲間でありながら、常に比較されるライバル関係でもあります。ただし、格下の店長は格上の店長に遠慮しなければなりません。遠慮していると業績は上がらず、いつまで経っても格下のまま。下手をすると平社員に戻されます。

僕の店長であるキウチさんはベテラン社員ながらも社内で人望が薄く、後輩社員であるSVや店長から疎んじられていました。彼らは結託してキウチさんの粗を探し、自分たちの立場を有利にしようと考えたようです。そこに僕が遅刻&「さん」付け。カモネギです。

このささやかなケースで、男社会の2つのルールが観察されます。1つは、「子分の出来不出来は親分の面子に関わる」です。課員が業績を上げると課長が褒められる、といった公式な人事評価ではありませんよ。もっと不定形かつ生活全般にわたるものです。会社の外での振る舞いであろうとも、子分が粗相をしたら親分の面子がつぶれてしまうのです。面子がつぶれると自他に対する「勢い」が減るため、仕事面でも大いにダメージを受けます。

もう1つのルールは、「微妙なマナーで上下関係を確かめ合う」です。居酒屋での待ち合わせに5分ぐらい遅れられても実質的な損はほとんどありません。飲みたければ先に飲めばいいだけですよね。しかし、わずかな時間でも待たされたほうは立場を傷つけられてしまいます。年齢や年次、役職などで目下の者は、目上の人よりも1分でもいいので先に到着して「お待ちする」姿勢を示さなければなりません。たまに、嫌がらせのように10分前に店に着いておいて5分前に来た目下の者を恐縮させたがる人もいるので注意しましょう。

女性はルールの適用を免れることも

言葉遣いはもっと微妙なマナーです。例え話で解説します。ある男性と社内の非公式な飲み会で初めて会ったとします。彼は課長の僕よりも2歳年上の係長です。しかも中途社員なので社歴は僕のほうが上。敬語を使う必要はなさそうです。でも、年下のように接するのは気が引けます。彼とは畑違いなので、僕と同じ職場で働くことはこの先もないでしょう。2次会あたりで飲みが進んだ頃を見計らって、「ざっくばらんにいきませんか。これからはタメ口で話そう」と提案。それまでは僕のことを「大宮課長」と呼んでくれていた彼も賛同してくれました。

しかし! 楽しく話しているうちに彼は高校の先輩であり、僕の兄とクラスメイトであることが判明。「オレが1年のときの3年生なのか……」と思うと、またまた言葉遣いを微妙に修正せざるを得ません。

いかがでしょうか。働く女性が知っておいたほうがいい男社会のルールではありますが、このルールを女性が実践できるとも実践すべきだとも思いません。はっきり言って面倒くさいですし、女性や外国人の場合はこのルールの適用を免れるからです。ただし、まったく知らないと地雷を踏みかねません。「こいつはオレのことは『大宮さん』なのに同期の鈴木のことは『鈴木課長』と呼んでいる。オレをなめているのか」なんて恨まれたら大変ですからね。ルールを知らないふりをして、みんなを「さん」付けで呼びましょう。

大宮冬洋
1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に就職。退職後、編集プロダクションを経て、2002年よりフリーライターに。ビジネス誌や料理誌などで幅広く活躍。著書に『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ぱる出版)、共著に『30代未婚男』(生活人新書)などがある。
実験くんの食生活ブログ http://syokulife.exblog.jp/